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――古文のあと。団は昨日寝たツケをなんとかするために、成績優秀者にお伺いをたてる。
「なあ鮮美、レポート手伝ってよ。選択科目の『F市における伝説から見る考察』。」
それに対し、彼女はつれない。
「知らないよ、こっちは取ってないんだから。毎度レポート書かされる『F伝』取ったのは小原。自分の責任だよ。――ほら、移動しなよ。もう小原の席の子来てる。」
そう言われて、団は目の前に立っている女子に気づいた。そのまま立ち去るのもどうかと思ったので、軽く会釈しながら教室を出る。次の授業は歴史。世界史組は自教室、日本史組は隣の教室へ移動する。団は移動先で教科書を開きながら、ふと思った。
――この学校は、県内でも少数の単位制。文理区分もない。生徒は自分の進路にあわせ、英語Ⅰや国語などの一般教科と数多い分野の選択科目から授業をとる。外大を目指すなら英語漬に加えハングル。理系ならスーパーサイエンスという授業群、そして少数派だが歴史系に興味があると地方伝承など。
だが鮮美の進路が分からない。歴史、特に日本史が好きなのに、選んだのは世界史。地方伝承などはとっていない。これらはレポートが嫌だったということで片付けられるかもしれないが、理系・看護医療系には進まないといいながら生物Ⅱ、化学Ⅰ、Ⅱをとっていたり、類まれな運動センスがあるのに体育は必修だけ。このような謎も、鮮美が注目される理由なのかもしれない。
「小原、ちょっと」
団は思考を止めて呼ばれたほうに向かった。相対するのはひょろっとしているカクブチ眼鏡。見た目どおり無口な男子生徒、姫島幸祐。団とは小学校からの親友だ。
「また鮮美さんのこと書き込まれてる」
そう言われ、団は幸祐の私物のノートパソコンを見た。画面に映っているのは藤和の学校裏サイト。。最近の書き込みには鮮美の通学路や、粗いが顔が判る画像も載せられていた。
「この書き込み、何時頃にどの道通るか具体的に書き込まれてるね…。書き込んだ人の身元分かれば訴えられるレベルだよ。しかも画像つき。一応管理人には連絡するけど、小原。しばらく時間と道代えてあげな」
団がうなずいたと同時にチャイムが鳴ったので、彼は大急ぎで席へ戻った。こんなことも日常茶飯事。
幸祐には本当に感謝してる。何回かは身元が分かったから、出向いて話し合いもした。
こんな裏側のこと、鮮美は一生知らなくていい。