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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第六章 すれ違い、お近づき
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6ー8 君を知りたい

「……早いな」

「記者の卵なんでこれくらいは」

早起きする必要のない後輩が眠たい目をこすっているかと思ったら案外そうでもない。にこりとした顔は、しかしビジネス用かと団は得心した。

明日会えないか。昨日の夜に連絡して、二つ返事でyesという後輩は、きっと社会に出てもそつなくやっていける。

「ありがとな。報道同好会が音頭とってくれて。運動部連中は感謝してるよ」

「いえいえ、小原さんだってキャプテン達の話をまとめてくれたでしょ?僕らはアンケート配ったりして、実際交渉に当たったのは先輩たちですから」

まずはお礼とばかりに話を振ると、すかさず目上をたててくる。運動部ではないが、上下間系にはめざといらしい。

「それだって、生徒会動かしたりしたのは」

「そんな話はもうやめましょ、みんな頑張ったってことで」

あくまでにこやかだが、はっきりと会話を打ち切った後輩に同意し、団はそれ以上言い募るのをやめた。

幸佑の事件以来、藤和高校では部活動の全学停止が続いている。これに反発したのは運動部だ。大会はなにもインターハイだけではない。秋や冬の大会にむけて練習をしたいところなのにこの状態では悲惨な結果になる。各部がそれぞれの顧問に訴えてもけんもほろろ。そこで報道同好会がキャンペーンを張り、運動部と生徒会、文化部も途中から合流し、部活動再開を勝ち取ったのだ。

再開は今日から。

最も、安全のため放課後は一時間という制約はあったが。

「それで、小原さんが僕を呼んだのは、こういう話をするためじゃないですよね?」

隙のない笑顔を向けられ、団は気を引き締めた。本題に入らなければ、時間がもったいない。

「ああ。鮮美に関わる情報全部、俺にくれ」

いいんですか?というような首をかしげる動作は、冷たい廊下にあっていた。

「……鮮美さんの関連は、高いですよ?」

「対価をけちるつもりはない」

「よっ、男前!」

市ヶ谷は指を2本つき出す。団は黙って財布を開き、二千円を渡した。

「毎度」

ポケットに札を入れ、市ヶ谷は手帳を取り出した。

「どういうところから話しましょう?」

「鮮美の性格からこっちにくる前のこと、それから最近の動向まで

「一高校生が調べられる範囲以上の要求してきましたね」

「できるんだろ?」

「……当然」

メモとるならとってくださいね。そう前置きして、市ヶ谷は鮮美の転校歴を話始めた。

「……性格は、小原さんのほうが知ってるんじゃないですか?分かりました、お話します。誰にでも分け隔てなく接するけれど、一定の距離おいて、寄せ付けないところがありますよね。親しくなることを避けているっていうか。一応そのルックスと性格と文武両道なところが校内の有名人で高嶺の花でしたけど、職員室ではつかみどころのない女子生徒って認識だったみたいです。変に跳ね返ったところがないから指導もできなかったとか。あとは、最近はいろいろ噂されてますね。だからか、昼休みはご飯食べずに図書室にいます」

「……あと、幸佑の件、鮮美はなんて言ってた?」

「あー、それは別料金でお願いします。かなり冒険したんで」

団は示された金額を追加で払う。

特別棟での取引は、誰の目にも触れていない。

「……事情を聞かれた日、鮮美さんは、あそこでよくリストカットをしていた、と言いました。前の日に姫島さんに見られたと。見られたときに気が動転して、激しく口止めしたけれど、怖がらせてしまった。そこで、朝呼び出して、ちゃんと話そうとして、そうしたら姫島さんに怖がられて、足を滑らせて落ちた、と」

「それで……」

「それだけです。話聞いた先生が納得してるかはわかりません」

「そうか……」

鮮美の話したことは幸佑が目を覚まさなければ立証できない。それまでは疑いが晴れることはない。

「姫島さん、早く目が覚めるといいですね」

団は深くうなずいた。

「ちなみに引越し前のことを調べるなら実費いただきます。他校の噂を調べるなら、そっちも別料金で。他校調査ならちょっといい感じのお菓子払いでもありです」

「じゃあ他校の噂のほうも頼む」

「はい、まずは市内の公立に絞って聞きますね」

おまえ、報道じゃなくて探偵っていう看板にしたほうがいいよ。それは一応言わないでおいた。しかしここまで情報がとれるとなると、これは協力者が教職員にいるとみて間違いがないか。1年生にしてこの人たらしが。

「……他は大丈夫ですか?」

「あ、あともう1つ」

「どうぞ」

「青柳ってどんなやつだ?」

「は?」

ここで始めて、市ヶ谷は年相応の返しをした。ああやっぱりこいつは自分と同じ高校生だと、少しだけ安心する。

「いや、性格とか、考え方とか」

市ヶ谷のビジネス笑顔はなりを潜め、ひくひくとしている。

「えーと、あの、一応確認します。同じ部活動ですよね」

「そうだけど」

心なしか、油のきれた機械のように話しているが、団は気にしないことにする。

「話したこととかありますよね」

「うん」

「ぶっちゃけ接した時間、小原さんのほうが長くないですか?」

「そんなことないんじゃないか?確か市ヶ谷は青柳と同じクラスだろ?」

「……そうですけど」

「だったら普段の様子とか知ってそうだし」

先輩と後輩じゃなく、同級生だったらそちらの顔を知っているはずだ。知らなかったらそのほうがおかしいだろう。

「…………高いですよ?」

「え?」

「今の段階で貸し4です。姫島さんの階段落ち関連の情報と、鮮美さんが関わっていないようにする根回し、部活動の再開キャンペーン、今日の情報に、先生の聞き取り盗み聞き。これ、報道同好会がここ最近で動いたやつです。再開キャンペーンは別として、全部小原さんの依頼ですね。それで青柳の情報と来て、4です。いただいた情報料さっ引いても」

ゆらりとした影をみたかと思えば、マシンガントークでツケを捲し立てられる。

「ちょ、え」

「全部まとめてこれだけいただけますか?」

提示された金額は、高校生には大きい金額だった。しかも冗談ではなく本気とかいてマジだ。ツケがあるにしろ、青柳は有名人でないから情報は高くないはずだし、そもそもなにか黒い感情をぶつけられている気がする。

「おいおい」

「……支払不能ですか。じゃあ、半額にするんで、残りは小原さんの情報全部ください。これ、質問事項です」

分厚い紙束をどこからともなく押し付けられる。ぱらぱらとめくると、流出したら引きこもりですまなくなるような個人情報を求められていることが分かった。

「口頭でも…」

「お願いします 」

何枚かめくって、話しやすそうで自分に害のなさそうな情報をゆっくり出して時間切れを狙うことに決めた。手始めに親の職業。

「父親が警察官で、母親が新聞記者だけど……」

ぴくりと隠しきれない反応が見えた。

「ちなみに父親は連続殺人事件の担当刑事、母親もそれを追ってる」

「小原さん、家で仕事の話を聞くことは?」

「ないけど?というかこのところ家にいねーし」

「……考えが変わりました。残りの代金はチャラで結構です。その代わりに、お二人と会わせてください。情報をとります」

「な……」

「悪くはないんじゃないですか?」

不適に笑った顔に、こいつと幸佑は馬が合うんじゃないかと本能で思った。

多分現実逃避だった。

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