はじめて知る自分 その1
「ジョンはきっと捺矢君が好きなんです。」
衝撃的すぎる発言にしばし呆然としたが、すぐに我に返って否定する。
「いやいや、ありえないから。絶対にないから。むしろ、その逆だって。って、オレがジョンに惚れてどうするのさ!まぁ、ジョセフィーヌのことは好きだけど・・・あれ?ジョンはジョセフィーヌでジョセフィーヌはジョンで、つまり2匹は同一人物なわけで・・・・うぉ!オレはジョンのことも好きなのか?いやいやいやいや、ありえねぇ。オレは男よりも女の子の方が好きだ!!」
って、何語ってんだよ、オレ!!ヤバイ、これはマズイ。ひ、ひかれたよなぁ・・・
恐る恐る香澄ちゃんの方を見ると、彼女は特に気にした様子もなかった。だが、憂いを帯びた顔はそのままだ。
「でも、ジョンはいつも捺矢君に会うと嬉しそうに駆け寄って行くし・・・・」
え?オレの意味不明な言動はスルーですか?いや、まぁ、そっちの方がいいんだけどさ。
あれ?今、香澄さんは何とおっしゃいました?ジョンが嬉しそうにオレのもとまで駆けてくるって?
いやいや、それは違うから。全然嬉しそうじゃないから。むしろ殺してやると言わんばかりの勢いでオレに向かってくるんですけど!!
オレは必死に首を振って否定するが、香澄ちゃんは全く気付いていないらしく言葉を続ける。
「噛みつくのだって一種の愛情表現だと思いますし・・・・」
そんな痛い愛情はいらねぇ!!
「で、でも、香澄ちゃん。一応あいつはオスでオレ男なんだけど・・・」
一瞬、頭の中に実が現れて「お前が言うな」と冷たく返されたが、それは無視する。
「でも、捺矢君は前、愛に種族や性別は関係ないって・・・」
・・・・・うん。言ったね。確かに言いましたよ。ああ、もう!あの頃のオレを殴りたい!!
ん?いや、この言葉は確か実にだけ言った気がするんだが・・・
「実君が言っていました。」
おい、こら、実ーーーー!!表に出やがれ!なんでよりによって香澄ちゃんにそんな話をするんだよ。オレになんか恨みでもあるのか!!
「実君は悪くないんです!」
オレの心を呼んだのか(まぁ、わかりやすいらしいけど)香澄ちゃんが慌てた様子で奴を庇う。
むー、なんか、腹が立ってくるぞ。なんで、あんな奴なんか庇うんだ。
「私が、実君にお願いしで教えてもらったんです。捺矢君のこともっと知りたくて・・・」
「え?」
まるで沸騰したお湯が一瞬で標準温度に下がったようにオレの怒りは収まっていた。
代わりに、なんだかオレの胸の奥がむずむずしてきた。
「今度からはさ、そう言うことはオレに聞いてくれよ。オレのことはオレが一番よく知ってる・・・ハズ?だしさ。それに、ほら、オレって一応香澄ちゃんの彼氏だし。」
『一応』ってなんだよ、オレ。自分で言っといてなんだけど、なんだか悲しくなってきたぞ。
でも、『一応』だろうがなんだろうが、香澄ちゃんの今の彼氏はオレなわけで、例えそれが従兄だろうがなんだろうが他の男が彼女に近づくのは面白くないし・・・
ああ!男心って複雑だ・・・
でもでも、いくらオレにはもったいないくらい華麗で美しい子でも今はオレのなんだぞ!だったら、他の男なんかに触れて欲しくないし、言葉も掛けて欲しくないと思うのは普通だろ!多分・・・ついでに息もするなと言いたいなぁ。
・・・オレってもしかして独占欲が強い?うぉ!初めて知った。ということは、オレって以外に自分のことを知らなかったりするのか?
「あ、あの・・・捺矢君?」
天使のように澄み渡った美しい音色にようやく現実に戻ってきた。
「ほへ?何?香澄ちゃん。」
しかし、香澄ちゃんは何も言わない。おかしなことに彼女の顔は、触れたらやけどをするんじゃないだろうか思うほど真っ赤に染まっていた。
そこで、ふと、嫌な予感がした。
「い、今の言葉・・・」
今のってどの言葉だ?というよりむしろ全部か?全部なのか?オレは今の言葉を全部声に出していたということか?
は、は、恥ずかしー
やべー、オレの顔まで真っ赤になってきたぞ。
「じょ、冗談・・・ですよね?」
オレが言った言葉の何に対して冗談と言っているのかわからないが、一言も嘘や冗談など言っていないので首を振った。
「全部本当だよ。」
ついに香澄ちゃんは顔を隠してしゃがみこんでしまった。
「捺矢君はずるいです。」
しばらくして香澄ちゃんが口を開いた。
「へ?なんで?」
本当のことを言っただけなのに何でずるいと言われなければいけないのだろうか?
しかし、香澄ちゃんはそれ以上何も言わず、顔を隠している。
ちょっと、これは困るなぁ。しょうがない。
オレは彼女の体を抱き上げた。
なんだか、中途半端な気がしないでもないですが、長いのでここで切ります。