壁は高いぜ・・・その2
捺矢の思考が、なぜだか甘いです。相変わらず彼は変態です。壊れてます。
まぁ、そんなようなことをぼーと考えながら、オレはデートの待ち合わせ場所、池ノ上公園の時計塔前に立っていた。
そう、デートですわよ、奥様!デート、デート、デート!
え?誰とだって?そんなの決まってるじゃありませんか。オレの彼女、加藤香澄ちゃんとですよ。
そんでもって、このオレがデートなんですよ!
ここしばらくはテストやらなんやらのせいで、まともにお互い会えない日々が続いていた。だが、そんな日々も今日でおさらばだ!
実に散々バカにされようが、妹の咲に服のセンスがありえないと言われようが今日はデートだ!
今まで会えなかった分、お互いの愛を深めあうのだ!
・・・・・・・・なんか今、むちゃくちゃ恥ずかしいことを言った気がするぞ。
やべー、心臓がバクバクいってるよ。
どうも、オレは珍しく緊張しているらしい。入学式の日、新入生代表で生徒たちの前に立った時ですら、こんなに緊張しなかったのに・・・思い出したくないことまで思いだしてきたから、もう考えるのはやめよう。
オレはズボンのポケットからハンカチを出すと、手を拭く。時計を見るとちょうど約束の時間まであと1時間だ。
あと1時間・・・考えただけで心臓が飛び出すくらい音を立て始めたぞ。
さて、どうしたものか。そうだ!香澄ちゃんと出会った日々を思い出そう。
思い出す・・・思い・・・・・出す、思・・・・い・・・出・・・って!バカな姿しかさらしてないじゃん!(ちなみにここで『お前は事実バカなのだから仕方がない』などとほざく陰険冷血メガネの声が聞こえてきたが、無視する。)
・・・う・・・う・・・でも、確かに頭の中はあっちの住人だし、しょっちゅうジョンに噛まれたし(あ、これは今もか)言動も時々おかしいし、挙動不審な時があるし・・・・なんか、挙げたらきりが無くなってきたんですけど。・・・泣いてもいいですか?
いやいやいや、泣いている場合じゃない!!あれ?でも、そう言えば、何で香澄ちゃんはオレなんかがよかったんだろう?
自分で言うのもなんだが、見た目はそこら辺のモデルより良いと思っている。(ちなみにこの件に関してだけは母や妹も認めている)それに頭も悪くない。少なくとも学年で、上位に入っている・・・ハズだ。
実際、そこだけを見てオレに告白してくれた子はたくさんいる。
でも、悲しいかな、オレの中身(内面)を知るとなぜか、皆引いてしまうのだ。
一応、一時期、何とかしようと、成績優秀&まじめな普通の学生さんのように見せいてた時もあった。だが、それも実との出会いで見事、先生からも生徒からも「バカ・アホ・ヘタレ」の称号をGETしてしまった。
おかげで、時々、実だけでなくクラスメート、酷い時には同級生、もっとひどい時には学校中の人たちからいじられる生活を余儀なくされている。
まぁ、そんなことはどうでもいい。が、しかし、香澄ちゃんは一体こんなオレのどこがよかったんだろう?
聞きたい・・・でも、聞くのは怖い。
その逆、彼女もよいところならいくつでも言える。
優しいし、可愛いし、声を聞いていると心地良いし、一緒にいると安らぐし・・・
ああ、挙げればきりがない!
前に実にも言われたけど、彼女は俺みたいな男には本当にもったいないと思う。思うけれど、ここで他の男が現れたら身を引くかと尋ねられれば、誰が引くか、くそったれ!と叫ぶだろう。
あの、甘く透き通った心地よい香りと味をオレ以外の男が味わうなんて・・・・考えただけでも、そいつを殺したくなる。
「捺矢君。」
最近、電話でしか聞け無かった、決して高すぎず、柔らかな響きを持つ声音。
時計を見ると、時刻は約束の30分前。
どうやら、待ち人も早く来てくれたようだ。
オレ笑顔で『彼女』の方を向いた。
がぶり
ふぅ、最近この展開は慣れてきたぜ!少なくとも悲鳴をあげない程度には。
足元を見ると、予想通りというかお決まりのようにというか、美しい毛並みの美女、ジョセフィーヌがオレの右足に噛みついている。
そうか、お前はそんなに右足が好きか・・・この間も、右足を噛みやがったよな。
あれ、治るのに結構時間がかかったんだぞ?
それにしても、慣れてくると痛みを感じなくなるって本当なんだなぁ。
あ、香澄ちゃんが、顔を真っ青にしてこっちに走ってくる。
なんだかなぁ。今日は二人っきりでデートのはずだったのに・・・・
頼むよ、神様!!たまにはまともに二人っきりでデートさせてくれ!
波乱万丈?のデートが始まりました。さて、二人はデートを楽しむことができるのでしょうか。