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夜桜学園記  作者: 白熊
7/12

6.黄昏の屋上



 後味の悪さと共に雨宮の家を後にしてから、学園に戻った桜と朏。

 学園を出たのが昼に近かったこともあり、今はすでに午後の授業が始まっている時間だった。


 「お前様は授業に戻れ。私はやることがある」


 すでに恐怖の跡は微塵も見えない表情の桜にそう言われ、朏は教室へと向かった。

 授業中の教室に入るのは気が引けたが、桜と行動していなければ教師に怒られるのは経験済みだ。授業を受けるような気分ではないとはいえ、どこかでサボるのはやめておくのが無難だろう。

 なるべく音を立てないように教室に入ると、教師と数人の生徒がこちらに視線を向けただけで、誰に何を言われることもなかった。教師にすら何も言われないのは、先ほどまで桜と行動していたからだろうか。



 ―僕の全ては破滅しているんだ。そして、絵里奈もね。


 考えないようにしていた雨宮の笑顔と台詞が脳裏にふと浮かんできて、背筋がぞくりと震えた。


 「はぁ……」


 周りに聞き咎められない程度の溜息を吐いても、やはり恐怖と気持ち悪さは消えてくれなかった。

 しばらく授業は頭に入りそうもない。試験前が大変だな……。

 朏は無理やり思考を呑気にして、ぼんやりと授業を受け続けた。



 「桜、まだ帰らないのか?」

 「あぁ、用事があるのでな。今日はお前様一人で帰るといい」


 放課後、今や桜と下校するのが当たり前になった朏が声を掛けると、桜につれない返事を返された。

 生徒会長様は放課後になっても忙しいらしい。

 桜の微妙な表情の変化から、用事が何なのか予想できた朏は少し不満に思う。


 「そう拗ねるな。明日は共に帰れる」

 「……別に、拗ねてねぇし」


 クスッと笑われたことに気恥ずかしくなった朏は視線を逸らした。


 「……また、アイツのところに行くのか?」

 「お前様も来るか?」


 何度か聞かれたことのある問いに朏は無言で首を振って断る。


 「そうか。ではまた明日」


 さっさと別れの挨拶を終えて立ち去る桜の後ろ姿は、どことなく嬉しそうに見える。

 誰が好き好んで思い人の思い人に会いたがるだろう。自分以外に向けられた、嬉しそうで切なそうな桜の表情は見たくない。

 桜ほど完璧な人間が、なぜ叶わない恋に縋るのか。朏には理解できず、小さな苛立ちを募らせていた。しかしその苛立ちの根本にあるのは、自分を見てくれないことへの不満だと自分で分かっていた。だから、誰にも言えない。これは自分の我儘でしかない。

 

 まだ肌寒い風に打たれながら、朏は一人帰路についた。










 学園の屋上に続く扉を開けると、桜が予想していた通りの人物がそこにいた。放課後は屋上で夕日を眺めるのが日課らしい。

 何度も目にした夕日に照らされるその姿。何度でも見惚れてしまう自分が、桜は嫌いではなかった。


 「寒くないのか?」

 「あ、桜ちゃん! また来てくれたんだね」


 桜の呼びかけに満面の笑みで振り返る少女。

 柔らかい笑顔、柔らかく靡く髪、ふわりと動くスカート。いつも通りの少女の姿に微笑みを返す桜。

 

 「今日、雨宮の家に行ってきた」


 桜が切り出した話に、少女はハッとした。その表情がすぐに桜を心配するものへと変わる。


 「……大丈夫、だった? ついて行けなくてごめんね」


 彼女が自分を心配してくれていることが十分に伝わってきて、桜は胸の内にくすぐったいものを感じた。嬉しさが表に出てしまわないように、自分の表情筋を意識しながら話を続ける。


 「大丈夫ではなかった。……雨宮がな。奴は既に狂人と化していた。おそらくは、三上絵里奈も危険な状態にある。雨宮とCUBEを確保しようとしたが、逃げられた。逃亡先に三上を捕らえているはずだ」


 話を聞いた少女は沈痛な面持ちで口を開いた。


 「大変だったんだね。……あの女の人は、あれっきり見てないよ。パトロールして、いっぱい見回ってるけど、どこにもいない」

 「ふむ。その女にも話を聞かねばと思うが、会えないのではどうしようもない。あまり気に病むな」


 どこか自分の責任だと感じているような少女を慰めつつ、桜は数日前の出来事を思い返す。



 数日前。

 放課後の生徒会室で作業をしていた桜は、妙な気配を感じた。それは桜が知っている感覚で、普通ならば感じるはずがない気配だった。

 その気配は少しの時間で消えてしまったが、この学園の特異性を知っている桜は、「学園の何が動いたのか」を調べようと席を立った。

 その時、生徒会室に慌てた様子で少女が駆け込んできた。


 「桜ちゃん! 雨宮くんが……変な女の人といて、消えて……」


 すぐに先ほどの気配に関することだと察した桜は、少女を落ち着かせて話を聞きだした。


 放課後の散歩と称し、既に人気のなくなった園内を歩き回っていたところ、薄暗い教室の中に二つの人影を見つけた。

 一人はこちらに背を向けて立っていたので顔は見えないが、その奥に立つ人物の顔ははっきりと見えた。雨宮慧だ。学園内の有名人物はもちろん少女も知っている。


 雨宮は何やら楽しそうに話している。その相手の顔は見えないが、背中にかかる長い黒髪と、ノースリーブの赤いロングのワンピースから女性だと想像できた。

 制服じゃないから生徒じゃないんだろうけど、あんな職員さんいなかったよね?

 授業参観や大きな行事がなければ、学園は関係者以外立ち入り禁止である。少女は不思議に思うと同時に少しの不審感を抱き、こっそりと様子を伺っていた。


 楽しそうに話してるし、大したことないだろうけど……。

 少女がそう思った時、雨宮が手に乗せた何かを女性に見せるように差し出した。雨宮の手には、黒くて四角い何かが乗っている。

 女性は少しだけかがむようにしてそれを見つめて、頷いたように見えた。

 少女が不思議な心地のまま様子を見守っていると、雨宮の手にある物体が光り始めた。少女は目を離せずに、そのまま見つめ続けた。雨宮が消えていくのを。

 

 光る物体を手に、いまだ微笑み続けている雨宮。どんどん自分の体が透けていくのにも関わらず、むしろ喜びが増していくような笑顔を見せる雨宮に、少女は少なからず恐怖を覚えた。何度も見たことがあるはずの雨宮の笑顔が、とても恐ろしいものに見えた。

 そして、その雨宮を微動だにせずじっと見つめているらしい女性。その表情は見えないが、雨宮のような笑顔を浮かべているのではないかと想像し、少女の肌が粟立った。

 光る物体と共に忽然と姿を消した雨宮。謎の女性はいまだ動かずその場に佇んでいる。

 呆然とする少女の口から無意識に言葉が漏れた。


 「……消えた」


 その途端、女性がバッと首だけでこちらを振り返った。長い前髪に半分以上顔が隠れていたが、女性の開かれた目がしっかりと自分を捉えているのが分かった。

 恐怖に染まっていく脳内の片隅で、冷静に考える自分がいた。

 私の呟きが、この距離であの人に聞こえるはずがない。自分でも聞こえないほど小さな声だったんだから。

 そう考えると、ますます恐怖が自分の体に侵食してきた。


 「ひっ……」


 じっとこちらを見据える女性の口元が、笑うように歪んでいると気付いた瞬間、少女は弾かれるように走り出した。


 「桜ちゃん……、桜ちゃん……!」


 無意識に口から漏れていたのは、唯一の友人の名前だった。

 生徒会室にいる友人のもとへと、後ろを振り返らずに走り続けた。





 「あの時は珍しく取り乱していたな」


 数日前の出来事を脳内で振り返った桜は、わざとからかうように少女に言った。

 少女は少し恥ずかしそうに俯いた。


 「……すっごく、怖かったんだもん。あんな人に会ったことないし……」

 「まぁ、それはそうだろうな」 


 小さく笑う桜。少女はつられて微笑んだ後、意を決したように顔を上げて桜に力強い視線を向けた。


 「あの人は、私がなんとかしなきゃいけないんだと思う! 桜ちゃん、私がんばるからね!」


 胸の前でグッと拳を握る少女に、桜は思わず苦笑する。


 「ハァ……、あまり危険に首を突っ込むなと言いたいが、言っても止まらんのだろう?」

 「だってあの人は……私と同じ『異常』でしょう?」


 「……おそらく」と呟いた桜の顔は取り繕っているかのように無表情だった。

 びゅう、と強い風が吹いて、二人はなんとなく空に目を向ける。


 「もう日が暮れる。話は済んだし、私は帰るぞ」

 「うん。またね、桜ちゃん。気を付けて帰るんだよー」


 満面の笑みで手を振る少女を見る桜の目は優しかった。


 「咲子もな」


 そう言い残して、桜は屋上を後にした。




迷惑なほど久しぶり過ぎる更新。

いろいろあって大分遅くなりました。


いろいろあった一部↓

数年書き溜めてたデータが全部吹っ飛んだ。


じゃあもう書かねーよ!

と長いこと拗ねてましたが、地道に書き直すか…と最近復活。

細かいことは忘れたりしてるので順調な更新になるかわかりません。


ついでに

以前感想くれた人ありがとう。

感想に気付いたのはかなり後でしたが、とても嬉しかったです。

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