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 マクレーバル伯爵家のマナーハウスから帰って、リリナカーナは自室で机に向かっていた。

 一方的な喧嘩別れのような別れ方をしてしまった手前、リリナカーナは素知らぬ顔でカルロを訪ねることができなかった。

 その為、リリナカーナがロクサーヌ邸を訪ねる以外で会えるように、手紙を書くことにしたのだ。

 まず基本の挨拶に始まり、体調を気遣う文面を入れ、一方的な喧嘩別れのようなものに対する謝罪を記す。

 それから、直接会って話がしたいこと。

 簡単なリリナカーナの近況と、別れの挨拶。

 リリナカーナが一番お気に入りの柄の便箋を丁寧に折って、便箋と揃いの封筒に収める。

 それから封蝋に印璽を捺す。

 そうして出来上がった手紙をカルロに届けてもらうべく、従僕に預けた。

 それが四日前の話。

 まだ社交シーズンの真っ最中なので、間違いなく都にいるはずだ。

 それにカルロは騎士団に所属しているので、シーズン外には領地に戻るリリナカーナと違って年中都にいるのだ。

 だから手紙が届いていないということはないはずだ。

 そして手紙が届いているならばもう返事があってもいいはずだった。

 しかしカルロからの返信はない。

 リリナカーナは短気な質だ。

 家族や使用人に甘やかされてお姫様のように育ったリリナカーナにとって、この家で叶わぬことなどなかった。

 リリナカーナがお菓子を食べたいと言えば、フェディントン伯爵家お抱えのシェフがリリナカーナの好きなお菓子を沢山用意してくれたし、あれが嫌だと言えばそれはすぐにリリナカーナの傍からなくなった。

 初めて薔薇姫を見て、高く育ちすぎた自尊心が折れるまで、リリナカーナはわがまま娘だった。

 三つ子の魂百までということか、リリナカーナの本質はあまり変わっていない。

 ただ自尊心が折れてから真剣に取り組んだ淑女教育の結果、微笑みの下に大抵のことを隠すようになっただけで、リリナカーナ自身は、幼いころのわがまま娘から変わっていないと認識していた。

 そして開き直ってもいた。

 どうせそれを他人に見せなければいいのだ、というのがリリナカーナの持論だ。

 だから幼い頃を知る者しかいない我が家では、リリナカーナは相変わらずのわがまま娘だった。

 待つことが嫌いで、待たされることはもっと嫌いだ。

 郵便の届く時間が近づくと、そわそわと落ち着きなく部屋の中を歩きまわった。

 そしてリリナカーナ宛の手紙がないと、イライラした気持ちのままベッドに倒れ込む。

 誰がどう見てもふて寝だった。

 しかし一人の部屋では当然それを指摘する者はなく、またそれを咎める者もなかった。

 ベッドに倒れこんでなお収まらぬいらだちに任せて枕を叩いていたリリナカーナを正気に戻したのはマリだった。

 リリナカーナは何もなかったという風を装ってベッドに腰掛け、マリに入室を許した。

「お嬢様宛にお手紙が」

 寝転がったせいで乱れた髪に目を向けても何も言わず、マリは手に持っていたものをリリナカーナに差し出した。

 それは白い封筒だった。

「どなたから?」

 待ち望んでいた返信かもしれない。

 リリナカーナの胸に期待が広がる。

「アルフェンディ・オデュッセイ様です」

 けれど淡々としたマリの声に、リリナカーナは表情を引きつらせた。

 期待は打ち砕かれ、厄介事が向こうから飛び込んできたのだ。

「そう、ありがとう」

 マリから一通の封筒を受け取って、リリナカーナは彼女を下がらせた。

 一人になった自室で、ソファーに腰をおろす。

「これ、どうしようかしら? 目を通さないのも失礼よね……?」

 見た目はただの封筒だ。

 白地に柄はなく、裏には封蝋と差出人の署名。

 当然ながら封蝋は割れていない。

 差出人の名はアルフェンディ・オデュッセイ。

 軽く振ってみても何の音もしない。

 中身は便箋だけなのだろう。

――正直アルフェンディ・オデュッセイに良い印象がないわ。 彼の所為でカルロに誤解されたようなものだし……あの無神経な顔だけ男め……。

 自分の早合点については綺麗に無視して、リリナカーナは最早逆恨みのようにアルフェンディをカルロとの不和の原因とした。

「本当、どうしたものかしら?」

 一通の封筒を手の中で遊ばせながら、リリナカーナは考える。

――出来ることなら、未来永劫関わりあいたくない。

 この封筒を開けて中身を検めるということは、差出人に関わることになる。

 爵位、家格の違いが、この手紙を無視するという選択肢を与えない。

「……私だけで考えても駄目ね、誰かに相談……誰に相談すればいいの?」

 父、母、スヴェン、そしてカルロの顔が脳裏に浮かぶ。

 父には言いづらいし、母に言えば父に伝わる。

 カルロにも父とは違った理由で言いづらい。

 選択肢を浮かべはしたが、それはあってないようなものだった。

「スヴェンは……連日押しかけるのも失礼よね」

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