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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

習作

鋼鉄と狙撃銃

作者: ネムノキ

 アスファルトを踏みしめる、1機の灰色の鋼の巨人。踏み出す足音が嫌と言うほどコンクリートジャングルに反響し、ビルの屋上からパラパラとコンクリート片が落下する。油断無く構えられた2基のガトリングが頼もしい。

 灰色の巨人を操縦するtiger66――コードネームはブラボー――は、盛大に舌打ちした。

『ブラボー、気持ちは分かるがそうカリカリするな』

 無線から三毛虎851――コードネームはアルファ――の声が響く。

『分かってますよ、隊長』

 ブラボーはそう返答するも、声には不満の色が色濃く現れていた。戦闘は開始から8分が経過し、残り時間が2分を切っているというのに、相手の姿は未だ見えない。だというのに、時たま対人用のセントリーガンの銃撃やドローンのミサイル攻撃があるせいで気が抜けない。おまけに旧市街地というステージの関係か、良くコンクリート片が降ってきてはコクピットに反響してイライラする。そして、このステージは自分達全員で選んだこともあり、文句も言えない。今も、ジャミングでレーダーが死んでいるせいで正面の画面に映るカメラの映像から目が放せない。全く、不愉快だ。

『対戦相手ミスりましたかねー』

 無責任なことを言うのは、李氏87だ。

『ちょ、おま、そんなこと言うなよチャーリー』

 笑い混じりに突っ込みらしきことを言ったのはチハタンラヴァー03だ。無線に混じる音からして、ビルを蹴り上がっているところだろう。軽量二脚らしい軽快な音だ。

『そんなこと言われましてもねー、何の戦果も無ければ弾薬費と燃料代のせいで赤字ですよ。それでも良いんですか、デルタ』

 まあ、赤字と言ってもたかが知れているので、それも有りかもしれないが、こんなストレスを抱えたまま戦闘を終えたくない。

『どうせあと1分半で終わるか……』

 次の瞬間、画面の端にデルタ BREAK DOWN の文字が浮かぶ。

『な、何?』

「何があった?」

 無線で確認すると、すぐさま返答があった。

『こちらアルファ、デルタはドローンにやられた。なお、ドローンは破壊した』

『油断しましたねー』

「チッ」

 思わず舌打ちする。チハタンラヴァー03の駆る軽量二脚の装甲は紙同然だ。さらに彼は装甲を削っていたから、コクピットかエンジン狙いのミサイルでやられたのだろう。まあ、彼の乗るチハ式軽量二脚戦車は標準機よりも安価なので、あまり懐は痛まないのだが。

「全く、油断するから……」

 画面の下のほうに赤外線の反応があった気がして、視線を下げる。

「ん?」

 だが、何も無い。

「気のせいか」

 視線を戻そうとすると、トン、という衝撃と共に画面が暗転する。

「っ!?」

 一瞬あせるが、すぐに胸部にある予備カメラに切り替えると、先ほどまでの代わり映えしないコンクリートジャングルが映る。だが、先ほどよりも強い衝撃と共に画面は暗転した。こんな正確な攻撃、無人機では有り得ない。

「こちらブラボー、何者かの攻撃を受けてカメラが死んだ!」

 すぐさま無線で連絡する。

『何者か? どういうことだ?』

『ブラボー、詳細は?』

「2発の弾丸でメイン、サブ両方のカメラがやられた! 場所はE―7交差点付近!! 敵の姿は確認出来ず!」

『狙撃手か!? 方角は!?』

「向いていた方向からして、恐らく南方向!」

 だとすると、戦闘可能エリアからして、敵がいたのはエリア端のG―7以外有り得ない。

『了解! アルファ、救護に向かう!』

『チャーリー、F―7に西方向から回り込みますー』

 すぐさま無線から連絡が来る。それに内心ほくそ笑む。これで、敵は袋の鼠だ。

「勝ったな」

 そうつぶやく。三毛虎851と李氏87は重量二脚を己の体のように駆る、クランきっての精兵だ。相手が対戦上限の四機いたところで、負けるはずが無い。

『こちらアルファ、ブラボーを確認した』

『こちらチャーリー、もうすぐG―7に着きますー』

 無線が入った瞬間、轟音が機体の外から響く。

「何だ!?」

 慌てて機体両腕のガトリングを構え直すと、もの凄い衝撃と共に視界が暗転した。



 目の前に広がった破壊の勢いが収まると同時に、『YOU WIN!』 というアナウンスが流れた。それからワンテンポ置いて被っていたステルスシートをどかし、黒と灰の都市迷彩のされた対赤外線コートのフードを脱ぐ。

「ふう」

 大きく息をはく。このVRMMO『ARMORED TROOPERS』はリアルなのは良いが、この暑さはいただけない。だが、この暑さに慣れないと歩兵としては戦っていけないという残念仕様だ。

 地面に置いた30ミリ狙撃銃 『マルマン』 を背負う。いつも思うが、この愛用の狙撃銃は長すぎる。まるで騎士の槍のようだ。やってることは盗賊のようだが。

 陣取っていたビルの屋上から階段を駆け下り、ビルの残骸の海を飛び跳ねるように進み、青白く光る 『箱』 やフィールドのあちこちに設置したセントリーガンやドローン、ジャマーとあとそれらの残骸を回収していく。回収出来る時間はあと5分ほどしか時間が無いので、手際良く進めていく。全部回収し終えた直後、視界が白く染まったかと思うと、二機の鋼鉄の巨人が並んでいるだけのがらんどうの見慣れた光景が視界を埋めた。

「ただいま」

 返事の無い言葉を吐き、静まり返ったガレージを進み、端にある机の上のパソコンにアクセスし、今回の戦利品と被害を確認する。

「セントリーガンは20機中8機が大破、残り4機が弾切れ。ドローンは5機中1機って、よりによってデストロイヤーかよ。高かったのに……。火薬は100キロ消費。しめて1620万クレジットの損害。戦利品は、対トルーパー用セントリーガン4基以外はほとんどジャンクかー、って、うわ、これ課金装備のプラズマ・ブレード!? それにこっちはアライアンス社の最新型の突撃銃!? ……確か菱餅重工が報奨金出してたから、そっち持って行って、残りで使えそうなのは、菱餅重工のロケットランチャーの砲弾18発とGF製の装甲位か。これは使うから取っておいて、残りは売却、と」

 エンターキーを押すと、すぐ売却結果が表示される。

「クエストの報奨金と合わせて、収入はしめて7531億6659万クレジット、って、やっぱりジャイアント・キリングは儲かるなー」

 だが、機体の形が残っていれば、収入は兆を超えていただろう。最後にビルの倒壊に巻き込んだのは早まったかもしれないが、負ければ収入は無かったし、いつものことだ。

「メールも来ていないし、今日はここまでにするか」

 そう言ったのち、パソコンのスタートをクリックし、ログアウトの項目を選んだ。

 こんな、孤独で楽しい日々がいつまでも続くと、このときは思っていた。


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