バカにほれた大馬鹿な俺(後編)
(何でこうなった?)
何度繰り返し自問自答しても現実は変わらない。
「なぁなぁ、お前の名前、なんつーの?」
ナゼに小杉捺矢が俺の席の隣に座っている!!!
★★★
入学式が終わり、教室に戻ると突然担任が「よし!出席番号順じゃおもしろくないから、くじ引きで席替えするぞ!」とかふざけたことをほざきだした。
その結果、俺の席の隣には・・・
「オレ、小杉捺矢。お前の名前は?」
もう二度と会わないと誓ったばかりの人間がナゼかにこにこと笑いながら俺に話しかけていた。
★★★
確かに、俺の認識が甘かったことは認めよう。世間というものは意外と狭いものだ。まして、さらに狭い学校ならなおさらだろう。
だが、しかし、まさか同じクラスの隣の席になるとは誰が予想した!!
これも全てアホ担任のせいだ!どこの世界に入学式早々席替えするクラスがある。名前、覚えれるのかよ!!
「なぁなぁなぁなぁなぁなぁ。」
「あー!もう、うるさい!!どこの小学生だよ、お前!俺は、内藤実だ!そのアホみたいな脳みその中につっこんどけ。」
・・・結局このバカの押しに負けてしまった。
「へぇー、実かぁ。なんか良い名前だな。」
「そうか?どこにでもあるような名前だと思うが。」
って、何返事を返してるんだよ、俺!これじゃ、相手がつけあがるだろ。
「そんなことねーよ。実っていうのは「みのり」って意味だろ?なんかさ、この一文字にお前の両親の愛情?みたいなモンが込められてるって感じがするんだよな。良い親だな。」
そう、やつは笑いながら言った。
そんなこと、考えたこともなかった。そういえば、家族と最後に話をしたのはいつだったか。もう、思い出せないほど、時間がたっている気がする。
いつからだろう。頭がよくて、大抵のことなら何でも出来る息子を両親が腫れ物に触るかのように扱うようになったのは。
まぁ、確かにどう扱って良いのかわからなくなるような性格になっているとは自覚しているが・・・
いつの間にか、家族との間に深い溝が出来ている気がする。
そんなことにも、今まで気づかなかったのか・・・いや、気づく機会はたくさんあった。ただ、俺がどうでも良いことだと見て見ぬふりをしてきただけだ。
「いいよなー、オレの親なんて人とは違うかっこいい名前が良い!って言う理由だけでつけたんだぜ。ひどくねぇ。」
バカは俺の様子を気にすることなくしゃべり続ける。
「ひどい」という割には、やつの顔に自分の名前についての嫌悪感は見あたらない。
「お前さ、両親に愛されてるんだな。」
まぁ、オレも愛されていないわけではないと思うんだけどさーとため息混じりに付け加える。
『愛』?愛って何だ?そんなモノ知らないし、必要ない。
この世界はバカばっかりだ。俺以外の人間なんてみんな無能者ばっかりじゃないか。
なんなんだよ、こいつ。ああ、そうだ。俺はこいつが嫌いなんだ。
でも、なんだ?この長年胸にあった塊みたいなのが無くなって、すっきりした感じは・・・
とにかく、俺はこいつが嫌いだ。もう二度と会話なんかしてやらねぇ。
後日、このことを従妹に話すと、なぜだか彼女は嬉しそうに笑った。
「実君もやっと心を置けない友達が出来たんだね。」
そう笑顔で話す彼女の言葉は、嫌ではなかった。
◆◆◆
あの頃の俺には彼女の言葉の意味が全くわからなかったけれど、今なら何となくわかる気がする。
「みーーーーーーーーーーーのーーーーーーーーーーーーーーるーーーーーーーーーーーー」
突然扉が開き、俺に向かって突進してくる親友にため息をひとつつくと、持っていた本を顔面めがけて投げた。
「ぐげぇ!」
本は見事命中し、カエルの潰れたような声とともに奴が倒れる音が教室に響く。
あの日から始まったいつもの朝が、今日も訪れる。
fin
実君視点の二人の出会いの話でした。
ちなみに一人称が俺→実で、オレ→捺矢です。
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