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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第二章 小さな事件
8/81

2-3

――十数分後。制服に着替えた後、団は足早に下駄箱へ移動した。…けっきょく鮮美はこなかったな。俺は鮮美がそばにいないとなにもできないくらい依存症なのか。自嘲しながらスニーカーに履き替えようとして、団はふと鮮美の靴箱を見た。

 こげ茶色のローファーが残っている。スニーカーを投げ捨て廊下に戻り、団は校舎に囲まれる形になっている中庭を一望できるガラス戸へ駆け寄る。

 階上は真っ暗で、明かりひとつない。赤々としているのは一階の職員室周辺だけ。団はスリッパをもう一度履いて荷物を抱え、校内へ舞い戻った。

 階段には電球がついている。一方教室棟の廊下には電球がついていない。雨が降っていて暗いときでも、教室の電気がついていたらその教室の前は明るいから。それに反比例して特別棟の前は廊下が明るいようになっている。公立高校ならではの経費削減術だ。

 ただ、生徒下校時刻三十分前になると電気が消える。自転車置き場の明かりも消える。

 …暗いよ。

 団は暗い階段を上り、足音を極力立てないようにして廊下を歩いた。

空いている教室をひとつひとつ覗いてまわる。こういうときは教室の施錠をしない藤和高校がナイスだと思う。同じくらい、どうしてこんなことしているんだろうとも思う。自分の教室を見るのが、正直怖い。いなかったら、鮮美が消えてしまったみたいだ。もしいたら、――――どう接していいか、わからない。どんな言葉をかけたらいいのか分からない。

 だから自分の教室についてもすぐには入らず、恐々と顔だけ入れてみた。まずは教室の後ろ。…何も変わらない。鮮美の席。――かばんも置いていない。 そして正面、グラウンド側の窓際。

 誰かが――なんともなしに教壇に座っていた。

「鮮…美?」

 誰かは声のほうを見もしなかった。

 団は足を踏み入れて、かばんを静かに床に滑らせると、その誰か――近づいて鮮美と確認――に近づいた。

「………」

 近づいたはいいが、かける言葉がみつからなかった。鮮美はなんの表情も浮かべていなくて、小奇麗な人形のようだった。

 団は最悪の事態を予想して、すばやく声をかける。

「…鮮美、どうかした?なにかあった――?」

 鮮美はそこではじめて小原を見た。

「……別に、何も――」

 それでも声に力はない。

 改めて観察しても、鮮美の姿に変わった様子はない。制服はぐしゃぐしゃではなくいつものようにアイロンがかけられている様子が見て取れる。きれいなままだ。そこではじめて教室を見回すが、鮮美とともに話していたはずの男子がいない。

「…あいつは?」

 鮮美はしばらく黙ったままだった。

「…………帰った」

 鮮美はすっくと立ち上がり、隣に置いてあったかばんをつかむと、右肩にかけて竹刀を左手に持った。すたすたとわき目も振らずに教室を出ようとする。

 ドアを引く溝の越える前、彼女はぴたりと止まった。

「…帰ろうか」

 振り返ることなく言われた背中を、団は慌ててかばんを持ち、追いかけることしかできなかった。


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