プロローグ 「僕」の日常
順次更新していきます。遅いからって見捨てないでください。お願いします。
やれやれ。僕はこの手の輩がいちばん嫌いなんだ。
心中でぼやきながら、僕はいかにもコギャル(死語か。まあいいや)のような少女ふたりを睨みつけた。
「ねえねえ、チョット私達に『付き合って』くれない♡」
街中でこんなふうに声をかけられたことはあるが、流石に駅で声をかけられるとは思ってもいなかったぞ畜生め。
「キャー、ミキってば大胆!」
そう言って片方がミキと呼ばれた少女の背中をバチンと勢い良く叩いた。痛くないのだろうか。それとも最近の女子同士のコミュニケーションは殴り合いだったりするのか?
「お断りします。早く帰って課題を終わらせないといけませんので」
そう言って立ち去ろうと背を向けたとほぼ同時に、二人分の腕力でがっちりと肩を掴まれた。
「えーマジメ君ーー?」
「課題なんかよりイイコトしようよー!」
これはコギャルとかそういうのを通り越してただのビッチなんじゃないのか。僕の認識がおかしくなければ、だが。
「将来の事を考えての学習以上に、有益な事柄はないのでは?」
「えーーー」
「ツマンネーーーー」
などと言いながらも、僕の肩を掴む力を弱める気配は微塵もない。
またあの反応をされるのか。
頭の中だけで溜息をひとつ吐いて、それから僕は財布こら学生証を取り出した。
小さく息を吸って呼吸を整えてから、いつものように僕は告げる。もう演技は必要ない。素でいくことにしよう。
「ーーいいか、よく聞け。僕 は 女 だ」
学生証の上部にでかでかと記されている文字は、「桜花女子学院」。次いで学籍番号と僕の名前が記されている。
よく訊かれるので先に言っておくが、性同一性障害ではない。気づいたらこうなっていた。本当だ。
「ぅえ、でも、ええ⁉︎」
「桜花女子学院高等部一年、三郷春香。それが僕の肩書きだ。わかったら他の相手を探してくれないか。今日は珍しく部活が早く終わったんだ、勉強くらいさせてくれよ」
「え、でも、その服装は?」
ああ、そうか。今日はジーンズとジャケットだったっけ。
「私服登校許可制だよ、桜花は」
それだけ言い残して強引に彼女たちの手を振り払い、僕はホームに駆け込んだ。
彼女たちの顔なんて見ないで来たが、どうせ鳩が豆鉄砲でも食らったような顔でもしているのだろう。
まったく、これだから品性のない女は。
どこかの小説の女嫌いな主人公のような事を毒づきながら、僕は満員電車に乗り込んだ。
……やれやれ、髪でも伸ばそうかな。邪魔だから嫌なんだけど。