『ボク』と『あいつ』の出会い
ジョン視点の話です。
ある日のジョンの回想です。
「ジョン!てめぇ、いい加減にしろよ!」
ボクに噛まれた右腕を抑えながら青年が睨みつけてくる。
「ジョン・・・・お座り。」
ボクの愛する飼い主が悲しそうな顔で命令する。そんな顔、しないで欲しい。
仕方がないので、それに従うことにする。すると、ご主人様はボクの首に紐をつけ、あろうことかそのまま外に繋いだのだ!
「わん!わん!」
必至で中に入れてもらおうと吠えるが、ドアは一向に開かない。
代わりに聞こえてくるのは、ご主人様があの変態ヤローに謝罪する言葉だった。
『本当に、いつもごめんなさい。捺矢君。』
『いや!いつものことだしさ。それに香澄ちゃんが悪いわけじゃないんだから。頼むから、そんな顔しないでくれ。香澄ちゃんは笑っている顔の方がよく似合ってるんだからさ。』
いけない!このままではご主人様があの変態の餌食になってしまう。何とかして助けねば!
しかし、どんなに引っ張っても紐は切れない。家の中から、二人が仲良く会話をしている声が聞こえる。
許すまじ、小杉捺矢!!
何とかしてご主人様を救わねば。ご主人様を助けれるのはこの世でボクだけだ!
そこで、紐に噛みつき、切ろうとする。が、なかなか硬くて切れない。
前科があったせいか、どうやらさらに頑丈なものにしたみたい…
一体、どうしてこうなったんだろう?
ボクは紐を噛みながら過去に思いを馳せた。
もう、親兄弟の顔なんて覚えていない。ただ、気がついたらペットショップのガラスケースの中にいた。
そして、あの日、あの時、すべてが始まった。あいつはボクの目の前に現れて・・・・
「か、かわゆ~い!」
そして、目を丸くするボクに向かって突っ込んできた。
「うおう!この毛並み、この柔らかさ・・・何て素晴らしいんだ!」
あろうことか奴は、この美しい毛並みにすりすりしてきた。
あの時全身に走った悪寒は、今でも思い出せる。そして奴は、ボクが茫然としているのをいいことに、ひたすら愛撫してくる。
はっきり言って、ヤローにやられても全然気持ち良くない。
「よし、決めた!お前は今日からジョセフィ―ヌだ。」
笑顔で見つめてくるこいつとは対照的に、ボクの顔はショックで固まっていたと思う。
その名前が女性名だということくらいは、生後数か月の子犬でも知っている。
一応念のために言わせてもらうなら、ボクはれっきとしたオス犬だ。決して、決してメス犬なんかじゃない。
「お金が貯まったら一緒に二人の愛の巣へ行こうな。」
こいつ、大丈夫か?なんか、目がうっとりしている気がする。
とりあえず身の危険を感じ、こいつの右手に向かって大きく口を開け・・・
ガブリ
「*@&%$?¥!〒…」
声にならない変態の悲鳴が店内に響いた。
フンと鼻を鳴らし、軽やかに地面に降りる。そして、思いっきりあいつの足に向かってボクのものをかけてやった。
再び奴が悲鳴を上げていたが知ったことではない。ボクをメス扱いした罰だ。
これが天敵、小杉捺矢との最初の出会いであり、戦いのコングが鳴り響いた瞬間であった。