白い薬
人はたくましい。勇ましい。パワフル。ど根性。パーフェクトで美しい。
午前10時30分の休み時間に突如奴らはやってきた。
「丸井くぅーん、ちょっとだけ僕らにお金貸して欲しいけどいいよね? 俺ら友達だよなぁ?」
「……」
またいつものパターンで僕からお小遣いを巻き上げる奴ら。貸したらと戻ってこない奴に渡したくないけど、殴られるのは嫌だから渡してしまう。
「さっすが! 心が広いねー丸井くぅん」
ニヤニヤと不気味な笑顔で見てくる。早くどこかに消えて欲しい。地獄に行ってくれたらベストなんだけど。
「んじゃ俺ら行くねーバイバーイ」
そう言って極道クズ野郎の3人は僕の教室から出て行ってくれた。ほんの少しだけ静まる。数秒後には何事もなかったように僕以外の人たちが雑談を始める。雑談はバラエティの話しが聞こえたりしたが、大半が先ほどの様子見てからクスクスと指を指して僕のことを笑う。
「丸井って可哀想だよなー」
「だよねー」
「ほぼ毎日だもんなー」
「……」
この教室に僕を助ける人はいない。僕を助けたらイジメのターゲットにされてしまうから。先生に伝えても「根性が足りん」って突き返されてしまい、かれこれ2ヶ月経ってしまった。我ながらよく耐えたと思うけどキツくなった。どれくらいキツイかというと……駄目だ、最悪のイメージを考えないようにしなきゃ、けして親が悲しむことはしなければ。
そう強く思いながら放課後まで我慢し続けた。
部活をしていない僕は放課後に予定はなく、いつものように家に帰ろうとしたが、ストレスが溜まったせいか身体が重い感じがしたため近所の公園のベンチに横になった。横になるとさらに倦怠感を感じて眠気もしてきた。意識がまだあるうちに親に「遅くなるかも」とメールを送った。そこからは深い穴に落ちるように眠ってしまった。
午後20時頃の公園にて
「……ねえねえねえねえねえねえね? お話聞いてくれない?」
「……」
目を覚ましたら顔を90度傾けて話しかける奇妙な顔をした人がいた。いや傾いてるのは僕がベンチの横に寝ているからで別にたいしたことではないか。気になるのは奇妙な顔はピエロのような化粧をしていた。顔はピエロだが身体はスーツを身にまとっているためさらに奇妙さを感じた。
「お、やっと目が合ったね、僕ちん嬉しいよ大変嬉しいよ、嬉しすぎて涙が流しながら狂気のコサックダンスを踊っちゃいそうだよ! まぁロボットダンスしか興味ないけどね! ウィーンて話しながらカクカク動いちゃっていいかな!?」
「……」
「その顔を見るとアレだね、僕はフォークダンスしか知りませんって思っちゃってる顔だね! 大丈夫安心していいよ、たいした恥じゃないからね! 恥は友達と踊った事が無いことだから!」
「……」
「なーんちゃって、君に友達はいないよねー、超恥ずかしい!! うぷぷぷ!!」
おいやめろ、一方的に話すコイツは何者だ? 好き勝手にトラウマを語るな。ほとんど当たっていて悲しくなった。
「その顔を見るとアレだね、おいやめろっておもっちゃってる顔だね! 大丈夫安心していいよ、本題入るからね! ハイこれ君にあげちゃう」
いきなりピエロに右手を捕まえれて手に違和感を感じた。右手に何かを握らせられそっと開くと、錠剤のような白い薬をもらった。見ると8粒入っている。
「へへへ…ついにやっちまったぜ旦那ぁ…完成したんですわぁ…わが社の薬がよぉ」
「……」
「随分と言い遅れけど僕ちんは製薬会社に勤めていてね、あこれホントだから神に誓って嘘言ってないからね。んで僕ちんは製薬会社に勤めてね、『ある人』を対象に薬を無償で渡してるんだ」
「……」
「さっきから君喋っていないけど大丈夫? もうすぐお話終わっちゃうけどいいの? 一言も何も語らないで終わる会話なんていいの? あと一言二言話したらお話済んじゃうよ」
本当にウザいと感じた。このテンションは誰に向けて話しているんだよ…
「んもぉ、わかりましたよん! その白いお薬のこと言っちゃうんだからね! べ、別に君の為に言っている訳じゃないから勘違いしないでね!!」
「……」
「そのお薬は、強いイメージをすることで本物のように具現化できる代物なんだよ。何もない空間に料理のイメージすると味や香りがしたり、色鮮やかな山や海の景色も現せる。そして君が本気になれば人も作り出せちゃうよ! 例えば好きな女の裸も……おっとあまり言いすぎると僕のバベルの塔がうずいちゃうね、反りかえっちゃうよ!! 」
「……」
聞いていて驚いた。先ほどまで考えごとが多すぎて声が出なかったが、これを聞いて本当に声が出ず、目を丸くした。そんな薬が僕の手の中にある。何も重みなんて感じなかった8粒の薬が急にずっしとしたような気がした。
「うぷぷぷ…素敵な薬でしょ? 改めて言っちゃうけど、この薬を渡す『ある人』なんだけどそれはね」
「……」
「この世に『絶望』している人に渡してまーす!!」
「……え?」
トゥービーカム