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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第五章 被害者は手の届く距離
39/81

5ー10 知りすぎたお姫さま

青柳の言った通り人も来ないし、早めに朝練を切り上げようとしたときだった。

「小原さん、小原さん!」

騒々しい足音ともに、道場の扉が開け放たれる。

誰かと思えば報道同好会の中心メンバーだった。

「市ヶ谷、どうしたの……?」

きょとんとする青柳に、駆け込んできたメンバー、市ヶ谷は息をきらしながら団のほうをむく。

「小原さん、の、友達、が、階段から、落ちて、突き落としたのが、鮮美さんって、話に……」

走る以外の選択肢は知らなかった。一拍遅れて青柳が、次に市ヶ谷が後を追う。

「特別棟の、四階です……!」

ほんの3、40分ほど前まで、共にいた場所だった。廊下は静粛にという張り紙が風に揺れる。道場をぬけて渡り廊下、そして本校舎までやってくると、脱兎のごとく駆けていく教員連中が目についた。

どうやら誰かがが呼んだらしい。

「……くそっ!」

担架という、ある意味荷物になる代物を持つ大人より、運動部の10代男子のほうが早い。団はそう踏んで、ギアをあげた。

教員連中と、報道同好会のメンバーの一人を追い抜き、団は四階へとたどり着く。

「幸佑!」

屋上へと続く階段前には、仰向けに倒れている友人がいた。声に振り返ったのは、報道同好会の3人目。そして。

傍らには、のっぺりとした顔の鮮美が立っていた。

「幸佑…………」

震えそうになりながら、団はそばに駆け寄った。

昨日とは違い、反応はない。

ばたばたという複数の足音とともに、教員連中がやってきた。

「姫島!」

「とにかく一階まで運びましょう」

「保健の久世先生はまだ………」

「とにかく姫島を担架にのせて一階まで運べ!」

剣道部顧問、那須の一喝が響いた。どうやら一番冷静な人はこの人らしい。

「ひとまず男の先生がたは姫島を担架で一階へ!立木先生は119番!藤和病院に直接運びたいがよいかを連絡!」

「は、はい!」

那須の統制により、その場は統率されていく。

「小原に鮮美、青柳。それと……」

「い、1年4組の市ヶ谷です。そっちが6組の吉村、こっちが8組の木田です」

那須は全員をぐるりと見渡した。

「おまえたちには、あとで事情を聞く。それまでは教室に戻りなさい。体調が悪いと思ったら、朝から保健室に行ってもいい」

そうして現場から一年生を追い払い、顧問は幸佑の搬送の後を追おうとした。

「おれもいきます!」

「小原、おまえたちは」

「行かせてください!」

巻き込んだ。大事な友人を、なにかに巻き込んでしまった。このまま自分が何事にもなかったように教室に戻ることは耐えられなかった。

「………わかった」

顧問は観念したようにつぶやき、目で団を促すと階段をかけ降りていった。それについていこうとして、鮮美のほうを一度だけ振りかえる。

彼女は動かなかった。ただ立ち尽くしていた。

唇のはしがあがっていたのは、多分見間違いだと信じたい。

彼女の横髪が流れていて、表情はうまくみえなかった。



「なあ岩砂」

「どうした塩屋?」

「とっとと連続通り魔の犯人捕まえてくれよ」

「無茶いうな、手掛かりがそこまでないんだぞ」

小原丈とペアを組む岩砂は、同期の塩屋とモーニングをしゃれこんでいた。

塩屋たちの部署はこれ以上被害者を増やさないようにと、制服で夜回りパトロールを行い、深夜徘徊の未成年達を家に返す取り組みを行っている。

シフトがきついらしく、塩屋の目には濃いくまが浮かんでいた。

「というかな、捜査本部ではぶっちゃけ幽霊説まで出てるんだわ」

「なんでだよ、重要参考人の女子高生がいるんだろ?すげー美人なさ」

厳重な箝口令が敷かれているが、鮮美深紅の存在は署内でも有名だ。ひとえにショッキングな事件の重要参考人という立ち位置。なによりその美貌。加えて、いまだ手掛かりのない一家殺人事件の生き残りということで、記憶にあるものも多かった。

「そうそう、けど、第2の事件で犯人らしき人物を見たってじーさんがさ、セーラー服の女の子っていうんだよ」

「セーラー服?それはまた特徴的な」

「本部でも、セーラー服っていう特徴的な服を着ることで、目眩ましを狙ったホシの知恵っていう線が出たさ。それ以外の特徴を覚えにくくするっていうやつで」

「おう。セーラー服って最近見ないけど、イコール幽霊じゃないだろう」

最もな疑問に、岩砂はうつむく。

「……それが、セーラー服の襟に刺繍があった。藤の刺繍」

「……刺繍?」

岩砂は古いアルバムのコピーを塩屋に見せる。あせた写真のなかのセーラー服の刺繍が目を引いた。

「これは、藤森中学の前の女子の制服だ。校章の藤を、男子は学ランのボタンに、女子はセーラー服の襟にあしらっている。今は大場に制服が変わってて、この制服を扱ってる店はない。制服業者にも在庫ないことは確認ずみだ」

「……その制服を着たやつが犯行現場近くで目撃されたから幽霊だ?それはあんまりにも、」

「それだけじゃないんだ」

岩砂は画素数の低い写真を一枚とりだす。以前の藤森中学のセーラー姿でおさまった写真の少女は、髪をふたつにわけていて、あどけない笑顔がかわいらしかった。

「20年前、この女子中学生が下校途中で行方不明になった。手掛かりはなし。犯人不明のまま時効。目撃者のじーさんは、この子にそっくりだって言ってる」

塩屋は続きをうながす。

「それで、捜査本部は、例のホシが犯人だっていう現実的な説と、怪異説で割れてる」

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