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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第7章 もう一度
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7ー1 目をそらして逃げただけ

「お待たせ」

理科講義室をがらりとあけると、鮮美と幸佑は二人で縄跳びをまわしているところだった。

「あ、お疲れ様」

「お疲れ」

どこから突っ込もうかと思った。

だが、深呼吸し観察してみると、縄跳びにはエナメル線が巻き付けられており、エナメル線の両端は機械に繋がれている。机には理科の便覧が開いていて、またなにか実験をしているらしい。

「ほら、電気が起きてる」

「おおー」

「それじゃあ、今日の実験はここまで!」

幸佑は満面の笑みで宣言すると、機器を片付けはじめた。

「結構楽しいね。科学部入ろっかな」

「うーん、せっかく一人で好き勝手できたから、誰か入ってきたらちょっと寂しいな。遊びにきてくれるのは全然オッケーなんだけど」

藤和高校の科学部部員は、姫島幸佑ただ一人。言葉通り理科講義室に入り浸り、好きなように実験を行っている。そのため、鮮美が団を待つ場所として入り浸っているのもここだった。

基本的に誰も来ない。そしてそこそこ仲のいい人物と待つ。

幸佑も実験を通して鮮美との関係性を修復したようだ。

それに嬉しくなって、つい欲が出てしまう。

「なあ、今度カラオケ行こうぜ!」

「カラオケか、しばらく行ってないな~」

「そうだね、いいかも」

まんざらでもない反応に内心満足だ。にやけを出さないように帰り支度を始めていると、がらりとドアが開いた。

「ちわーっす、報道同好会です!」

にっかりと笑った市ヶ谷は、メモとシャーペン片手にずかずかと入り込む。

「姫島さん、最近どうですか」

「かわりないよ」

「そうですかー。鮮美さんが剣道部辞めて科学部に移る線は?」

「ないよ」

「ないな」

「ないない」

2年生三人から否定され、市ヶ谷は移籍はなし、とつぶやいた。

「わかりました。いつも取材協力、ありがとうございます!」

手際のよさと切り上げの判断が光る。回れ右して退室しかけた一年は、ふと足を止める。

「そういえば姫島さん、最近パソコン部に顔出してます?」

「……いや、出てないよ」

幸佑は科学部とパソコン部を掛け持ちしている。パソコン部も幽霊部員が8割をしめ、真面目な部員は幸佑と他数名という大概な部でもある。自動的に科学部部長となった幸佑は、規定のためパソコン部の部長を兼任することができない。そこで仕事をきっちりこなしそうな一年生に部を任せていた。

「なんか最近妙な感じがするんですよ。3年生が出入りしてるらしくて」

「3年生?」

11月も始まっている。真っ当な3年生なら受験の準備で忙しい。文化部の3年生は6月でほとんどが引退だ。

「うーん、確かにうちのパソコンにはシューティングゲームとか結構入れてるから、遊びにきてる線もあるけど……」

「え、受験そんな余裕なの?」

「確か専門学校と私大で、推薦でもう決まってるんじゃないかな」

「あ、はい。出入りしてる3年生は、進路決まってる組です。ただ、部活指導にきてるわけじゃないらしくて」

やや歯切れの悪い言い方に、幸佑も顔色を変えた。

「……どういうこと?」

「なんか、1年生を追い払うらしいんですよ。だから自作ゲームをみんなで作ってたのにできなくなって、部長困ってました」

「……そんな」

「ちょっと前まで姫島さん倒れてたでしょう?気い使って相談しなかったんじゃないですか。他の2年は幽霊だし、顧問には無断であれやこれやソフトを入れちゃってるからあんまり関わりたくないみたいだし」

市ヶ谷はにっこりとして、団の鞄から見えていたじゃがりこを抜き取った。

「あ、おい!」

「情報料ってことでここは1つ」

「俺は関係ないだろ」

それには答えないまま、お疲れさまですー!といって、じゃがりこ窃盗犯は逃げた。

「………とりあえず帰ろうか、小原」

「そうそう、オレが新しいの買ってあげるから」

「おまえら、人を子供扱いするのヤメロ」

「え、その泣きそうな顔をしてるマドカちゃんを見たらさあ」

「確かに、強がってるようにしか見えないしなあ」

「だから!語弊がある言い方!」



幸佑を送り、鮮美を送り。団が家に着くと同時に携帯が鳴った。

2コールででると、相手はさっきまでいた親友だ。

「小原、市ヶ谷が言ってたこと、覚えてる?」

「あー、パソコン部がなんか変だっていう話?」

「うん」

この声音は、なにか言いにくいことを言おうとしている状態だ。

「あのとき、市ヶ谷は小原からお菓子をとったじゃん?」

遠くから囲うように、徐々に真実に近づいていく。そうしたら人によってはダメージが少なくなるかもしれないから。

「あいつ、情報料って言ってたよな。もしかして、それ俺に関係ある?」

「たぶん。小原に、っていうよりは、鮮美さんだと思う」

そういえばそうだ。俺には関係ないといっても、市ヶ谷は返事をしなかった。

以前鮮美に関する情報を全部くれ、と頼んだから、幸佑の考えが当たっている可能性は高い。

「明日、パソコン部の活動日だから、小原、きてくれない?」

「わかった」


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