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 それからリリナカーナは心を入れ替えた。

 今まで以上に身だしなみに気を配り、退屈で逃げ出すこともあった淑女教育の授業も熱心に取り組んだ。

 16歳になって、社交界デビューも果たした。

 将来の為、お茶会や夜会などにも積極的に参加し、幅広い友人も作った。

 それでもリリナカーナは婚約に漕ぎ着けることが出来なかった。

 リリナカーナの理想が高いことも一因であったが、何よりの理由は、またしても薔薇姫だった。

 リリーローズ・オデュッセイは結局王子殿下の婚約者となったが、その美しさは年々磨き上げられてゆき、どこへ行ってもその名を耳にする程だった。

 同年の男性たちは揃って薔薇姫に夢中で、そうでない者には既に婚約者がいた。

 中には婚約者がいるにもかかわらず薔薇姫に夢中になる男もいたが、それもあの薔薇姫ならば仕方がないとさえ言われていた。

 リリナカーナは、家格が同じかそれ以上で、フェディントン伯爵家に利があって、薔薇姫に夢中でなければ他に条件などなかった。

 妥協して家格が下でも我が家に利があればと沢山の男性を候補に上げたが、どの男性も最後の条件に適さなかった。

 さらに妥協して、薔薇姫に何か特別な想いを抱いていても、自分を薔薇姫と比べない男性であればと探したが、良縁には恵まれなかった。

 同じ年で、美しい金髪と対象的な銀髪、小柄で豊満でありながらしっかりとしたくびれのある魅力的な肢体の薔薇姫と背は女性にしては高く肉付きが薄く胸もないリリナカーナはよく比べられた。

 酷い者ではリリナカーナの銀髪を老人のような白髪頭だと嗤った男もいた。

 ダンスで思い切りつま先を踏んでやったが、暫くはその男の言葉を思い出して荒れていた。

 どこへ行ってもついて回る薔薇姫の名。

 なにかにつけて比較され、昔薔薇姫の登場によって突き崩されたリリナカーナの自尊心は、回復の兆しが見える度にまたしても薔薇姫の名声によって跡形もなく破壊されてしまうのだった。

 だからこそ、リリナカーナは薔薇姫が嫌いだった。

 私怨とわかっていても、視界に入れたくもない程に。

 一部の過激な少女たちのようにあることないことをまことしやかに囁いて回る真似こそしなかったが、いつか失脚してしまえばいいとは思っていた。


 そんなリリナカーナに婚約者が出来たのは、社交界デビューから1年が経った17歳の誕生日の数日後のことだった。

 父・フェディントン伯爵の友人であるロクサーヌ公爵の子息・カルロとの縁談。

 カルロはリリナカーナより2つ年上で、王子殿下とも親しく、見目の良い男性だった。

 態度は紳士的で、性格は勤勉、次男であり公爵家を継ぐことはないが、騎士団に属しており出世も見込まれている。

 ロクサーヌ公爵家との繋がりが出来ることは当然フェディントン伯爵家の利になり、正に理想的な結婚相手だった。

 何より好印象だったのが、彼がリリナカーナの前で一度も薔薇姫の名を口にしなかったことだ。

 リリナカーナは瞬く間に恋に落ちた。

 くるくると癖のある茶髪はとても愛らしく思えたし、整えられた眉の下のきりりとした榛色の瞳に見つめられるとぱっと頬が熱くなった。

 薄く形の良い唇から覗く白い歯は清潔感があり、細身だが騎士として鍛えられた体は頼りがいがあった。

 リリナカーナより頭1つ分背が高かったことも魅力的だ。

 どこを見ても素敵な婚約者に、リリナカーナはあっという間にのめり込んでいった。

 ようやく訪れた遅い初恋にリリナカーナは胸踊らせた。

 彼にエスコートされて向かう夜会のなんと楽しいことか。

 ダンスのリードも上手く、リリナカーナはいつもこうしてずっと踊っていたいと思うのだった。

 彼といれば、聞こえくる薔薇姫の名声に不快感を覚えることもなくなっていった。

 リリナカーナは幸せだった。

 彼の両親や友人に、彼に相応しい婚約者だと言われる度、失くした自尊心が蘇る。

 彼に相応しい婚約者であること、それがリリナカーナの新しい矜持を作り上げる土台になった。

 しかし、やはりリリナカーナの矜持を、幸福を打ち砕くのは薔薇姫なのだ。

 本人にそんな気はないのだろう。

 しかし、リリナカーナにとって薔薇姫とは最早疫病神に等しく蜥蜴の如く嫌う存在であって、それがどこまでも私怨であってもリリナカーナにとってはそれが全てなのだった。

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