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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第六章 すれ違い、お近づき
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6の12 present for you

報道同好会との口裏あわせも無事に終わり、事情聴取から解放されると五時頃をまわっていた。

「付き合わせてごめんな」

「いえ、仕方ないですし」

那須を呼びに行ったことで、青柳も簡単に事情を聞かれていた。なにかと物騒なのでセットで帰るようにとの計らいらしい。

他の生徒に加え、藤商と報道同好会の連中の姿もみえない。

オレンジの代わりに銀色の自転車をひく姿には、違和感がなくなった。

「助けてくれて、ありがと」す

青柳はうつむいて、首をぶんぶんと振った。

「鮮美先輩と、小原先輩が無事でよかったです」

「いや、俺たちだけじゃなくて、青柳は市ヶ谷や木田も助けたよ。もう少しで乱闘だったから」

「そうだったんですね、お役にたてたなら嬉しいです」

いつもの謙遜も、心から行っているのだろう。相手を立て、ここぞというときに力を発揮する。

彼女がそばにいてくれて、本当によかったと思う。

「じゃあ、今日は幸佑のところ寄っていくから、ここで……」

「はい、お疲れさまです」

自転車にまたがり、漕ぎだそうとした背中が小さいことに気づいた。

「青柳」

「……はい」

「俺みたいなかっこわるくならないために、家でも自主トレしろよ?強かったら危ない目にあっても切り抜けられる」

いたるところに湿布とガーゼ。喧嘩にまけた高校生男子そのものだ。被害が一年生連中になかったのが不幸中の幸いか。

固持する必要はないが、やっぱり、自分と誰かを守るためには、それだけの力が必要だ。

「………はい!」

青柳を見送って、団は一人病院へと向かった。


「幸佑~来てやったぞー…………」

個室のベットには、いつも通り、友人の姿があった。

いつもと違うのは、今日は起き上がっているということ。自身の頬をつねってみる。

ちゃんと痛い。

「………幸、佑?」

「遅いよ、小原」

久しぶりに聞く声に、団は荷物を捨てて駆け寄った。普段なら思いきりいやがられそうだが、今日の幸佑はされるがままになっていた。

「あれ、今日は何日?」

「11月4日だよ、目覚めて第一声がそれかよ」

「いや、ちょっと前から目はさめてたんだ。あと、ちょっと苦しい」

また痩せてしまった友人が小さくつぶやいて、団はさらなるダメージを与えないため幸佑から離れた。

「え、俺一番乗りじゃないの?」

「うん、違うね」

「なんだよそれ」

「まあそれはともかくさ、誕生日おめでとうマドカちゃん」

「お祝いの言葉あーんどお目覚めありがとうお姫くん」

「それにしてもなんかボロボロだよね、小原」

「幸佑がぐーすか寝てる間にいろいろあったんだよ」

笑いあっていると、ぱたぱたという足音が近づいてくる。

「君たち、もう少し静かに!面会のかたは、患者さんのお体に触るのでそろそろ」

駆けつけてきた看護師は、団が病室を出るまで見張るつもりのようだ。

「すみません…」

幸佑がしおらしく謝ったので、看護師の怒りは幾分か和らいだらしい。即時に叩き出される事態は免れた。

「小原、きてくれてありがとう。そのへんのお菓子適当に持ってかえって。誕生日プレゼントのかわりってことで」

「おまえセコいな、人からもらったやつ横流しかよ。むかつくからお前が好きなチョコレートもらうわ」

「ひっど、それ狙ってたのに……」

やりとりをしているとついヒートアップして、またも、視線が険しくなる。これは精神攻撃だ。

こんなところにいたらやられる。

団はチョコレートを3分の1だけもらい、帰り支度をはじめる。

「じゃ、またな幸佑」

「うん、また」

そして、ぷりぷりとしている看護師にも謝罪を入れ、足早に病室を出る。

思考は晴れやかだ。

鮮美との関係性が改善したこと、幸佑が目をさましたこと。

それがプレゼントなんていったら、くさすぎて悶絶しそうだから、心にとどめるだけにする。

小原が去ったあと、息をはきながら、看護師は笑顔を向けた。

「姫島くん、いろんな人がきてくれたわよ?」

「いろんな人……?」

姫島に思いあたるのは小原と担任がせいぜいである。

交遊関係が狭いなーと思いながらも、自分の人付き合いの悪さを振り返ると妥当なところだ。

「目がさめたらまた来るかもしれないけど、今度はもう少し静かにね?」

看護師が去ったあと、残された患者は誰がきたのかを考えあぐねていた。


「小原さん、どうしてあのとき、すぐに止めなかったんですか」

夕暮れを歩く刑事に、若い男性は詰問する。

「僕達は彼女を尾行していて、最初から見ていましたよね。どうしてですか」

「………尻尾を出すかと思ったからだ」

殺人者として、あるいは怪異として。

淡々と答える小原に、岩砂は言葉を失った。


「はい、小原」

「はーい丈、こちら小原」

「……珍しいな文月、おまえからかけてくるなんて」

「そりゃあねえ、週刊誌が次の号で事件の記事のせるって情報掴んだらかけたくもなるわ」

丈は持っていた缶コーヒーを取り落としそうになる。

「警察関係筋の情報によると、重要参考人としてあがっているのが未成年女子って。誰かもらした?」

「そんなはずは……」

「世間の注目集めてるのに手がかりなんにも発表してないから、警察のだれかがもらしてもおかしくはないと思うけどね」

冷静な文月の声は、知らないものが聞くと冷徹に聞こえるのだろう。しかし冷徹なのは現実の方で、彼女はシビアな現実でいきるためシンクロしているだけだ。

「ま、出ちゃうものはしかたないでしょー。で、前頼まれてたやつ調べたわよ。20年前の女子中学生行方不明事件。最初は誘拐かと言われたけど、手がかりもなくて忽然と消えたのよね?」

「ああ。今でも捜査資料は残ってるが、突然打ち切られた感じがする」

「そーねえ、こっちも報道から手をひいた感はあるわ。あの未解決事件は今!って感じで特集もしないし、被害者家族への取材もしない」

「なんでだ」

「死人が出てるからじゃないかしら?この件追ってたジャーナリスト、何人か不審死したり行方不明になってるから。だれもつつきたいと思わなくなったみたい」

丈が黙りこむと、電話口の相手はことさら明るい調子でいった。

「怪異がらみだったのかもしれないわね?」

否定する材料もなく、丈は黙って電話を続けていた。

「そういえば、あなた送った?」

「なにを」

「団の誕生日プレゼント」

うっ、とつまりそうになるのを、気取られてはいないだろうか。

「そういうおまえは」

「ケーキを冷蔵庫にセット!あとは可能な範囲で希望を聞いてあげる券おいてきたわ」

「……………」

「ちゃんと使ってくれたわよ?マスコミに興味がある後輩がいるから、今度話聞いてやってくれって」

「……………」

「ちなみに、警官志望のこもいるみたいだから、その話もしてあげなさいね?誕生日プレゼントなんてガラじゃないけど、もし誕生日忘れてたらそれは腹立つっていってたわよ」

「……………」

なんだろう、この、外堀を埋められる感覚は。


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