気配
翌日、ソラが寮に出るとアランとアリサがソラを待っていた。そしてアリサはソラに謝罪した。あの時アリサもアランと一緒にいたため一部始終を見ていた。
「あ、ちょっと忘れ物した。二人とも先行っといてー。」
「忘れ物?」
「うん。お守り。」
「そうか、わかった。教室で待ってるわ。」
「ソラまた後でね!」
「あぁ。」
アランとアリサは二人で校舎の中に入って行った。ソラは自分の部屋に戻り、机の中からある物を取り出し学園へと向かった。
————ガラガラガラ
教室の扉を開けた途端にソラに向けられるいつもの汚物を見るような目をするクラスメイト達。その中にこの間まで同じ目をしていた二人のクラスメイトはソラを出迎えるような目で見ていた。二人はすぐにいつもの顔に戻しソラの下へと向かった。クラスメイト達はいつものように二人がソラを虐めるとばかり思っている。しかし次の瞬間、それは壊された。
「遅かったな、ソラ!」
「ギリギリだよー。」
アランはソラの肩に腕を回し、アリサはソラの目の前に立ち、そう言った。クラスメイト達が呆然としながら三人の様子を見ている中、予鈴がなりソラの後ろからユリアが入ってくる。
「はーい、皆席につきなさーい。」
ユリアはそう言った後、ソラとアラン、アリサをみて驚いた顔をした後、微笑んだ。
H.Rが終わり直ぐにユリアは教室を出た時、再びクラスメイト達がソラに詰め寄った。しかしアランとアリサが抑えていたのもありソラは殴られるということはなかった。再びユリアが教室に入ってきてクラスメイト達は自らの席につかされた。
「じゃあ授業始めるわよー。」
授業は淡々と進められていた。一限目の授業は歴史や世界情勢のことだ。
「皆は今のこの世界の情勢は知っている?」
ユリアがそう聞いた後、生徒達の顔を見る。
「今、世界では色々な魔法使い、戦士がいるわ。“死神”のヤナトに戦う王女“戦姫”カトレア。“最強の傭兵”ザクロ・サミスティア。他にも色々な人がいるけど全部あげてたらきりが無いわ。まぁあとはーーーー」
ここでユリアは話しを止める。そして目線を扉の方へと向けた。
「誰だ!」
その言葉にクラスメイト達は唖然とするがソラだけは表情を変えていなかった。
ユリアがそう言ったあと扉の向こうにいる人物の気配が消えたのがソラとユリアにはわかった。ユリアは扉を開け、廊下を見渡した。
「逃げたか………」
悔しいそうにそう言いながら教壇に戻ってくる。クラスメイト達は一体何があったのか全く理解できていなかった。
「先生、誰か居たのですか?」
一人の生徒がユリアに聞いた。ユリアは首を横に振りながら「いいや」と返答した。
「少し気になるが、授業を再開する。」
放課後ソラとアランとアリサはサクラ、クレア、アカリ、マリと合流してサクラの屋敷へと向かった。その際に四人に二人と和解したことを言った。
「それにしてもユリア先生のあれ、なんだったんだろうね。」
唐突にアリサが今日あったことを口に出した。
「あれとは?」
サクラの返答にアリサは「うん。」と返事をし、続きを話し始めた。
「授業の最中にいきなり扉の方に向かって誰だ!って言ったの。その後に廊下を確認してたけど誰も居なかったみたい。」
アリサが説明した後、「あれは驚いたなー。」とアランが言った。サクラはというと顎に手をやり何か考え込むようにしていた。そして、顔をあげたと思うと唐突に話し始めた。
「そう言う事なら私のクラスでも同じようなことがあったぞ。なぁクレア?」
サクラはクレアに同意を求めるように聞いた。クレアは無言で頷いた。
「私のクラスではグライデア先生を含む数名が気付いた様子だったぞ。」
ダヴィッチ・グライデア。ランディアス学園でも最強と名高い先生である。
「Sクラスの生徒でも数人か………。」
「ソラは気付いたのか?」
「うん、一応ね。気配察知は得意だから。」
「気付いたのか!?」
アランが驚いたような声をあげる。そんなアランにソラは「うん。」と言って頷いた。
「ただ、敵か味方かは分からない。なんせ、奴は本体じゃなかったしな。」
「「「「「「え!?」」」」」」
ソラ以外が驚いた声をあげる。
「だってそいつから微量の魔力が感じ取れたからね。恐らく幻術魔法の類だと思う。」
「全く分からなかった。」
「普通はそんなものだよ。俺の場合は魔力がないかわりに感知する力が強いからね。」
そんな話しをしていると屋敷の屋根のところから微量の魔力を感じとったソラはすぐさま後ろへ飛び引く。さっきまでソラが立っていた場所にはクナイと言う主に“シノビ”が扱う武器が刺さっていた。
「感知だけは一人前だな、ソラ・リアンティール。」
そう言って姿を表したのは顔を仮面で隠し、マントを羽織、そのマントに付いているフードを被っている男だった。
「それはどーも。昼間のあれはあなたですよね。それにそこにいるあなたは幻術ですね?」
「流石だな。半分くらいしか本気を出していないとはいえ気付くとは………」
男はソラを褒めるように言う。しかし、ソラは表情を変えずに再び口を開く。
「一体何が目的?」
「お前に話す義理はない。」
そう言い終わると同時に屋敷の中から武器を持った人達が現れた。恐らくサクラの所で雇われている使用人か何かだろうとソラは推測した。
「いらぬ外野が来たか。まぁ今日は挨拶に来たようなものだからな。俺はこれで帰るとしよう。」
そう言い仮面の男は幻術魔法と思われる技で姿と気配を完全に消し去った。
「皆様、お怪我はございませんか?」
と、一人の使用人がソラ達に尋ねる。サクラが皆を代表してその使用人に「全員大丈夫だ。」と、答えると使用人達は屋敷へと戻っていった。
(クナイが無くなってる………。いつの間に………。)
ソラは地面に刺さっていたはずのクナイがいつの間にか無くなっていることに気付き、その事であの仮面の男の力量が少しわかった気がした。
side ユリア
ランディアス学園内にある会議室に、ランディアス学園の教諭達が集まっていた。
「それでは今日の謎の気配についてだが……。」
と、ユリアが話し始める。それに答えるようにグライデアが口を開いた。
「その件については充分に警戒をしく。」
グライデアがそう言った瞬間、どこからか声が聞こえてきた。
「その必要はない。」
「「「「「!!!!!」」」」」
その声の主は直ぐに姿を現した。仮面をつけマントを着用しフードを被っている男ーーーー
ついさきほどまでソラ達の所にいた男がユリア達教諭の前に現れたのだ。しかしユリア達はこの男がソラ達と接触していたことは知らない。
「貴様は一体!!」
「俺か?俺は……そうだな。“神”、とでも言っておこうかな。」
「神…だと?」
「あぁ、そうだ。」
「ふざけた事を!」
自分を神だと言う仮面の男にユリアは怒鳴った。
「ふざけた事を………か。まぁいい。そんなことよりも、あいつの力が暴走しないようにしておいた方がいいぞ。」
「あいつ?」
「あぁ。あいつの持つ力はこの世界を破壊出来るほどの力だ。」
仮面の男が言うあいつが誰にも分からなかった。いや、分かるはずがなかった。
「名前は言わないが、あいつはお前達が思っている以上に厄介だぞ。」
「私達が思っている以上………。一体………。」
「少し無駄話が過ぎたかな。では、俺はこの辺で失礼するとしよう。」
「あ!おい、待て!」
仮面の男はユリアの静止を聞かずに消え去っていった。
「一体誰なんだ………。」
side end
ーーーーーーーーー
翌日、ソラは森の中の小屋に向かった。昨夜ソラの部屋にハヤトから伝書鳩が届いた。内容は話があるとの事だった。ソラが小屋に着くとハヤトは座って待っていた。
「来たか。」
「はい。それで話って一体…………。」
「あぁ、実はな………。“黄昏の騎士団”は昨日で解散した。」
「なっ!?」
いきなり解散と言われたソラは驚きの声をあげた。。そんなソラを尻目にハヤトは話を続ける。
「俺達だけが解散した訳じゃないんだ。」
「え?それは一体どういう………。」
「実は昨日、パーティギルド廃止令が発令されたんだ。」
「パーティギルド廃止令?」
ハヤトは無言で頷く。
「ま、分かっていたことだけどな。」
「え?」
ハヤトの言葉にソラが驚いたような声をあげる。
「どうせあったとしてもなかったとしてもあまり関係ないからな。それに近頃パーティギルドが増えすぎて管理が大変らしいんだよ。」
「あぁ、なるほど」とソラは頷きながら納得した。ソラもその事は数回ほど噂で聞いたことがあった。その事もあってすぐに納得した。
「それと、俺とマイク達はしばらくこの国には帰ってこないからな。」
「え?何故ですか?」
「ある国について調べてくる。」
「ある………国?」
ハヤトは少し考えるようにし、意を決したかのように小さい声で「よし。」と言った。そしてハヤトが言った国名を聞いたソラは目を見開き驚いた。
「アルカサスだ。」
「!!アルカサス!?」
「あぁ。」
「で、でも何故そんなとこに!」
「実は近頃アルカサス近辺で不穏な動きがあると報告があったらしい。アルカサス国内でも人の気配が確認されてる。」
「ひ、人の気配って。でもアルカサスには誰も入れないはずじゃあ………。」
「あぁ、そうだな。だからそれを調べに行くんだ。百年前にほろんだ………“滅びの国”アルカサスにな。」
久しぶりの更新です!




