バカにほれた大馬鹿な俺(前編)
実君視点の過去話です。話が長くなりそうなので前後編に分けます。
ちなみに、ジョセフィーヌたちに会う前の話です。
朝の早い時間は俺にとって一日でもっとも平和な時間だ。
俺は本のページをめくりながら、この静かで平和なひとときを満喫する。
がたがたがたがたがたがたがたがた
どどどどどどどどどどどどどどどど
ぐぉーーーーーーーーーーーーー
廊下の方からどうやって出ているのか謎な効果音が聞こえてきた。黒板の上にかかっている時計を見てため息をつきながら、本を閉じた。どうやら、俺の朝の平穏なひとときは終わったようだ。
もうすぐ、あのうるさいバカが来る。
そういえば、あいつと出会ってから静かに時間を過ごした事なんてほとんどないな。
あいつが来るまでまだ少し時間がある。
俺は目を閉じ、少し前の過去に浸ることにした。
◆◆◆
今から16年前、一人の神童がこの世に誕生した。彼は全てにおいて完璧であった。
勉強はもちろんのこと、楽器を持たせれば、神の音色を奏で、筆を持たせれば、世界中の芸術家達に絶賛された。
少年は自分が特別であることをよく理解していた。彼は、自分以外の人間は無能者だと思っていた。
そんな少年を心配して従兄妹がよく「このままだと独りぼっちになちゃうよ。」と忠告してくれていたが、特に意に返さなかった。
少年は別に友達など欲しくなかった。独りでよかった。むしろ、人と関わるのは憂鬱だと思っていた。
あのバカに出会う前までは・・・・・・・・・
俺は、国内でも名の知れた超有名難関校に入学した。
当然新入生代表に選ばれるものだと思っていたが、そんな話はやってこず、入学式が始まり・・・・
「えーと、今回新入生代表に選ばれた小杉捺矢です。みんな、色んな思いでこの学校に来たと思います。しかし、せっかくこうして同じ学校、同じクラスになった者同士なのですから、みんなで楽しい思い出を作っていきましょう。」
・・・!?一体、誰だ、こいつ。小杉なんて聞いたこともないぞ。見た目は、好青年っぽいが・・・
なぜだ?嫌な予感しかしないぞ。
結論から言うと、俺の嫌な予感は当たった。
小杉とやらは、台から降りようとしたとき、階段を見事に踏み外し、落ちた。すさまじい音が体育館に響き渡る。
「だ、大丈夫か!」
先生方が慌てて駆け寄る。俺の位置からじゃ、はっきりと見えないが、なんとか立っているようなので、大丈夫そうだ。
「みんなー!階段はこけやすいから注意して進もうぜ!!」
先生から借りたのだろうマイクを通して、あいつの声が響く。一瞬の沈黙の後、体育館中に大爆笑の嵐が吹き荒れた。
その中で、ただ一人、俺は怒りに体を震わせていた。
だってそうだろう!頭脳明晰、スポーツ万能、成績優秀なこの俺が、あの顔だけバカ男に負けたなんて屈辱以外何物でもない!!
はぁー、まぁいい。こいつとはもう滅多に会わないだろう。
そう、自分に言い聞かせて、何とか怒りを押し込める。
だが、その考えは甘かったと言うことをこの後嫌というほど思い知らされるのだった。
登場人物達の詳しい?情報は『登場人物紹介』を参照
後編はまた明日。