予感
師匠達が特別授業をするためSクラスの生徒達などと依頼を受けに学校を出てからかなり経つ。俺達の方は今、昼食時間だ。
ソラは食堂で昼食を済ませ、教室に戻ると黒板に何やら文字が書いてある。内容は
———時間が出来そうな為、一学年の生徒を対象に特別授業をすることになったので準備が出来次第校庭に集合すること。———
(なるほど。それなら確かに関係はバレないな。多分。)
と、書いてあった。ソラは準備をして、教室を出ようとするとクラスメイトが嫌な顔をしてソラに言った。
「リアンティール、お前も行くのかよ。やめとけって、お前じゃすぐに魔物に殺られるぜ。」
ソラはその言葉を無視して教室を出ようとすると後ろから飛び蹴りをくらった。
「ぐはっ!」
ソラは前に倒れ、廊下におでこをうった。倒れたソラを見てクラスメイトが笑いながら言う。
「ふん、てめぇが無視するからだぜ!」
その後も倒れているソラに蹴りを入れてくる。すると一人の女性教師が走ってやってきた。
「あなた達、何してるの!」
「やべ、先生だ。」
ソラに暴行していた生徒達は急いでその場を走り去る。
止めに入ったのはGクラスの担任である、ユリア・カトリーナ先生だ。誰にでも優しく、出会ってからの日は浅いが、ソラが信頼出来る先生の一人だ。
「大丈夫?ソラ君。」
「は、はい。大丈夫です。」
「そう?まぁ、いつでも相談してね。じゃあ遅れずに集合するのよ。」
「はい、分かりました。」
ユリアはソラに言った後、職員室の方へと戻って行った。ソラは校庭に出る前に医務室に向かい手当てをすることにした。
「あらー、またですかー?」
「はい、すいませんいつもいつも。」
「いいのよ気にしないで。大変なのはソラ君なんだから。」
「ありがとうございます。」
ソラは医務員のサティアス・フラックインに手当てをしてもらいながら話している。彼女もまたソラに信頼されている先生の一人だ。
「はい、完了!次はSクラスと合流して特別授業するんでしょ?頑張ってねー。」
「はい、ありがとうございました。それでは失礼します。」
ソラはそう言って医務室から出て校庭に向かった。
校庭に出ると他の生徒達は集まっていた。ソラが校庭に現れるのを見て嫌そうな顔をする生徒が沢山いる。だが、ソラは慣れてしまったのかそんなことは気にしない。皆の視線を浴びながらGクラスの一番後ろに並び、座った。
先生の話しを聞いた後、Sクラスに合流するためにアルガスの森の入り口付近に移動した。
side サクラ
「このあとは一年生の全クラスを対象とした課外講演会を実施しますので、二年生から四年生の生徒の皆さんは学園に戻ってください。安全を考慮して俺以外のメンバーが付き添いしてくれますので、指示に従って行動してください。」
そう指示を出したのはハヤトだ。突然の提案で先生達も戸惑っていたのだが、結局納得した。
「では、移動を始めて下さい。」
と、ハヤトの指示で二年生から四年生の生徒が動き出す。しばらくすると、あっという間に一年生のSクラスの生徒しかいなくなった。サクラ達がいる場所は学園から遠くはなく、生徒達を送りに行っていた“黄昏の騎士団”のメンバー四人が十分程度で戻ってくる。
しばらくすると生徒達が座っている後ろ側から足音が聞こえた。足音の正体はSクラス以外のクラスの生徒達だ。
「着いたようだな。それでは課外講演会を始めるとしよう。」
ハヤトは自分の戦い方などを生徒達に話した後、ちょっとした遊びをやろうと言った。その遊びは鬼ごっこだ。どんな魔法を使ってもいいルールで時間以内全員捕まったら宿題が出る。鬼は“黄昏の騎士団”のメンバー全員で制限時間は三十分だ。
「鬼ごっこだってー。楽しみだね。」
アカリは本当に楽しみみたいで満面の笑みを浮かべている。
「アカリは昔っから子供だね。」
「むー。そんな事ないもん。」
マリが冷静に返し、アカリが頬を膨らませながら反論した。
「サクラちゃんも楽しみだよね?」
アカリはサクラに聞いた。サクラは少し微笑み、答えた。
「あぁ。そうだな。」
side END
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師匠も考えたもんだ。それで俺に逃げながら気配を察知しろと言うのだろう。
ソラはハヤトを見ながらそう思っていた。そんなソラの視線を感じてハヤトはソラの方を見る。そして、誰にもバレない様でソラにしか分からない様な顔をした。
「じゃあ十分数えるから早く逃げとけよー。」
と、ハヤトが言ったのを合図に生徒全員が様々な場所に散らばった。
ソラが遠くへ行こうと森の奥に向かって走っていると、少し離れた横の方で女子生徒が同じ様に走っているのが見えた。ソラはその生徒を見た瞬間、少し動揺したような表情を浮かべる。
(………サクラ…………アルディーシャ)
ソラは横目で走っているサクラを見た。すると、ソラは自分の前方から迫ってくる気配に気付いた。
(察知しにくい気配だけどそう遠くない。………数は…………10?)
ソラが察知した気配は十だった。次の瞬間、ソラが感じられたのはこれまた気付きにくい殺気。この殺気でソラは確信した。この気配は敵だと。
ソラは直ぐに行動に移した。
「アルディーシャさん!」
ソラはサクラに向かって叫んだ。サクラはそれに気付きソラの方を見る。ソラはサクラに近付き、サクラの前に立つように止める。
「何だ?」
サクラは頭に疑問符を浮かべながらソラに聞いた。
「引き返して下さい。」
「何を言っている。そんなことしたら捕まってしまうだろう。」
「今は命の方が大切です。早く!」
サクラに引き返すように説得するが時すでに遅し。後ろから全身が黒い服で覆われ、顔をフードと布みたいなので隠した集団が二人に向けて魔法を放つ。ソラはサクラを突き飛ばし一人でその攻撃を受けた。
「ぐはっ!」
ソラは呻き声をあげ、後ろに吹っ飛んだが、倒れずに体制を整えサクラに向かって叫んだ。
「火の玉でも何でもいいから取り敢えず赤いやつを上空に撃って!」
サクラはそれに頷き、赤い光の玉を上空にあげ、破裂させた。いわゆる危険信号だ。
ソラは刀を鞘から抜くと、敵に向かって構える。サクラも細剣を構えた。
ソラは相手の様子を伺い、ザッ!と両脚で地面を蹴り前に飛ぶように踏み込む。それを合図にサクラも敵に向かって走り出す。敵も魔法を繰り出そうとする動作をする者や武器を構え前に出るものがいる。
そして、ソラと敵のリーダーらしき人物が持つ大剣がキンッ!と言う音と共に交わった。交わった衝撃で衝撃波がうまれ、大剣を持つ男のフードが外れる。
「なっ…………。」
ソラは驚愕した。サクラもソラの驚きの声を聞き男の顔をみた。
「何故………。」
サクラもソラと同じく驚き表情をする。
そこにはかつて“英雄”と呼ばれた男がいた。グラト・アーマルドという、今となっては“闇に堕ちた英雄”と呼ばれている男が。ソラの目の前にいた。
グラトの顔には優しさという感情がない。そして、その表情でニヤリと笑った。
第一章が始まりました。感想とか待ってます(^^)