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夜桜学園記  作者: 白熊
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第二話



 天地学園内で一番の豪華さを誇る部屋。

それは応接室でも学園長の部屋でもなく、生徒会室だった。


 その名の通り生徒会に携わる生徒が主に使用する部屋なのだが、その煌びやかさが学園における生徒会の権力の高さを示していた。

床には歩く衝撃を感じさせない柔らかな絨毯が敷かれ、棚や照明などあらゆる物が高級感を放っている。

部屋の壁の一つが全てガラス窓になっており、部屋の隅々まで光が射している。その大きな窓からは美しい中庭や生徒達の様子がうかがえる。


窓を背にする形で置かれた大きなガラスデスクが一際存在を主張していた。デスクに添えられている革張りのチェアは、見ただけで座り心地の良さを感じさせる立派なものだ。

そこに埋もれるようにして、一人の少女が座っていた。


神縫桜(かんぬいさくら)

先月の四月九日に入学式を終えたばかりの新入生だが、一年生にして生徒会長選挙に立候補し、見事就任するという偉業を成し遂げた彼女は、学園一の知名度を獲得している。


 艶やかな長い黒髪をツインテールにした髪型は、もはや彼女のトレードマークとして周囲に認知されていた。その髪型と、平均より小柄で華奢な体躯によって、実年齢以上の幼さを感じさせる彼女だが、凛とした知性的な瞳、通った鼻筋の下に見える形の良い唇には、既に完成された美しさがあった。

 そして、服の上からでもわかる豊かな胸元、すらっと伸びる白く長い脚が、小さな体のバランスを崩すことなく配置された奇跡的なスタイルは、彼女の纏う幼さによりどこか背徳的な魅力を感じさせるものだった。


 桜はデスク上の書類から視線を上げ、小さく溜息をついた。そして床を軽く蹴ると、チェアごと窓際まで移動する。チェアの足に付けられた車輪が、小さく音を立てた。

 窓からの景色を眺めると一人の少女が目に入る。幸せそうに微笑みながら歩く少女の姿に、桜は小さく笑みを零した。


「今日も歩き回っているのか。あいつも飽きないものだな」

 桜の口調は、男性的で、断定的で、自信に溢れており、時折古風さを感じさせるのが特徴だ。

美しさと愛らしさを兼ね備えたその容姿からすると意外な印象を与えるが、男女問わず生徒からは「男より男らしい」「かっこいい」と好評だった。


「あんまり椅子でコロコロ移動すると、せっかくの高級絨毯が痛むぞ」

 先程から桜の様子を静かにうかがっていた空下朏(そらしたみかづき)が口を開いた。

桜の同級生であり、桜の一存で生徒会副会長に任命されたことで、朏は桜と共に過ごす時間が多かった。その為、桜に次いで学園内における知名度は高いのだが、朏本人は自身のことを至って普通、至って平凡、至って地味な男子高校生だと捉えている。


 とある出来事をきっかけに桜の「忠犬」として側にいるのだが、それ自体が既に普通ではないという事実に朏は気付いていない。

 朏はデスクから少し離れて置かれたソファに座りながら、テーブルのぬるくなったお茶を一口飲んだ。

 桜は朏にちらりと視線を投げてから、またチェアごとコロコロと移動してデスクまで戻る。


「お前様、貧乏性なのは仕方のないことだが、いくら自身の家計が逼迫しているからといって学園の備品まで心配しなくていいのだぞ。確かにお前様には一生買えないであろう高価な絨毯ではあるが、これが痛んだところで直ぐにでも新調されるだろう。腐るほどあるという莫大な理事長の遺産でな」

 

 桜は朏に対してだけ普段よりも饒舌に、毒舌に、楽しそうに弁舌をふるうのだ。相手が誰であろうと言いたいことは言う桜だが、朏への接し方はその比ではない。

そのため朏は、桜は口が悪いという印象を誰より強く抱いている。


「俺はお前に比べたら貧乏だろうけど、そこまで言われるほど困窮した家庭じゃねえよ!」

 毎日のことで桜の毒舌に慣れているとはいえ、その度に反論してしまう朏であった。それが桜の嗜虐心をくすぐるとわかっていても止められずにいる。

「そうか、それは済まなかった」

 桜はその言葉とは裏腹に、全く悪びれた様子もなく笑う。


「それにしても、お前の口から理事長の遺産の話が出るってことは、噂は本当だったのか」

 朏の言葉に桜はどこかつまらなそうな表情で答える。

「理事長は全ての遺産を学園の為に使うと遺書を書き残して死んだ、という噂の話か? 出処も広まった理由も謎の噂ではあるが、事実だな」


 今の天地学園において理事長といえば初代理事長、創立者である天地玄十郎(あまちげんじゅうろう)を指し、学園長と兼任している現理事長は、そのまま学園長と呼ばれるのが一般的になっている。

 ちなみに、桜は学園内におけるあらゆる噂を把握し、それが事実かどうかまで知っているようだった。少なくとも朏にとってはそう感じるほど、桜は様々な情報を網羅していた。


 その情報源はどこで、どうやって事実確認をしているのかはわからない。

朏がそれを尋ねても、「私は生徒会長だからな。学園について誰より知っていて当然だ」という言葉で済まされてしまうのだ。それが誤魔化しであることは理解できるし、忠犬である自分には教えてくれてもいいだろうという気持ちも少なからずあるが、桜が話さないのであれば今は聞く必要のないことなのだと、朏は自分を納得させている。


「ところでお前様、何故今、わざわざ貴重な授業を欠席してまでここにいると思う?」

 桜の質問を受け、朏は考える。

 貴重な授業と言うわりに、桜はよく授業を欠席している。時には学園内を歩き回り、時には図書室や生徒会室で大量の本を読み漁ったりと何かを調べているらしいのだが、朏はその目的を何も知らない。

 そんなに授業を欠席して大丈夫なのか、と朏が一度聞いてみたところ、「私は生徒会長だからな」というお決まりの一言で返されて以来、何も口出しはしないようにしている。


「いつも一人でこそこそ何かしてるのに、今日に限って俺を付き添わせたんだ。何かしてほしいことがあるんだろう? 俺はお前の忠犬だ。何にでも従うから早く言えよ」

 朏の返答に桜は嬉しそうな表情を見せる。

「さすがはお前様。忠犬としてギリギリ合格レベルの解答だ。ちなみに満点が欲しければ『学園内で起きた窃盗事件の犯人の家に行くから付いてきてほしい、という頼みだろう』とお前様は答えるべきだったな」


「そんなのわかるかー! いや、そもそも窃盗事件って何だよ。そんな事件、学園内で聞いた覚えはないんだが」

 朏の反応に満足そうな笑みを浮かべる桜。

「それはそうだろう。盗まれた物も、盗んだ犯人も私しか把握していないのだからな」

「……なおさら俺にわかるわけがないだろう。それでつまり、学園でお前の物が盗まれて、その犯人は既にわかっていて、犯人の家に盗んだ物を返せって説得でもしに行くのか? そもそも大事な物が盗まれたなら、警察か、少なくとも教師の誰かには話した方がいいんじゃないのか」

 

 桜は溜息混じりに言葉を吐き出す。

「お前様。警察や教師という大人が、子供にとって万能な存在であると思っているのならばそれは大きな間違いだ。彼らは常識や法律という大義名分の下に、子供の可能性を縮める生き物だからな。仮にそうではないとしても、今回の件に関して言えば、警察も教師も必要ないどころか、むしろ足手まといにしかならない」

 

 お前は大人に何の恨みがあるんだという言葉を飲み込んで、朏は話の続きに耳を傾ける。

「話が逸れたが、いや、お前様が逸らしたのだが、本題に戻ろう。今回盗まれたのは、厳密に言えば私自身の所有物ではない。この学園において代々生徒会長に受け継がれてきたとある物だ。警察や教師の介入が不要だというのもこれが一番の理由にある」

 

 納得できないという表情を見せる朏に、どこか楽しげに桜が言う。

「お前様のことだから、そんな大層な物が盗まれたというのに何故警察や教師が足手まといなのか、などと考えているのだろうな。私の頭脳と比べれば生きる自信を無くすほどに頭の弱いお前様にも、一からわかりやすく説明してやろう。よく聞いておくがいい」

「……今俺が思う一番の疑問は、お前はどうしてそこまで悪意を持って言葉を使えるのかということだ」

 

 朏の言葉を無視して桜は続ける。

「まず今回盗まれた物だが、これは簡単に言えばCUBE(キューブ)と呼ばれる黒くて四角い、手の平サイズの物体だ。生徒会室の奥にある、生徒会長だけが開けることを許された箱に保管されている。私はこれを回収し、破壊する為にこの学園の生徒会長になったといっても過言ではない」


 朏は驚いて声を上げたが、桜は口を挟ませる気はない様子で淡々と語り続ける。

「CUBEは生徒会長に就任している者にしか触れない。本来それ以外の者は、見ることも聞くこともできない代物だ。これは生徒だけの話ではなく、教師にも当てはまる。故に、教師と言えどもCUBEの存在を把握している者はいないはずなのだ。それなのに今回、その門外不出の秘密に守られたCUBEが消えた。この事件を、お前様はどう思う?」


 呆気に取られて話を聞いていた朏は、突然の問いに動揺しながらも必死に頭を回転させる。

「いや、えーと……学園の生徒会室に代々受け継がれてきたCUBEとやらがあって、生徒会長以外はその存在すら知らなくて、だったらCUBEを知ってる奴が犯人だよな。……どう考えてもこれまでの生徒会長か桜が犯人になるんだが」

 

 桜は戸惑いながら話す朏の様子を、楽しむように眺めている。桜が話を続ける気配がないので、朏は頭を整理させてから問い返す。

「そもそも、CUBEは何の為に造られて何に使う物なんだ。それに何年も生徒会長しかその存在を知らないって、そんなこと可能なのか? この学園はできて一、二年じゃないんだぞ。そんな怪しい物があるなら、噂好きの奴らの餌食になってとっくに町中の噂になってるだろ。で、生徒会長になる前からCUBEを知ってるお前は何者なんだよ。CUBEを破壊するのが目的って何の為だ」

 

 未だ整理しきれない思考を吐き出すように、朏は一気に捲し立てる。

 桜は少しの間をおいて静かに口を開いた。

「全て簡潔に、端的に答えるぞ。CUBEは時空間移動を可能にするものだ。使用法を聞かれれば、そう答えるのが一番だろう。しかし時空間移動の原動力、エネルギーとして使用者の精神力が対価になる。造られた目的は現状不明だ」

「え、ちょ……ちょっと待てよ」

 狼狽する朏の声が聞こえていないかのように、桜の口は言葉を紡ぎ続ける。


「何故CUBEは特定の人物、生徒会長しか知り得ないのかについては、『とある力』を使えば不可能ではない。そして私がCUBEの存在を知る理由は、その『とある力』が私には無効だからだ。理解できたか、お前様?」

「いや、全く」

「だろうな」

 そこから小一時間ほどかけて、桜は朏への説明を根気強く続けた。


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