表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第8章 理性と本能
69/81

8-7 一夜漬け

「小原はどうしたい?鮮美さんのためとか、そういうのは抜きにして、小原はなにしたいの」

「--生きたい」

「鮮美さんは?」

「一緒に生きていきたい」

死にたくない。死なせたくない。どちらか一方しか生きられないなら、相手に生きていてほしい。

「・・・どっちかが死ぬか、の二択でもがくなんて、小原らしくないんじゃないの?」

やけに挑発的な友人に、ぴきんときた。

「あのな、鮮美を助ける方法がないっていったのはお前の親父で」

「だから諦めたんだ?選択科目で市内の伝承を調べる課題もあって、しかもテーマがもろ吸血鬼だったのに、そこから自分で調べようとは思わなかったんだ?僕を頼って食い下がってくるかと思えば、それもしなくて、思考停止して、一人で悶々と堂々巡りしてる」

心臓が締め付けられる。息が苦しい。

「それのなにが」

「悪い訳じゃないよ」

穏やかな声が、息苦しさをとめてきた。

「悪い訳じゃないけど、もっと人を、頼ってってば」

まだ、間に合うだろうか。それとも遅いだろうか。今まで目をそらしてきた分、足掻くことをしなかった期間。

どうにかして取り返すことはできないだろうか。

「なあ幸佑、どうにかする、こと、できるかなあ・・・」

泣いた。

日付をまたいでいる。殺しにかかってきたときには人が変わっているようだが、公園で話したときからすでに、彼女は辛そうだった。

「なんとか、するんだろ?小原ならさ」

できない、というのは簡単だ。諦めるのも、簡単だ。

本気になって、本気が通じなくて、そんな思いを味わいたくないから、本気でやることに臆病になってしまう。

「悪い、幸佑。知ってることで、なんかヒントになりそうなこと、教えてくれないか?」

「そうこなくちゃ、こっちも調べてた甲斐がない」

電話口の向こうで、微笑んでいるような気がした。

「吸血鬼が血を吸わずに生きてる例は見つからなかったよ。ただ、その量がよくわからないんだよね」

「・・・量?」

確か鮮美や唐紅は、一人の人間を殺すと言っていた。

「人間一人殺すんじゃなかったのか?」

その問いに、うなり声が響いた。

「楽観的な仮説からいうね。一人の人間を殺すのはただの通過儀礼に過ぎないのかもしれない。ここまでやったら人は死ぬとか、そういう力加減を学ぶために、殺す必要はないけどあえて課題としている可能性がある」

それなら生き延びる可能性が少しは出てくる。最も、殺しにかかってきた鮮美を目の当たりにして、手加減してくれる要素はどこにも見えなかったけど。

「で、悪いほうの仮説は?」

「単純に、最初は殺さなきゃいけないとか。牛乳飲むために、まず牛乳パックの口をあける的な感じで」

要するに、吸血鬼としての覚醒が人殺しをすること、というわけか。

「どっちにしても殺すんじゃないか」

「うん、小原がなにもしなかったら、殺される。小原に死んでほしいわけじゃないから、個人的には今すぐ神社にきてほしい。うちの神社は吸血鬼除けにもなってるから」

さらっと前提を覆されて、笑ってしまいそうになる。なにもしなければ、という部分に、幸佑なりの心配とヒントがあった。

もし人を殺すことが通過儀礼であれば、お互い生き残る道がないわけではない。

もう少し仮説を検証したい、と思った時だった。

冷気が強まった。

「悪い、幸佑。ありがとな」

「え。小原・・」

電話を切って、立ち上がる。

折れた竹刀を片手に、気配を発している場所をみやった。

「鮮美だろ?」

刀を引っ提げた、同級生の女の子が現れる。

「逃げないの?」

団は目を逸らすことなく、嘲笑を受け流した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ