#2 珈琲ⅱ
また、取り出してしまった。密閉容器の中に入れられたそれは光沢を放ちながら、私を見ているかのようだ。
本日の豆はコロンビア産サングスティン。酸味が特徴の珈琲だ。電子天秤できっちり12gを量り取ると、それを挽く。ペーパーフィルターで淹れる時には、中挽きと呼ばれる程度が良いそうだ。
挽き終わった豆の薫りはまろやかな甘味を持っていた。コロンや香水のようなけばけばしく下劣った香りではない柔らかい薫り……。これがアロマと呼ばれる薫りだそうだ。
珈琲の薫りには淹れる前と後で違う薫りがあり、その成分も違うそうだ。アロマはガスのようなものであり、淹れた後の薫りとは異なる。
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珈琲の中には信じられないような薫りを持つ物もある。
例えばイリガチェフェ。エチオピア産の豆で、挽いた時のアロマは鼻につくような鮮烈な薫り。それはまるで蘭の花粉を思わせた。だが、淹れたその珈琲の薫りは、ブルーベリーのよう……いや、ブルーベリーの香りだった。あの爽やかな果実の匂い。
だが、不思議なことだ。時間が経過するとその香はラズベリーのような香に近くなっていく。より、甘くより芳醇な薫りに。マグカップの中で何が起こっているのか? それを知る由もないが、この摩訶不思議な現象……それが私にとっての珈琲の楽しみの一つである。
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淹れ終わったサングスティンを一口すすった。舌に感じる酸味。それは、舌をしびらせるようなものではなく、心地の良い酸味だった。そして、口から鼻全体にまで芳しき薫りが広がる。そして、薫りに包まれてほのかな甘味、苦味を感じた。
味は舌だけで感じるものではなく、五感で感じるという。薫り……それもまた、珈琲のもつ個性であり、淹れ方に左右されるため、一期一会の出会いだろう。そのわずかな違いもまた、その日の味となる。