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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第8章 理性と本能
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9ー6 思うのは、あなた一人

「あれ、捨てたんじゃなかったの」

光が差し込まない、薄暗がりの洋室。古ぼけた椅子で髪飾りをいじる吸血鬼に、唐紅は声をかけた。

急激な環境の変化にも関わらず、唐紅の知る範囲では、軟禁された新米吸血鬼は大人しく日々を過ごしていた。

普通は取り乱したり、半狂乱になっているのを仲間が押さえ込んだりするのだが、鮮美深紅に限ってはそのようなことにはならなかった。

それは髪飾りの送り主が、まだ生きていることにも関係しているのかもしれない。

鮮美は、吸血鬼として生きている。それなのに、覚醒のために殺した人間、小原団も生きている。

この妙な事態に吸血鬼たちも対応を考えあぐねていたが、結局はなにもしないということで落ち着いた。

必要があったとはいえ、唐紅と鮮美は目立ったという面もある。

できればひっそり、生きていくのが一番いい。

そんな事情を知ることなく、白い色の花は、ささやかだがあたりに光をもたらしている。

「赤い方はね。こっちはまだあった」

彼岸花の髪飾りは、送られた人物の手の中でくるくるとまわっている。

今着けたとして、彼女が着ている白と黒のクラシカルなお嬢様スタイルに、色合いとしてはおかしくない。

ただ、なにかが足りない。

「白より赤のほうが似合うと思うけど」

「こっちがいいの」

率直な意見は、一人の好き嫌いに負けた。

髪飾りを見つめる鮮美は、唐紅に見せたことのない穏やかな顔をしていた。

ただもらって嬉しいだけではないようなもの。

あの2分の間に、彼女はなにをしたのだろう。

なんらかの延命措置か。はたまた、ただの祈りか。

「…………また会う日を、楽しみに?」

彼岸花の花言葉を、疑問符付けで聞いた。【また会う日を楽しみに】。赤い色と白い色の、彼岸花の花言葉の一つ。

偵察に行った病院で、飾られていた彼岸花の髪飾り。

彼女は再会を祈って、花に思いを託したのだろうか。

小原団は即死を免れた。放っておいても死ぬはずだったのに、なぜだか相手が生きている以上、望みをもってしまうのは自然なことだ。

現在生存している吸血鬼は、例外なく大事に思う人物をその手で殺している。

その摂理から外れた彼女は、きっとこのうえなく幸せなのだ。

そして、誰もが一度は血を吐く思いで捨てた未来も、理屈の上では選ぶことができる。

「会うつもりなんてないよ」

はっきりとした声だけを返されて、嘘はないと知る。

赤い彼岸花には、他の言葉もある。別れを彷彿とさせるものだとか。なら、ただ単純に、贈り物を見ることで幸せな記憶に浸っているのか。

そしてふと、唐紅は白い彼岸花が持つ、もう一つの花言葉を思い返す。

咀嚼しようとして失敗する。本心からの自分の感情を、抑え目に発信することにした。

赤い花が関係を切る挨拶がわりだとしたら、白い花は、伝えなかった気持ち。

「…………不毛だと思うけど?」

「思うだけは自由でしょ?」

間髪いれず、優雅に返したのは、折り合いをつけたからだろう。

あるいは、若さ。

幸せそうにしているところを、あえて揺さぶる必要もない。

「……またくる」

「はーい」

扉をゆっくりと締めて、唐紅は鮮美を視界から消した。

長命で緩やかに年を取る吸血鬼は、人間社会で生きていくことはできない。

生きていても、別れは必ずやってくる。

自分から手を引いて、それでも相手を思っている。

彼女は他の同胞が捨てた気持ちを大事に持っている。

自分のことはもう忘れろ。そして平穏に生きていけ。

相手の幸せを願い、一人で生きることが、いつまでもつのだろうか。

大事な人が遠いところででも生きていて、自分のいない幸せをつかむことを望むなんて。


心中のほうが、情熱的で、永遠の愛を形にできたのかもしれない。


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