9ー3 殺したいほど愛してる
ちゃんと小原は生きてて、私は死んでる?
これを書いたらすぐに、小原の家に手紙を送る予定です。一通は家族あて(私が生きて、小原が死んでいたとき用)。もう一通は、この手紙だけれど、小原団あて。
※もし、小原団以外の人が見ていたら、正しい相手に渡すか、破棄してください。表に親展と書いたので、ちゃんと届いているとは思いますが。
……はい、この手紙は、小原が生きてて、私が死んでいるっていう状況で読まれているはずです。
というか、そうじゃないと困る。
万が一の時、何が起きたのかを伝えるために家族宛の手紙を書いたけれど、あれを笑い飛ばして見てくれないと困る。
今ごろは、ちゃんと私は死んでいるはず。だけど、生きてるときに謎な行動ばっかりして、迷惑をめちゃめちゃかけたと思う。混乱もさせたと思う。
それはどうしてか、今まで言えなかったことを、言おうと思います。
私は小原を殺したい。
……ヤンデレに聞こえるね、冷静に考えたら。
ただ、これは本能です。
どうも母方が人外で、吸血鬼みたいで。
私はその血を引いていて、今年のうちには血を吸わないと死ぬらしい、と。
で、ふざけたことには、一人前になるためには1度人を殺さなきゃいけないんだって。
しかもその相手は、仲いい人じゃないとダメなんだって!
なんだその設定は、って突っ込みたかった。実際突っ込んだんだけど、嘘じゃなかった。
冗談だったらよかったのに。
端的にいうと、私は小原の血が欲しくなりました。
つまり、殺したくなった。
理屈じゃないんだ、残念ながら。
一応補足しておくと、殺したいほど憎かったっていうわけじゃないよ?
そんな計算しててもぶっ飛ぶほど、特定の誰かを殺したくなる。
連続殺人事件が起きた頃からこの症状が出て来て、小原と一緒にいるのが辛くなった。
傷つけたくて、どうしようもなかった。
(ちなみに、連続殺人は、私を一人前の吸血鬼にしようと考えてる吸血鬼仲間?が仕組んだものです。今日、青柳さんに斬りかかっていた女の子。
信じてくれないかもしれないけれど、伝えるだけは伝えたかったから)
お腹がすいて、小原の血が欲しくてたまらなかった。
一緒にいられないと思った。離れてたら大丈夫かと思って、突き放したりした。
いまさらだけど、ひどいことたくさんいって、ごめんね。
小原は優しいからね。ここで優しくないとかいうなよ?
行き帰り一緒にしてもらったり、休んでたときのノートをとってくれたり、孤立してたらお昼一緒に食べたり、庇ってくれたり。
クラスの東村くんが殺されたとき。
他校の人にリンチされたとき。
難しい状況だったときに、小原は手を差しのべてくれた。
いつも私を助けてくれて、小原は、優しいから。
私が吸血鬼だってことを伝えたら、血を吸えとか万が一言われたら(もちろんそんなこといわないことを願ってるけど)
私はきっと我慢できない。
我慢できずに、小原を殺してしまう。
いろいろな方法を考えたり、話を聞いてみたんだけど、やっぱり私は人間としてずっと生きることは無理みたい。
選べたらよかった。そうしたら、死刑囚でも最低最悪なやつでも、遠慮することなく吸ってやるのに。そうしたら、罪悪感なんて感じないのに。
そう考えたこともあった。
でも、やっぱり私は、人間として生きて、死のうと思います。
小原は私を人殺しじゃないと信じてくれた。
もし、最初の一人を選ぶことができて、誰かを殺すことが可能だったとしても、私は殺人者になってしまうから。
人間の顔をして小原の隣にいることはできないと思うから。
それになにより、小原を殺したくはない。
死んでほしくない。
迷惑をかけないためにも、一人で終わらせる。
そう考えてたのに、結果的に姫島くんや、青柳さんを危険な目にあわせた。
私が人間としてどうにかして生きようって逃げていたから、仲間は業を煮やして、私の身の回りで連続殺人を起こした。
大切な友達、大切な後輩だったのに。なにもわるくないのに傷つけた。
一人で終わらせるって思いながら。死ぬのが怖かった。だって一刻もはやく私が死ねば、被害は、もっと防げたはず。
できなかったのは、楽しい日を引き伸ばしていたかった。ただそれだけ。
二人や、連続殺人の被害者に、本当に申し訳なくて。
実は今でも死にたくなくて、私は未練たっぷりなんだ。
臆病で笑えるね。
でも、もう今日あたりで死ねるから。
これで誰にも迷惑はかけない。
……なのに、最後に小原に会いたくなった。
本当に、どうしようもなくて。電話をかけた。
夜中の呼び出しなのに、きてくれるっていって、ありがとう。
これから、私は私のなかの本能を制御する。だけど一旦飲まれたら、危険にさらすと思う。
会いたかったのは私のわがまま。
無意識のうちに殺したいから会いたいのかな、よくわからないや。
下手して、傷つけてしまったら、本当にごめん。
わけがわからない部活の同期でごめん。
変なことに巻き込んで、謝るしかない。
私は小原を殺したい。
この気持ちを消せなくて、本当に、ごめんなさい。
私は小原を殺したい。
けれど、死んでほしくない。
この気持ちは、嘘じゃない。
会いたいっていう最後のわがままを聞いてくれてありがとう。
今。とても嬉しい。これで怖さもだいぶましになった。
会ってちゃんと言えなかったらいやだから、ここで伝えるね。
今まで、ありがとう。
さよなら。