壁は壊せば通れる その1
微妙に捺矢が変態です。いまさらですが。
「本当にごめんなさい。」
この言葉を聞くのはもう何度目になるのか。自分の彼女にこんな顔ばっかりさせるオレって彼氏失格なんじゃないだろうか?ううぅ・・・でも、別れたくはないよ~
あの後、右足から血は出たがそうたいしたことはなかった。(どうやら以前オレを病院送りにしたことでかなり酷い罰を受けたための手加減したようだ。)が、とてもデートどころではなく、とりあえず香澄ちゃんの家で手当てをしようという話になった。
本来なら病院に行くべきだ!とおっしゃる方もいるだろう。しかし、残念ながら夏休みといえども本日は日曜日。当然のことながら病院はどこも開いていない。
まぁ、別にオレは手当てもそう必要無いって言ったんだけど、彼女は首を振って無理やりオレを連れて来たのであった。
ちなみに、今オレはどこにいると思う?
え?加藤家だって?そりゃ、香澄ちゃんの家にはいるよ。オレが聞いてるのはこの家のどこにいるかってこと。
ん?わからないのか。それならしょうがない。教えてやろう。なんとオレは香澄ちゃんの部屋のベットの上に座っているのだ!!
ああ。彼女の匂いを肌で感じるぜ!やべーこのベットの上でゴロンゴロンしたいぞ。って、オレは変態か!!いや、変態かもしれないけど・・・いやいやいや肯定してどうする。なんか挙動不審だぞ、オレ。落ちつけ、落ちつくんだ。さぁ、深呼吸をしよう!吸ってー吐いて。吸ってー吐いて。
おお、だんだん落ちついてきたぞ。さすがオレ!
「捺矢君、お茶とご飯を持ってきましたよ。」
「ぎょほふふぁーーー!!」
突然の香澄ちゃんの登場に落ちついてきた心臓がまた激しく鼓動しだし変な悲鳴をあげてしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
香澄ちゃんは慌てて部屋の中央に置いてある小さな机に飲み物と食べ物を置くと、オレの傍に近づく。
「あ、う、うん。大丈夫だよ。」
あんまり大丈夫じゃないけど。心臓がバクバクいってるよ・・・
「そ、そう言えば、今日はご両親、どうしたの?」
休みの日なら普通親が家にいるだろう。我が家も母は今でごろごろテレビを見ているだろうし、父はそんな母の体をマッサージしているだろう。
我が両親は子供の目から見ても鬱陶しいくらいに仲がいいのだ。
父は母絶対主義でいつも尻にひかれているが特に気にしていない。しかも、自分の子供はどうなってもいいが、妻だけは死んでも守ると毎日のように宣言している。父親としてどうかとは思うが、まぁ、仲が悪いより良いだろう。それに最優先事項が母なだけで、別に子供を放置しているわけでもない。
まぁ、我が家の話はどうでもいい。
「親ですか?今日はいい天気なので二人とも出かけてるんです。」
そう微笑む香澄ちゃんにオレの心も和む。
ん?出かけてる?誰が?香澄ちゃんの親が??
って、それはまずいでしょ!!
一応、恋人同士の男女が一つ屋根の下ってだけでもまずいのに二人っきりで、しかも彼女の自室にいるなんて・・・これは襲・・いやいややめよう。考えてはいけない。
オレは獣じゃない。人間だ。狼なんかにならないぞ。
そんなオレの葛藤を知ってか知らずか香澄ちゃんはオレのけがの手当てをし、「ご飯、頑張って作ったんです。」とホカホカでとろーりとしたオムライスを差し出した。
ねぇ、ちょっと、これってプロ級の腕じゃないですか?
「ありがとう。」
一口食べると、舌がとろけるんじゃないかと思うほど美味しい。
ああ、香澄ちゃんは良いお嫁さんになるだろうなぁ。
「美味しいですか?」
不安そうにオレの顔を覗き込む香澄ちゃん・・・ヤバイ、オレの中の狼が目覚めそう・・・
「うん。すっごく美味しいよ。香澄ちゃんは良いお嫁さんになるね。」
何とかにっこりほほ笑むと彼女は頬を赤くして俯いた。
えーと、あとどれくらいオレは我慢しなくてはいけないのでしょうか?
おあずけをくらっている捺矢。さて、次回はどうなることか。