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――女子に限らず男子も。友達って、無理して一緒になったり、いるものじゃないと思う。自然に自分が出せて、楽でいられたらそれでいいんじゃないかと。
自分が自分でいられるところ。でも人を不快にさせないくらいのデリカシーは持ち合わせ、相手が許してくれたら踏み込む。それが自分なりの人付き合いのポリシー。
いつもなら、帰り道は静かなときなんてない。暗く、電柱の先っぽの灯が遠目でも分かる時間、アスファルトの道路を歩く二足分の足音しかまわりには響かない。
団はそわそわしながら鮮美を見た。
「鮮美……」
「―――なに?」
時間がかかったが、反応があったことにまずはほっとする。団はしばらく口をぱくぱくさせてから、音を乗せた。
「昼休み、何があった?」
まともに顔は見れなかった。卑怯だけど、言ったあとに盗み見た。
昼休みのあと彼女は表情の変化が乏しかったのに、さっきまで緩慢な反応だったのに、鮮美は不意に口元を緩めた。
「ふふふ」
最初は空耳だと思った。
「くふふふふ」
喉を震わせていたのは、隣の少女だった。彼女はひとしきり笑うと足を止め、団を正面から見た。その目がきらきらと光っている。
「赤って好き?」
彼女に表情が戻って、やっとまともに視線があった。いや、それ以前に。疑問符を疑問文で返された。脈絡がない。しかも彼女が心から笑っているように見えた。純粋で、たぶん高校生になるとほとんどの人が失っているような、幼児独特の無邪気な笑顔。鮮美がいつも浮かべる余裕がありおおらかな笑みでも、困ったように浮かべるものでもない。
背筋の毛が逆立った。
「……いきなりなんだよ?」
「赤好きなんだ」
話がかみ合わない。なんで色の話がでてくるんだ。
「ぇへへへへ」
黙っていると鮮美はなおも笑顔のままだ。
「赤ってどきどきしない?アカっていったら共産主義とか危険とかそういうイメージもあるけどさ、情熱とか愛とか。戦隊モノのヒーローの象徴だったり。国によって色の意味は違うけど、愛と危険って矛盾すると思わない?それとも愛憎とかいう言葉もあるから表裏一体なのかな」
「赤は標識やおもちゃみたいな原色ありきだと思うんだけど、それより赤いランドセルみたいなのが好き。あー。でもやっぱり鮮やかよりもくすんだ色味がいい。うん。主張しすぎる赤はだめだよ。もともと存在感あるんだから。彼岸花の赤もいいけど、それよりもっときれいな色をあたしは知ってる」
鮮美は饒舌だった。
そして、俺は気づいた。
「ねえ、赤い色は好き?」
立ち止まっている鮮美は笑う。狂ったような笑顔は消え、女優顔負けのみとれるような表情だった。しかし団はそれに理性を手放したりはしなかった。今ではもう、鮮美はスラックスをはいていても日常錯覚していた男子のようには見えない。まとっている空気が根本的に違う。似合わない。鮮美じゃない。
いつも自分を「おれ」といっている鮮美が、このときは「あたし」と言った。