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小さな剣士

帝都にある、円形の大きな建物に沢山の腕に覚えのある者達が集まってきている。

―――ギィンッ!!―――ガキィッッ!!剣と剣がぶつかり合う音。

この建物の中心、ここで行なわれているのは闘いという名の殺し合い。

僕は今、ここで闘っている。命を賭けて。

「はっ!どうした!?さっきから剣を受けているだけじゃないか?」


「………」

目の前の敵を殺せばいい。

それがここでのルール……なのに何を迷っている?殺さなければ殺される。

なら、答えは決まっている。

ザシュッ……!!一瞬で、躊躇なく。

相手の首に斬り付けた。

(これで…いい…。

)…イヤな事を思い出す。

小さい頃に犯した罪。気付いた時には血に塗れていた。ツライ、認めたくない過去。

「君が悪い…僕に闘いを挑むから…」

僕は息のない人型のモノにそう言った。

自分のした事への言い訳の様に。

――闘いを終えた僕は控え室に戻った。

椅子に腰掛けると、急に後ろから声をかけられた。

「初めての闘いにしては、すごいじゃない?」


「それはどうも…」

声の主は若い、綺麗な女性だった。僕は彼女に対して控えめにそう答えた。

「つれない返事ね…」


「普通はそうだろう?貴女はどうも他人に対して軽すぎる。」

彼女の隣にいた男の人がそう言った。彼女は不機嫌そうにしていた。

「いいじゃない、そのくらい。アナタは細かい事を気にしすぎよ。」


「貴女が大雑把すぎるだけだ。」

僕は二人のやりとりをただじっと見ていた。

「あの…それで何か僕に用ですか?」

僕は人見知りする性格だ。

はっきり言って、彼女達を放って立ち去って行ってもよかったのだが、そういう訳にもいかないだろう。普通は。

「ああ、ごめん。実は、少し君に興味あってね。いつでもいいから今度闘ってくれない、私とさ?」

…この人は一体何なんだ?性格も発言もぶっ飛んでる。

初めて会う人間に馴れ馴れしく闘ってくれと言う。

いろんな意味ですごいな、この人は。

「どうしたの?」

驚き、惚けていた僕に彼女は言葉をかける。

「それでどっちなの?イエスか、ノーか?」


「あっ……」

更に、少しパニくっている僕に顔を近付ける。

「…ふぅ、まあいいわ。また今度会った時に返事をしてもらう事にする」

そう言って彼女は僕に背を向けた。

「それじゃあね。」

顔だけを僕の方に向けて手を振り、去っていった。

「はぁ…疲れたな、今日は…」

宿に戻り、僕は自分の部屋に入りベットに腰掛けた少し思い返してみた。

何故、僕はここでこんな事をしているのだろうと。

――人を探して。

僕に剣を教えてくれ、道を正してくれた人を。

その人がここにいると聞いて、いてもたってもいられないからここに来て。

でも、それは噂だけでしかない。

彼がここにいるとは限らないそれでも、少しの可能性があるなら僕はそれにすがってみようと思う――

「ふ……ぁ…」

む…いかん。なんだか急にすっごく睡魔が…

「ダメだ……。もう無理……。おやすみぃ……」

目蓋が重くなり、意識が遠退いていく感覚を感じた…◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆暗闇の中、小さな子供が一人立ちすくんでいた。

すごく暗い、光が一筋もないこの空間でその子供が僕だとすぐにわかった。

急に景色が変わる。

あかい、あかい、真っ赤な景色に。

その子供も真っ赤になっていた。

その赤いモノが、僕には何かわかっていた。

昔、そして今でもよく目にするモノ。

その赤いモノの正体は"血"――そう悟った瞬間、ニヤリ、と悪意に満ちた様な微笑をした目の前の子供。

その真っ赤な手が僕の顔に触れるのを感じた。

小さく、ひどくかすれた声が聞こえた。

ただ一言、"償え"と。

過去に人を、沢山の人を殺した、その償いをしろというのか?……コレは悪い夢だ。

僕の弱い心が作った、最低の悪夢――◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ん…、ぅ……」

目が覚めた時にはもう夕方だった。

二、三時間ぐらい寝ていたらしい。

悪い夢を見ていた。ひどく気分が悪い最悪の目覚めだ、と心の中で吐き捨てる。

「外の空気でも吸ってくるかな…」

こんな時には外に出て、気でも紛らわそうそう思い、すぐに外出の用意をして街中へと出ていった。

街は賑わっていた。

僕が今いる場所は中心街なのだからだろうが、こんな時間の割には結構な賑わいだ。

特にパン屋の前には人だかりができている。

「……ん?」

どうやらあの人だかりは普通ではなさそうだ。

店の前には二人、屈強そうな男がいた。

そしてその二人の前には一人の少女がいた。

その様子を見るかぎり、もめているようだ。

「やれやれ…」

どこにいてもこういう輩が後を絶たないものだな、と溜め息をつきながら思う。

その人だかりを掻き分け、もめている現場へとむかった。

「うっせーんだよ!!このガキッ!!」

小さな少女が突き飛ばされる。

「他のお客さんの迷惑になります、だと!?」

少女は負けじと声を上げて言う。

「あなた達が文句をつけたり、周りの人達を睨んだりしているから注意しただけです!」


「もう我慢できねぇ!!ぶっ殺す!!」

男は背中に背負った金棒を振り下ろそうとした。

その時には僕は男と少女の間に割り込んでいた。

ガァンッッ!!金棒と剣がぶつかり合う音が鳴り響いた。

「っ……!!」

ある程度の衝撃は覚悟していたが、やはり重い。

「なんだ…テメェ!?」

その二人組は遠くから見た時よりも悪い顔つきだった。

「別に…ただの通りすがりさ…」

さて、コイツ等をどうしたものか。…面倒だが仕方ない。

「今から少し、猶予をやろう。死にたくなければ、ここから立ち去れ。」

とりあえず、脅してみた。当然、自分より大きな相手に効果があるはずがなく、

「ハァ?何言ってんだ、このガキ!?」

…この結果だ。馬鹿な真似をした。

「ムカつくガキだな!!テメェもぶっ殺す!!」

再び、大きな金棒が振り下ろされる。

だが、その金棒が振り下ろされるよりも速く、僕は相手の懐中へと飛び込んだ。

ドッ……!!男の鳩尾に思いっきり剣の柄をぶち当てた。

男は悶えながら後ろに仰け反った。

そして直ぐ様、鞘のつけた剣で殴り気絶させた。

「く…くそ!覚えてやがれ!!」

もう一人の男が、お約束のセリフと共に倒れている男を担ぎ、逃げていった。

「大丈夫かい?」

僕より頭一コ分ぐらい小さい、エプロンをつけた少女の方へ向いて聞いた。

「あ…は、ハイ」

怪我は無いみたいだ。無事らしい。

「よかった。…それじゃあ。」

面倒になる前――実際、もう充分に面倒だったが――と、思って早くここから立ち去ろうとした時だった。

小さな少女が年相当の高く、大きな声で僕に声をかけてきた。

「あ…あの!!」

……面倒な事になりそうだ。

僕の直感がそう言っていた。

ふぅ、と溜め息をついて彼女の方をもう一度向いた。その少女はこう言った。

「私の店に来てくれませんか?お礼がしたいんです。」

どうにも頼まれると断れない自分の性格。

……しょうがない。彼女の申し出を受けてやるか。

「…わかった。」

――そういうわけで、僕は彼女のパン屋に入る事になった。

店の中には沢山のパンが並んでいた。

どれもおいしそうだ。

パンの焼けた、とてもいい匂いが店中にたちこめる。

パン好きな僕にとって、これほどいい事は無い。内心、すっごく嬉しい。

「えっと…その…」

少女が僕の方に向かって何か言いたそうにしているので、なんだい?と言う風にして、彼女の方を見やる。

「お名前…なんて言うんですか?」

あ…うん、そうだった。そういや名前を名乗っていなかった。

「ん…ああ。僕の名前はリア。リア・ハルスレット。」

それが、僕の名前。

もうこの世にはいない、僕の両親がつけてくれた名前――

「…リアさん?」

(……)

「リアさんッ!!!」


「うわっ!!?」

(ビックリしたぁ〜〜。

)急に大きな声を出されたから、僕は驚き慌てふためいた。

「な…ん…?」


「どうしたんですか?急にボーとして…」

――また、みたいだ。

また、あの時を思い出していた。

あの、忘れられない時の事を。

僕が犯した罪の事を一時の感情で動いた、してはいけない過ちを――◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「父さんっ…母さんっ…」

そこには一人。

血を被り火傷を腕に負った、慟哭の声をあげる、幼き子供がいるだけだった。

山の中の小さな村――ここで、仕事の無い傭兵達が山賊まがいの行為をした。

もちろん村は滅んだ。

生存者は、誰もいない。

――ただ一人を除いて。

その者の碧い色をした透き通るような瞳に、ドス黒い負の感情が浮かんでいた。

「……してやる」

その感情とは――殺意。

「殺してやる!!父さんや母さん、村の皆をこんなにした奴等を!!!」

短剣を手にし、ゆっくりと立ち上がった。

その目からは、涙が流れていた。

頬についた、血に混じりながら――夕暮れ。

赤く染まる空。

主のいない朽ちた古城。

そして、百にも満たない数の傭兵達。

その中の一人が高らかに声を上げ、笑っていた。

「ハハハハハッ!!傭兵業より、こちらの方がいいものだな!」

声の主は2メートルを越える鍛え上げられた巨躯、背にはその体よりも長く大きい戦斧を持った、髭を生やした中年の戦士だった。

その者の傍らには、シャムシールと呼ばれる緩くカーブした刀身と逆に曲がった柄を持つ曲刀を両腰に携える、長身の青年がいた。

「お言葉ですが団長。我らがやった事は賊と同じ…」


「黙れッ!!貴様も同罪だ!それとも私に指図するかッ!!」


「そんなつもりでは…」

「ならば、黙っていろ!この斧の餌食になりたくなければなっ!」


「くっ……」

双剣の剣士は押し黙った。右手が剣の柄を握り、震えている。

「少し…外に出てきます…」

今いた部屋を出、外へと続く廊下を歩いた。

「ゲスが……!」

彼はその道中、そう小さく呟いた。

「て、敵襲っ!!」

外で煙草をくゆらせながら景色を見ていた双剣の剣士の耳にその声が聞こえた。走る仲間に声をかけた。

「……何事だ?」


「あっ、副隊長殿!」


「この様子を見るかぎり、ただ事ではねぇみたいだな」


「はい…、どうやらこの少しの間に二、三十人はやられたそうです」


「へぇ…」

ニヤニヤと口元を歪める彼は、何処か楽しそうだった。

「副隊長……!?こんな時に何笑って……」


「そう言うな。あのゲス野郎をこの混乱に乗じて殺れると思うと、楽しみで仕方ねぇんだよ。」


「副たぃっ…!!?」

部下の引き止めようとする声も聞かず、彼は廊下を駆け抜けた。

「ぐぅぉぉぉぉっ!?」

大きな巨体が倒れる。

対峙するは、先程彼を殺そうと駆け出した青年ではなくただの小さな子供だ。

「私が……貴様のような子供に…負けるというのか……!?」


「チッ……。もう殺られやがったか。」

そこに双剣の青年が現れた

「殺ス……」

彼の目の前にいた子供が、ただ一言だけそう言い、彼に向かっていった。

「速い……!」

彼は腰にさげた双剣を抜き放ち、相手の剣撃を受け止めた。

(まるで……獣だな。

)その子供の風貌を見て、思う。

血や土ボコリで汚れた身なり、その動き。獣と言うにふさわしい。

「だが、獣相手なら殺られるワケがねぇ!」

自分よりはるかに小さな相手を吹き飛ばそうと力を込めた。

「な…に……!?」

それでも吹き飛ばない。

それだけではなく、今度は押されている――否。

気圧されている。

(マズイ……!?)次の瞬間には、彼の体は切り裂かれていた。

コツコツという足音が廊下に響く。

脚を包むグリーブが鳴らす独特の音。

「聞いた通りといえ…、ここまでとは…な。」

周りの惨状を見て、呟く一つの人影。彼は大広間の扉を開いた。

「……っ!」

まだ、新しい血の匂いが広間を支配していた。

広間の中央には一人、幼い子供が足を抱えて座っている。

「ダレ……!?」


「名は訳あって言えない。忠告だ、今ここに神聖騎士団が向かっている」

神聖騎士団。帝国直属の最強と言われる騎士団の名前。

「このままでは、君は捕まり確実に処刑されるだろうな。」


「イヤ……」

小さく、しかしはっきりとその子供は言った。

「そうか。ならついてこい。……死にたくなければ、な。」

彼はその細い腕を引き、連れ出そうとする。しかし、それを呼び止める声があった。

「……待て。何を企んでいる?」

声の発生地は、体を切り裂かれてた双剣士からだった。

「別に、何も。」

二人が、ここから出ていく。

(……本当にか?)薄れゆく意識の中、彼は思考を巡らせる。

(ヤツは、神聖騎士団の……)外には、白い大軍がその砦を囲んでいた。

旗には翼竜の紋章が入れられている。

翼竜は、帝国のシンボルである。

ただ、その翼竜は銀色に輝いていた。それが、神聖騎士団の証だった。

「もう来ていたか……」


「ア……」

砦の入り口に立っていた二人に一つ、騎兵がこちらに近づいてきた。

兜の代わりにバンダナをつけているなど、明らかに他の兵とは違う容貌だった。

「英雄王っ!!」





「その肩書きを呼ぶな。」




英雄王と呼ばれた彼は、やってきた兵に一言言い、隣にいる子へ手を差し伸べた。



「黙っていてすまなかった。あまり人に素性を言いたくないのでな。私の名はジークフリード。……周りは"英雄王"と呼ぶがな。」




――それがリアと、リアに生き方を教えた"英雄王"との出会いだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


あの後、僕はジークに剣の扱い方を教えてもらった。

強すぎる力はある程度の力があれば暴走する事は無いと言っていた。

ジークは僕をとても大事にしてくれた。

僕はそんなジークが大好きだったのに。

何処かへ、行ってしまった。

僕のそばからいなくなった。

だから、ジークを探すために街に降りた。

……ここで情報を集めても、ジークは何処か遠くに行っているに違いないだろうけど。

僕は……ジークを絶対に見つけだす。

そして聞く、何故騎士団を、僕を捨てていったんだと。

もし、なんでもなかったのなら、僕はジークを許さない。絶対に……

関係無いですがアジカンいいっスね〜。まだまだ続きますが、御感想あれば下さい〜

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