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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第7章 もう一度
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7-8 秘密

赤いものが飛び散ると思った瞬間、懐中電灯が二人を照らす。

不意に向けられた人口の光に、ぴたりと止まった刀身が照らされた。

「なにやってるんだ!」

闖入者は年若な男の声だ。

逆光でよく見えないが、小柄な影から学生だと予想できる。

「……邪魔が入ったから退くわ」

唐紅からくれないは自嘲的な笑いを浮かべ、闇に溶けた。比喩ではない。目の前で忽然と姿を消したのだ。

「……ちっ」

舌打ちをした鮮美は、刀を納めるとケースに入れ、それを肩からかける。次いで腰に巻いていたチェックのロングシャツを羽織った。

持っている武器は傍目には見えなくなる。

「……鮮美」

声をかけても、彼女は動揺一つしなかった。背中を見せたままで、細長い息を吐く。

「……夜に不必要に出歩かないこと。特に青柳、家が近いと思うけど、自主練もしばらく控えたほうがいいよ」

「おい!」

駆け出そうとする鮮美になぜだか言いようのない不安を感じた。彼女がこのまま消えてしまいそうな気がしたからだ。

「おまえもだよ、小原。あんなのと関わるな。死ぬよ?」

振り返った瞳は冷徹で、一切の質問も許してくれない。

「じゃ、いくから」

「――あの!」

引き止めたのは、精一杯声を張り上げた青柳だった。

「助けてくれて、ありがとうございました、鮮美先輩」

再度振り返った彼女は、聖母のように笑みを浮かべていた。

「この事件が片付いたら、自主練再開したらいいよ。もっと伸びるから」

「先輩…」

「ありがとう」

絶ちきるように鮮美は地を蹴って、広場にやってきた影と入れ違いに出て行った。

「青柳、小原さん!」

懐中電灯片手に息せききってやってきたのは市ヶ谷だ。見慣れた顔に、今ごろ汗が吹き出てくる。自分達は日常に戻ってきたのだ。

「広場の前に青柳のチャリ倒れてるし、二人とも……」

ぼろぼろの状態だ。鮮美がやってきてくれなかったら、今頃はこの世にいない。

ここで何事もなかったかのように振る舞うこともアリだ。けれど、それではダメだと告げている。

「悪い市ヶ谷、あとで全部説明する。青柳のこと、頼むな」

「あっ……」

後輩が何か言いかけたような気がしたが、団は無視した。

荷物を乱暴に引っ掛け、鮮美が消えたと思われる後を追う。

後悔だけはしたくない。顔見知りだったような鮮美と、とんでもないセーラー服の少女、唐紅。

追いかけなければいけないと、焦燥感だけが支配していた。

「ーーそんなに必死にならなくても、あたしは逃げないよ」

声が聞こえて、初めてぴたりとした冷気を感じた。

広場から出て、マンションの敷地をぬけた。古い遊歩道のブロック壁あたりから気配を感じる。

ゆっくりと振り返ると、猫のように丸まって腰かけている少女の姿があった。

「こんばんは、オハラマドカくん。あたしは唐紅(からくれない)。名前が長いから、レナって呼んで?」

あどけない表情は先程の戦いとは別人だ。

「よっ、と」

勢いをつけて着地すると、唐紅は団の隣に陣取る。

「ちょっと歩きながら話そうか」

断る理由はない。

汗ばんだ手のひらを服でこすりながら、団は唐紅の歩調に合わせることにした。

「ーーそれにしても、まさかあの子を殺し損ねるなんて思わなかったー」

あっけらかんとした口調に、改めて少女がズレていることを認識する。唐紅は罪悪感というものを持ち合わせていない。

「……カラクさん、」

「え、ちょっとやだ!からく・れないって名前だと思った?唐紅で1つの名前だよ~まどかくんったーー」

唐紅はおちゃらけていた。しかし、気を取り直したように息を吸い込む。

「まあ名前なんてなんでもいいや。ごめんね、続けて?」

「カラクさん、どうして青柳を殺そうとしたんですか?あいつは間違っても人から恨みを買うようなやつじゃないですよ」

「ああ、別にあの子に恨みがあるわけじゃないよ。殺さなきゃいけないリストに入ってるだけ」

「………は?」

「珍しいんだよね、アザミが心を許してる人間って。後輩だったらさっきの、青柳ちゃん?くらいだと思うの」

くるくるとまわり、きゃらきゃらと笑う姿は。相手が殺人未遂を犯さなければ、愛せると誰でも断言しそうなほどかわいらしかった。

「アザミは結構目立つでしょ?アザミがアザミだから仲良くなろうとするんじゃなくて、アザミの見た目とか、おこぼれに預かろうとする奴が近づいてきて。普通にしてても嫉妬や妬みを受けて、あの子は小さいときから人間不信」

回転をやめた少女は、ふらつくことなくこちらを見据えた。

「でもね、こっちに越してきてから、アザミは心を許してる人間を作った。今まで躊躇なく人間関係切ってきたのに、多分今回は切らないだろうなってくらいには信じてる」

「……それが、青柳か?」

「そうね。可愛がってる後輩として、妹みたいな存在として。心を許してる人間の一人が青柳ちゃん」

「……カラクさん、アザミが誰かと仲良くしてるのが許せないの?」

「そうとも言えるかも。あ、でも変な想像はやめてねー?あたしだけと仲良くしておけばいいんだっていう独占欲じゃないから。アザミのこれからのためには、アザミが心を許してる人間の存在が邪魔なだけの話」

「………そのために、殺すくらいに」

「決まってるじゃない」

「幸佑も、殺すつもりだったのか」

「あの眼鏡くんのことかしら?そうね、結構心開きかけだったし、余計な相談されそうだったから、早めに、ね」

「…………」

「ほんとのところ、まどかくんもさっさと消したいんだけど、殺気を出したらそれだけで弾かれるもん。そんなチートな持ち物なしにしてくれないと困る~」

ピンポイントでポケットを指差される。中にあるのは、幸佑から渡された、悪霊退散のお守りだ。

「悪霊退散のお守りかな。そんなの効くんだし、あたしが人間じゃないってこと分かるよね」

「……そう、ですね」

「じゃあ、あたしがアザミにこだわる理由もわかるよね」

「……………」

「はっきり言うね。あなた、邪魔だからアザミの前から消えてよ。眼鏡くんと青柳ちゃんも連れて、アザミの前から離れてよ」

なおも黙り混んでいると、少女は団のすぐ目の前に距離を詰め、上目使いにのぞきこんでくる。

「アザミは人間じゃないし、あたしに近いよ?眼鏡くんを殺しかけたみたいに、殺人衝動だってある。それでもそばにいるっていう?」

唇の端をつりあげた唐紅は、勝ち誇ったように笑った。

「…………だから、なに」

真っ向から視線を受けとめ、団は少女と相対した。

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