弐 始まり始まり
西の空は太陽が沈んだオレンジで、東の空は星が弱々しくそれでいて主張するかの様に輝いている。
その絶景を汽車の煤汚れた車窓からは観ることなど出来ない。
ガタガタゴトガタゴトゴトガタ。
山の中を走り抜ける汽車は夏休みのせいもあってか、都会から田舎へ帰る人ばかりで皆が談話したり長旅の疲れを取る為寝たりして過ごしている。そんな中・・・・・・。
「982は、違う。983、われない。984、違う。」
長い前髪の間に瓶底眼鏡を覗かせる靑はひとりブツブツとつぶやいている。
ガッタ、ガッタ、ガッタ、ギグー、ガッタ、ガッタ。
駅に近づいたのか減速をはじめる。
時折、嫌な金属音が響くが、靑の耳には入らない。
プシュー。プシュップシュッ。
少し大きめな駅に着くと人が一斉に降りた。汽車が止まっている間に駅弁を買おうというのだ。
この時期は稼ぎ時で立ち売りのおじさんが忙しそうにせっせと働いている。
早々に用事を済ませた人がちらほらと戻りつつある中・・・・・・。
「ココ、座ってもいいかな?」
靑が――異様な雰囲気に誰も近づけない為――ひとりで座っているボックス席に、青い瞳と腰まである金髪の『ザ・外国人』な女性が座ろうとしている。
「151、われない。1152、違う。1153、われない。」
その声も当然ながら耳に届かない。
「あの~。聞こえるかな?」
正面に腰掛けた女性がいくら声をかけても反応しない。
「・・・・・・。ちょっと、人の話は目を見て聞い欲しいよ! 」
痺れを切らしたのか、両手で顔を包む様に持ち無理やり自分に向かせる。
途端、グギッと嫌な音がしたが周りの談笑によりもみ消されてしまった。
「いたいぃ。・・・・・・・・・・・・。ふえ? 」
やっと気がついた少女は、頭が追いつかずに固まっている。
「ワタシはTrudi Sommerだよ~。」
構わず、トルーディー・ソマーが自己紹介をすると、やっとのことで口だけが開いた。
「え? あ、はいっ。はろーです。ボクは、はる。えとっ、でぃす、いず、あん、ハル、ツツジモリ、です。」
英語に成っていない躑躅森靑にトルーディは思わず『くすっ』と笑って歌い始めた。
「日本の優しい嬢ちゃんよ~仲良く遊んでや~っとくれっ! てっことで、宜しくね!」
ポカンとした靑にトルーディは手を差し出した。
「え? あ、はいっ。・・・・・・え? 日本語? あっ、宜しくお願い申し上げます。えとっ、青い眼の人形・・・・・・ですか?」
とりあえず靑は、差し出された手を握ってみる。
「お~っ! ハルも『金の星』読んでいるんだ~!!」
トルーディーはブンっブンっと握手しながら、嬉しそうに笑った。
『金の星』とは、子供向けの『童謡・童話雑誌』である。
「え? トルディーさんは・・・・・・。えとっ、えとっ・・・・・・。」
トルディーさん・・・・・・大人、ですよね??
靑が狼狽える。
「因みに私は、今年で12だよ。」
それを察して教えてくれた。
「ごっごめんなさい。」
「そんなに縮こまらないでよ~。」
トルーディーが笑って言った。
「・・・・・・そう言えば、トルディーさんはどうしてひとりなんですか?」
少しだけ冷静になった靑は疑問をぶつけた。
「私は・・・・・・。まぁ、色々とね。ハルの方こそどうして?」
「ふぇ。ボクですか? えとっ、まぁ、色々です。」
うんっ。叔母さんから『至急来い。』と命令があったけど、お父さんは大学に籠もりっきりなのを叱られるのが怖くて一緒に来なかったから・・・・・・なんて、流石に言えないです。
お互いにこの話をどう逸らすか、しばし考えるのであった。




