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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第7章 もう一度
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7ー10 守りたかった尊厳

「ごめん、委員会で遅れた………」

長引いた委員会を呪いながら、幸佑の病室ドアを開ける。すると、驚いたことに報道同好会の3人プラス青柳という先客がいた。

てっきり誰もいないと思っていたので虚をつかれた格好だ。幸佑となんらかの接点があっただろうかと首を捻りたくなる。

「あ、小原さんお疲れ様ですー!ってか、姫島さんの実家って神社なんですね、今度恋愛成就のお守りくださいよ~」

「いや、父方がそうであるだけだからね、あと恋愛成就のお守りはうちにないから」

ばっさりきって捨てる幸佑は、くだけている様子をみせていて珍しい。

「じゃあ、俺たちそろそろ……いっちー、きーさん、あおさん、帰ろっか」

「吉村のいう通りね。お邪魔しました」

「お邪魔しましたー」

報道同好会の3人組は早々に出ていった。40秒で仕度したというレベルを超えた。鮮やかな撤収だった。

「あの、姫島先輩、小原先輩、お邪魔しました!」

彼らに遅れ、ばたばたと支度をしている後輩は、少し顔が赤くなっている。

それが気になって、思わず呼び止めた。

「青柳、体調大丈夫か?無理すんなよ?」

「あ、あの………」

「青柳さん」

ベットの上、の幸佑は、晴れやかに笑っていた。

「小原が委員会で遅れるって、知らせてくれてありがとう。あと、体調悪かったときに自転車も貸してくれて」

後輩は恐縮したように首を振り、ぺこりと頭を下げて退出した。

病室は二人だけになる。

「………それで、メールで知らせてくれた通り、なんだよな」

「うん。僕を階段から突き落としたのは、鮮美さんじゃないよ」

改めて親友の言葉を耳にすると、心の底から安堵する。

幸佑が目を覚ましてよかったという気持ちと、鮮美の無実がわかったという安心感。

「それにしても、なんで鮮美は幸佑を呼びつけたんだ?」

「それは……」

「それは、僕からも説明させてもらおうかな」

背後には幸佑の父、幸信が立っていた。

「僕の実家は神社でね、最初に生まれた子供に能力が受け継がれて、ちょっとした霊的なものを払う仕事もしている。もっとも、僕は二番目に生まれたから、能力は残りかす程度で、幸佑は限りなく一般人に近いけどね」

大人は大真面目に言い、丸いすに腰かけた。

「……この丸いすに座っていたのは、小柄な男の子かな、藤和生の、一年生」

「あたり」

姫島親子のやりとりを目の当たりにして、一瞬ただの予想かとおもった。彼らは制服姿だったし、帰る途中ですれ違っていると見舞いだと仮説はたてられる。

「………団くんは、先生のお説教があって、委員会が長引いたんだね。お疲れ座」

霊視、とでもいうのだろうか。誰にも話していないことを言い当てられ、本物だと思いしる。

「悪用する輩もいるんで、あまり表にはしてなくてね。これで信じてもらえるといいんだけれど」

目の前で見せつけられたのだ。信じないのはおかしい。ぶんぶんと頭をふると、深い息をついて、大人は話し始める。

「うちの神社はね、吸血鬼に関することを生業にしていたんだ。具体的には、吸血鬼が関わった事件に人知れず呼ばれて解決に協力したり、吸血鬼討伐を行ったりね。後継者は訓練すれば撃退する能力も身に付く。悪霊退散のお守りはその一貫だよ。幸佑も持っている」

幸佑はひどく傷んだお守りと、新しいものをポケットから取り出した。

「……僕が体調を崩して小原の家に泊まったとき、鮮美さんから電話がかかってきた。助けてほしいっていうお願いだった。その日におかしくなった鮮美さんを見て、お守りがぼろぼろになったみたいだからーー」

悪霊退散という文字が突き刺さる。

それはつまり。

「鮮美が、吸血、鬼?」

「話が早くて助かる」

幸佑の父の肯定に、精一杯状況を整理する。

「十中八九、そうだとみて間違いない」

「…………」

やや気を使うような視線を感じたから、構うなと幸佑にアイコンタクトを送った。

「鮮美さんに呼び出されたから、あの日朝早くに小原を誘って学校にいった。あのあと、鮮美さんに詳しく状況を聞く予定で。…先代が、特に吸血鬼関連に詳しかったから資料があって、聞いた上で調べようと思ったから。……けれど、別の吸血鬼が出てきた。セーラー服の、女の子。その人は、自分で吸血鬼だといった。そして僕は、突き落とされた。死ぬかと。思った」

呼吸の荒くなった幸佑を、幸信がなだめる。

「……幸佑をつき落としたのは、恐らく力のある吸血鬼だよ。鮮美さんに手を貸すとを嫌がったんだろう」

「そんな、なんで幸佑が」

「ー吸血鬼は数を減らしている。そして、鮮美さんはどういうわけか、一人前にならないまま人間として成長した吸血鬼だ。仲間にしたいのだと思う」

「今までなんともなかったのに、どうして!」

いきなり非日常に足を突っ込む形になったのは、なんのため。

理不尽という言葉がよぎる。

「血を吸わなければ、生粋の吸血鬼は十代のうちに死ぬ。今まで生きてきたのは、おそらく彼女が人間とのハーフだったからだ。いつ死んでもおかしくない」

ピースがはまる。保健室登校になりがちだった近ごろ。あまり食べなかった昼御飯。来なくなった部活動。

発信していなかっただけで、すでに体は限界だったのだ。

「……だけど、鮮美さんは、吸血鬼として生きたくはないんだと思う。僕に電話をしてきたから。もしかしたら、そのまま死ぬつもりなのかもしれない……」

頭が、真っ白だ。

「僕は、連続殺人の裏に吸血鬼の存在があるかもしれないと考えていた。鮮美さんの体調が回復していないなら、彼女の犯行ではありえない。おそらく仲間の吸血鬼だ」

「…………鮮美が、助かる方法は、血を吸うこと、ですか?」

「ー現状はそうだ。それ以外の方法を、僕たちは知らない」

「なら、俺の血を、」

「血を吸って、君が吸血鬼になることを、彼女は望むのか?なぜ吸血鬼として生きる道を選ばなかったのか、考えてみたか?」

これはエゴだ。失いたくないから、鮮美の意思をみないようにしている。

「小原」

呼び掛けは、芯の通った幸佑の声だった。

「鮮美さんは、人間として生きたいっていってた」

それが彼女の望みなら。日常のまま死を迎えたいというのなら。

とるべき方法はひとつしかない。

知らないふりをして、日常を鮮美と過ごすのだ。

それが彼女の願いなら。

尊重しよう。

……ただ、万が一にと渡されたお守りは、重かった。

どれだけ信じていても、彼女が人を殺しかねない人外だと、認めることになるからだ。

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