目は語る
“キンッ!”と刃が交わる音が森に響く。だが、そんな音を聞く者は周りにはいない。つまり一対一の勝負になる。しかしソラは始めからそのつもりだった。何故狙われているのかは分からないが、標的が自分なので関係のない人を巻き込みたくなかったのだ。刃が交わった瞬間、ソラはグラトの目を見た。
「………?」
ソラは後ろに飛び、構えなおした。そして、再び前に踏み込み袈裟斬りをする。しかしそれも大剣で防がれた。そしてグラトはソラを大剣で押し返した。押し返されたソラは背中から木にぶつかり「がはっ!」と、いう呻き声を発した。すると茂みの方から何やらガサゴソと音がした。そこから二つの影が飛び出してきた。
「だ、大丈夫か?」
茂みから飛び出し、ソラにそう聞いたのはサクラだった。そしてもう一人………
「あなた、落ちこぼれのくせに何してるの?」
クレーディアだ。ソラに悪態をつきながら言っているが表情は少し歪んでいた。
「それよりも早く逃げて、二人とも。」
「私に指図しないでくれるかしら?」
「そうじゃない!相手が悪すぎるんだ!早く!」
ソラがそう叫んだ瞬間、二人の死角になっていた場所からグラトが姿を現した。
「嘘…………かの英雄が何故?」
「もしかしてさっきまで英雄と戦っていたのか!?」
サクラの言葉にソラは無言で頷く。ソラは立ち上がり刀を納刀してから抜刀をする構えをした。二人も同じく戦う構えをしたとき、グラトが言葉を発した。
「邪魔が入ったな。また別の機会に殺り合うとしよう。」
グラトはそう言いその場から立ち去った。三人は折角立ち去ってくれたので無理に追わない事にした。ソラが一息ついたとき、サクラが唐突に言った。
「少し話しが聞きたい。場所を変えよう。」
そう言いサクラはサナリスある方角に向かって歩き出した。それに続き、ソラとクレーディアがその後を追った。
三人はアルディーシャ邸のサクラの部屋に居た。
「まず、私からいいかしら?」
そう唐突に言ったのはクレーディアだ。ソラとサクラは無言で頷いた。それを確認したクレーディアはソラに質問した。
「何故あの英雄と戦っていたの?」
「俺の前に突然現れて、『勝負だ、リアンティール。』って言ってきたからかな。相手は戦う気満々だったから仕方なく。」
「そう、分かったわ。ではもう一つ。何故狙われてるのよ。」
クレーディアがソラが狙われているのはここへ来る途中に話していたからだ。
「それはわからない。」
ソラはそう言った後に「でも」と、続けようとしたが迷惑をかけたくなかったので寸前で言うのをやめた。その後クレーディアは何故か黙り込んでしまった
「じゃあ次は私だ。」
「うん。」
「今日は何故休んだ?」
あまりにも無意味な質問に思えるが、ソラにとっては無意味ではなかった。
「そ、それは………。」
「それは………、なんだ?」
「少し休みたい気分になって。」
ソラは自分の言葉にサクラが納得すると思われた。が、その瞬間、部屋中にサクラの怒声が発せられた。
「嘘をつくな!!!私は本気で心配しているんだぞ!!!!」
思わず耳を防ぎたくなるような声で怒鳴ったサクラはぶるぶると小刻みに震えていた。目には少しだけ涙が浮かんでいる。
「…………ごめん。でも、俺だけが狙われてるから。関係ない人を巻き込みたくないんだ。」
“関係ない人”。その言葉を聞いたサクラは再び怒鳴った。
「関係ない!?私達は友人じゃないのか!?ふざけるな!」
怒鳴っているサクラをクレーディアが制止しながらソラのほうに向いた。
「あなた酷いわよ。それにあなた、自分の力量わかってる?」
「分かってるよ。それでもやっぱり大切な友達を危険な目に合わせるわけには行かないよ。」
「でも、あなただけじゃすぐに死ぬわよ。」
「これでも打たれ強さには自信があるほうだよ。それに俺は死んだって構わない。」
ソラがそう言った瞬間、“パァン!”と言う音がなった。サクラがソラの目の前に立ち右手を振り抜いて立っていた。ソラの左頬は少し赤くなっている。ソラは少しの間、何が起きたのか分からなかった。しかしすぐに気付いた。そう、サクラがソラにビンタしたのだ。
「もう好きにしたらいい!」
サクラはソラを部屋から追い出した。廊下にはサクラの母親が立っていた。
「サクラがあそこまで怒鳴ることは初めてだわ。ソラ君の気持ちも分かるけどあの娘の事も考えてね。」
「はい、すいません。」
ソラは屋敷を後にした。
翌日、ソラは朝早くに支度し、小屋を出た。朝になると馬車に乗りアルティスに向かう。着いたのは出発して二時間が経った頃だった。街に着くとまず、この間来た時に話を聞いたグラトの母親らしき人の下へと向かった。
「すいません、少しお話しいいですか?」
「なんじゃ?ん?お主こないだの。」
「あ、はい。ソラ・リアンティールといいます。」
「ソラか。わしはカナミアーナ・アーマルドじゃ。それで、話していうのは………。」
「はい、グラトさんの居場所はわからないですか?」
「すまないがあのバカ息子はもう何年も帰ってきてないから何処にいるかはわからないんじゃ。」
「わかりました。」
分かりきっていたところだが、もしかしたら何か掴めると思っていた。ソラはカナミアーナと話しを終え再び街を歩く。すると後ろから男がソラに話しかけた。
「君、少しいいかな?」
そう言われソラは無言で頷く。その男はソラを人気のないところまで連れて行く。着いたところで男が口を開く。
「ボスの事、嗅ぎ回ってるのだろ?」
「!!!」
「あはは、そんなに驚かなくていいよ。僕はサディス・エングロームだ。」
「ソラ・リアンティールです。」
サディス・エングローム。そう、英雄グラトが創設したギルド、“英雄騎士団”の副リーダだ。
「ところで君は何故ボスを追ってここに?」
サディスが唐突に聞いてくる。
「昨日、グラトさんと戦ったんですけどその何て言うか………。
「何て言うか?」
「目が辛そうで、悲しそうで、そして何か助けを求めているような目だったんです。」
ソラはあの時見たグラトの目が気になっていた。
「ふふ、そうか。じゃあ君に託そうかな。」
「?」
サディスの言葉にソラは疑問符を浮かべる。
「彼はこの街の“無法者の住処”トーリアにいるよ。」
「何故それを俺に?」
「君が優しいからだよ。これは僕の直感だけどね、君が何としてくれると思ったんだよ。」
ソラはサディスの言葉に驚いた。何故そのように思えるのか気になる。だが、今はこの人に任された。だから俺がどうにかしたい!と、言う気持ちになったソラはサディスの期待に応えることにした。
「はい!絶対に何とかして見せます!」
「うん、よろしく頼んだよ。僕も直ぐに行くから。なんせあそこは無法者の住処だからね。」
ソラはサディスにお辞儀をしたあと直ぐトーリアへと向かった。サディスはソラの後ろ姿を見て呟いた。
「君は落ちこぼれじゃないよ。」
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数分でトーリアに着いたソラは雰囲気に惑わされていた。
「怖いなぁ。」
そう、ソラがトーリアに着いた瞬間そこにいた人達がソラを睨みつけたのだ。ソラは恐る恐る近くの人に聞いてみることにした。
「あの〜、すいません。少しお聞きしたいことが。」
「あぁん?聞きたいことぉ?情報料くれたら聞いてやってもいいぜ?」
「え?」
ソラが困っているようにしていると後ろから足音が聞こえてきた。
「悪いな、僕の連れだ。無償で聞いてやってくれ。」
「げ、サディス。わーったよ。で?何だ。」
(サディスさん凄い………。)
と、思いながらソラは男に質問した。
「グラトさんを探しているんですけど。」
「グラト?さぁ?ここにいんじゃねーか?」
と、男がそう言った瞬間。大剣が飛んできた。ソラは何かと思うと、大剣が飛んできた方を見た。
「あ。」
「お、ボスの登場だ。」
グラトがゆっくりと歩いて来ている。
「リアンティール…………。」
目は“助けてくれ!”と言っているようだった。グラトは大剣を手に取り構える。
「………行くぞ!」
グラトはその場で大剣を振り下ろす。
「大旋風!」
「くっ、風系魔法か!」
その場で振り下ろした大剣から風系魔法が発動されソラに襲いかかる。しかしソラはその技を、
「柳流………“獅子暴風”」
ソラが振った刀は“大旋風”にあたり、獅子の様な形になりグラトへと放たれた。
「相手の技を利用する刀術、“柳流”を使えんのかよ。」
「“柳流”………。」
サディスは少し驚いた様な顔をし、グラトは呟きながら自分に向かってきた“獅子暴風”を消し去った。
「グラトさん、術師に嵌められたんですか?」
「何故そう思った?」
「目が辛そうですよ。」
(!!!)
ソラがそう言った瞬間、グラトとは別の方から殺気を感じた。
「邪魔をするな。」
ソラは声がした方を見る。屋根の上には数人の男達。剣、弓矢、斧、槍と様々な武器を持っている。
「これ以上邪魔をすれば………殺す。」
そう言った瞬間、リーダーらしき男ともう二人がソラ目掛けて走ってきた。近くに来た瞬間。
———キンッ!
三つ、刃の交わった音がした。しかしその三つの音の中にソラの刀の音は無かった。
「な、何で……………。」
サディスは武器である剣をソラの真横でソラを守っている。サディスの反対側とソラの目の前は、
「ねぇ、一体どういうこと?これ。」
「話しは後だ。今はこの者達を撃退する。」
クレーディアとサクラだ。クレーディアはサディスの反対側で、サクラはソラの目の前でソラを守っていた。
「おぉ?ソラ君の友達かな?まぁ、取り敢えずこの雑魚どもを片付けるか。君達、ソラ君をサポートするよ。」
「「はい!」」
サディスの言葉に二人がはっきりと返事をした。
サクラが激怒しましたが、結局はソラのピンチ?にやってきましたね(^^)