表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/26

 それから暫くは、穏やかな日々が続いた。

 婚約者が決まったことで、これまでのように催物に参加することがなくなった。

 友人の家が主催するものや、カルロが出席するものには婚約者として出席し、それ以外はあまり顔を出さなくなった。

 元々結婚相手を探す為に精力的に参加していたのだから、その相手を見つけた今、それが必要ではなくなったのだ。

 リリナカーナは、カルロを知る為の時間を作りたかった。

 婚約者としてカルロがフェディントン伯爵邸に訪れる日をとても楽しみにしていたし、カルロとの時間はたとえ数分であってもとても大事に思っていた。

 会えない日は手紙を書き、会えた時は会話の中にあれこれ質問を混ぜた。

 婚約者として共に出席した催物ではカルロの友人にそれとなく話を聞いてみたこともある。

 そして早々にわかったのが、やはりカルロは薔薇姫に近しい人物の一人であるということだった。

 彼は王子殿下と同年の生まれで、生まれ月も近く、幼少の頃から親しくしていたという。

 その親交は現在にまで至る。

 王子殿下の婚約が発表されて以降、片時も離さない薔薇姫と、彼が顔見知りでない筈がないとはわかっていた。

 しかし、想像していた以上に王子殿下とも薔薇姫とも親しいようで、リリナカーナは落胆した。

 だが噂に聞く薔薇姫の主催する茶会に参加したことがないと聞いて、リリナカーナの気分は少しだけ浮上した。

 薔薇姫主催の茶会とはオデュッセイ公爵家で開かれる茶会なのだが、噂によるとこれには薔薇姫に夢中になっている殿方ばかりが参加しているらしい。

 最も、年の近い貴族女性に軒並み嫌われるか敬遠される薔薇姫の家の催物などに家の繋がりによって参加せざるおえない者以外は断るだろうし、友人をとなると、同性の友人がいない彼女には取り巻きと化した男性を呼ぶ以外ないのだろう。

 士官学校では成績は常に上位だったそうだ。

 貴族の子弟が14歳から18歳まで、四年間通う士官学校で、彼は多くの友を得た。

 そして幼い頃からの夢であった騎士の道に進み、もしかしたら最短で、騎士の中でも花形と言われる近衛騎士になれるのではないかと期待されていたらしい。

 彼は見事にその期待に答えてみせた。

 リリナカーナと婚約して一年後、彼は目出度く最年少で近衛騎士に任命された。

 近衛騎士は王族を守護する役職で、城内に配置される騎士や各領地に派遣される騎士と違い、常に王族に付き従う。

 国内の視察や外遊にも同行し、有事の際には王族の盾となる。

 騎士団の中でも屈指の実力者によって構成されるもので、近衛騎士に任命されること自体が名誉であるとも言える。


――カルロ様、それはもう熱心に薔薇姫様に尽くしてらっしゃるって、彼が近衛騎士となったのはいずれ妃となる薔薇姫様を傍でお守りしたいとのことではありませんか。 それも士官学校時代から随分と有名なことだったそうですわ。


 エルーサの言葉が蘇る。

 士官学校時代から。

 士官学校に通っていた頃も、王子殿下に呼ばれる形で城で開かれるごく近しい者だけを集めた茶会などに参加していた。

 当然、その場に薔薇姫もいただろう。

 王子殿下の寵愛が冷めぬ限り、薔薇姫が殿下の妃となるはずだ。

 そうなれば、王家に嫁いだ者にも近衛騎士から護衛が選ばれる。

 近衛騎士であれば、いずれ妃となる薔薇姫の、誰憚ることなく常に傍らに在ることが出来る。


――この一年の頑張り次第で、近衛騎士に任命されるかもしれない。 寂しい思いをさせることになるが、許してください。


 リリナカーナは、カルロが近衛騎士に任命されるかもしれないと騎士団内で言われ始めた頃、カルロ自身に言われた言葉を思い出した。

 そう言ってリリナカーナに頭を下げてみせたカルロは、本当は何を考えていたのだろう。

 事実、その後はリリナカーナに会いにフェディントン伯爵邸を訪ねて来ることも徐々になくなり、リリナカーナが送る手紙の返信だけが、二人を繋ぐ確かなものだった。

 そして無事にカルロが近衛騎士に任命された時、彼はリリナカーナよりも誰よりも先に、そのことを王子殿下に知らせた。

 幼い頃からの友人が近衛騎士となり、その喜びをこれから騎士として傍で守護する王子殿下に伝えることはわからなくもない。

 しかし、あれほど片時も薔薇姫を離さぬと有名な王子殿下の傍に、その時も薔薇姫がいたのではないか。

 推測にすぎないが、噂と垣間見える二人の様子が後押しをして、それが真実のようにリリナカーナには思えた。

 あの時、本当はカルロは、誰より先に薔薇姫にそのことを伝えたかったのではないか、と。

 考えれば考える程、自分の思い描いていた将来が翳りゆく現実を思い知るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ