表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第8章 理性と本能
75/81

9ー1 非合理主義者

小原団は地面に倒れたまま、ぴくりとも動かない。鮮美深紅は刀をすっかりきれいにして納め、ついで敗北者に貸していた刀を拾いあげ、雑に血を振った。

倒れている人間から鞘を注意深く抜き取り、2本目の刀も鞘に納める。

自己の様子を、続いて相手の様子を見た。

相手は血まみれで、自分もそこそこ血をかぶっているが、こちらの傷はもう塞がっている。

辺りを見回すと、戦いの途中で脱ぎ捨てたダッフルコートが見つかった。ふわりと、倒れたままの人間にかけてやる。

少し離れた場所で大雑把に砂を払って、相手のモッズコートも拾いあげたときだった。

「おめでとう」

もう聞き慣れた声だった。鮮美は一瞥して返事の代わりをすることにした。

満面の笑みを称えた唐紅(からくれない)は、公園に立ち入ると、交互に姿をみやる。

その目が倒れている人間をとらえた。

「………とどめ、刺しとこうか?」

「いらない。ほっといても死ぬ」

興味なさげに返事をすると、それもそうかというように唐紅は殺意を引っ込めた。

赤い出で立ちを隠すため、男物の少し重たいモッズコートをばさりと羽織る。血に染まったポンチョやブラウス、裂けたスカートはうまく覆い隠すことができた。後ろからみたら、殺しあいをした女子高生だとは思わないだろう。

ただ、一旦納得したはずの少女はうげえといった表情を浮かべた。彼女のもつ、獲物を即死させる美学に反しているからかもしれない。

「何ヵ所刺したのよ、苦しんで死なせるの、えげつなー」

「なんでもいいでしょ。これで一人前になれたんだし」

頭痛も、息ぐるしさもない。

受けた傷はすべて回復する、治癒能力。これも一人前になったおかげだ。

「まあ、ね」

唐紅の注意が逸れる。

そのときに、赤い花の髪飾りを、静かに外した。

「あれ、はずしちゃうの?もったいない」

彼女は案外めざとい。

「似合ってたのに」

表面的なものではなく、心からの言葉のようだ。

「こんなのつけてたら目立つから」

「なるほどー。じゃあ、いこっか」

明らかな建前に唐紅は食い下がることもなく、晴れやかな笑顔を浮かべて団へと近づいていった。

「バイバイ、マドカくん」

言葉だけを送って、彼女は離れた。お下げを揺らして、刀を一本奪い取って、鮮美の当面必要な荷物を抱えたまま、前だけをみてすれ違う。

「2分だけあげる」

急速に離れていく気配を感じて、鮮美はゆっくりとした足取りで、団のほうへと向かった。

ざりっと音をたてて、見下ろす。見下ろされた側は、かろうじて目を動かした。

「………………」

声を出すのも辛いのかもしれない。そもそも、生きているのが不思議なほどだ。

「小原の、勝ちだよ」

鮮美深紅は勝負に勝った。しかし賭けには負けた。

小原団は即死することなく、かろうじてだが生きている。鮮美深紅は吸血鬼として覚醒し、やはり生きている。

「……………ぁ」

小さく呟いて、小原は手を伸ばそうとしている。

この期に及んでなお、吸血鬼を繋ぎ止めようとしているのかもしれない。

鮮美は羽織ったコートのポケットを探り、団の携帯電話を取り出す。

数字を3つ押して、現在地を告げ、電源を切った。

弱々しく伸びた手に携帯電話を握らせて、鮮美は赤い彼岸花の髪飾りを小原の胸に置いた。

「本当に、殺したかった。傷ついてるのをみて楽しくて、小原に傷つけられて嬉しかった」

鮮美はしゃがんで、小原の頬に触れた。

「誕生日プレゼントは返す。だから、新しいのちょうだい」

最後のわがままを、聞いてくれるだろうか。

「死ぬまで、生きてよ」

触れていた手を離す。返事は聞かなかった。そろそろ時間だ。

「……ぁ、あざ、み…………!」

絞り出すような声だった。

寿命を削りながら、手を伸ばしてきた。

立ち上がって、コートを翻して、その場から離れる。

振り返らない。

公園の入り口では、唐紅が待っていた。

「………行くわよ」

風が寒かった。コートは暖かかった。

どこか遠くの道路では、救急車のサイレンが鳴いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ