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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第五章 被害者は手の届く距離
34/81

5ー5(旧、入念な準備で攻撃用意 ぶっつけ本番迎撃用意

下校時刻ぎりぎりになって幸佑とともに準備室の鍵を返しにいくと、準備室管理の先生からは大目玉をくらった。準備室の鍵を幸佑が持ちっぱなしにしていたので、やや影響があったらしい。

未だに口を聞くのが難しい友人のかわりに、体調が悪く早く帰ろうとしていたところ、へたりこんで動けなくなってしまい、一緒に帰る約束をしていた自分が見つけて今に至る、という理由をでっち上げた。でっちあげたといっても鮮美が出てこない以外は大体本当のことだ。

へたりこんでいる時間が長いとか、誰かが見つけるだろうとか突っ込まれるかと思ったが、職員室に残っていた先生たちは、幸佑の青い顔をみて納得したらしい。 病院にいくかという厚意をなんとか断って、二人連れだって靴箱前までやってきた。

帰りがけのついでに鮮美の靴箱を覗くと、すでに持ち主は帰ったあとだった。3人で帰れたらという思いは少しはあったが、ふらふらの幸佑は、きっと鮮美を恐れている。

先に出ていた友人は、生徒用玄関前のポーチに座り込んでいた。幸佑から鞄を奪うと、団は背を屈めた。

「幸佑、誰かに迎えにきてもらうか?」

歩くのもやっとの状態で、家まで30分歩かせるのは酷だ。幸佑は自転車通学区域外なのである。団は自転車通学許可者だが、鮮美フォーメーションのために徒歩がデフォだった。

「いや、いい、今日は二人とも宿直だし……」

幸佑の家も団ほどではないが、両親が共働きで、家をあけることが多い。学童がなくなるころには家族ぐるみで仲良くなっていたため、両家のうちの誰かが二人の面倒を見ていたこともしばしばあったほどだ。

「バスで帰るよ……」

そう言いながら立ち上がろうとする幸佑をポーチへ押し戻す。

「いやいや、もう終バス出てるだろ!」

かといって団の両親も家を出払っているし、頼れる人間はいない。病院には行かないが、家まで送ってほしいというべきだったか。

どうしようかと、途方にくれていたときだった。

「……小原先輩?」

目の前を、オレンジの自転車が通りすぎた。

「青柳」

自転車を引きながら歩く姿は、足もついていればしゃべりかけてもくる。

「おまえ、帰ったんじゃ」

「……いえ、実は帰ってなかったんです」

「ああ、鮮美待ち?」

かしゃんと、自転車のスタンドをたてる音がした。

小さな笑い声は、青柳のものだった。

「……もしかしたら一緒に帰れるかもしれないと思って、先輩を待っていたので。でももう帰ろうかと思ってました」

「あー。鮮美帰っちゃったもんなー」

団は雑談に逃げる前に、ポーチからかけおりて頭を下げた。

「ごめん青柳!自転車貸してくれ!」

「え?」

青柳は面食らったようだ。さすがに先輩後輩でも、自転車は貸し借りの範疇には入らない。

「友達が調子悪くて、和白駅までこいつのっけたいんだ」

和白駅は藤和高校の最寄り駅、徒歩20分である。幸佑の家は、駅の近くにあった。対して青柳は隣の南藤井から通学している。逆方向なのは承知の上だった。

「ほんっとごめん、無理難題言ってるのは分かってる。けど……」

「わかりました」

青柳はにっこりと笑い、かごから荷物を出した。

「どうぞ、小原先輩のお友だちさん、使ってください」

青柳はぺこりと頭を下げ、そのまま立ち去ろうとする。

「……あお、やぎさん」

呼ばれた方は、振り返った。呼んだほうは、団を支えにしながら立ち上がった。

「……自転車、貸してくれてありがとう。でも、一人で帰るの、危ないよ」

そして幸佑はたたらをふみ、あろうことか足の中指あたりを思い切りふみつけてくれやがった。

後輩女子の手前、悲鳴をあげるのは我慢した。

「……青柳」

「は、はい」

「和白まで、一緒に帰る?」

「……は、はい!」

そして、一番前に自転車に乗った幸佑、後ろから団と青柳が徒歩でついていくという構図で、街灯の少ない通学路を行くことになったのだった。


青柳との会話は、一服の清涼剤だった。悲しいこともわけがわからないこともなく、ただ、普通の高校生らしい、授業やテレビや友達の話。

それがこんなにもありがたいものだと知った。

気がつくと、もう和白駅の前に着いていた。

「青柳さん、自転車ありがとう」

幸佑が降りようとすると、青柳は首をよこにふる。

「いえ、構いません。むしろ、姫島先輩、よければ家まで乗ってかえってください」

団は二人を交互にみやる。いくらなんでもそれは青柳に悪い。しかしまだ幸佑も本調子ではない。

「駅まできてしまいましたし、私はここから電車で帰ります」

「青柳さんがそういうならお言葉に甘えさせてほしいけど……明日学校じゃないの?」

幸佑の指摘通り、明日も学校はある。

「朝は電車で行きます。先輩が朝のってきて、私が帰りにのってかえるということでどうですか?鍵は小原先輩に預けていただいて」

団はうなづく。

「わかった」

「ほんとにありがとう、青柳さん」

青柳はぺこりと頭を下げ、団たちが見送るなか駅へと消えようとしていく。

スムーズに歩こうとしていて、ふと青柳が足を止めた。

「……小原、青柳さんって、自転車通学だよね」

「そうだけど」

「定期がないのは当然として、財布持ってるのかな?」

そういえば、青柳はいつも弁当派で、自動販売機も使わない。財布を出しているところはみたことがなかった。

「悪い、ちょっと様子見てくる!」

「りょーかい、あと、家の人心配してるかもしれないから、よければ連絡いれてあげて」

背中に幸佑の助言を背負い、団は青柳のもとへ走った。

やっぱり彼女は財布がなくて、途方にくれていて、注意するとともに1000円札をわたし、家の電話番号を聞き出して、帰宅が少し遅れることを、青柳の母に言付けるということをやりとげた。




一人でまっくらな家に帰り、内側から施錠する。くらい玄関でローファーを脱ごうとして、ぱちんと電気がつけられた。

憮然としたセーラー服の少女だと認識すると同時に、近距離で刃物が投げられる。

鮮美はとっさに傘立てから男物の傘をひきぬき、果物ナイフを弾いた。

2撃目はこない。そのため、鮮美はかまえていた傘をおろした。

「なにこれ、新手のおかえりなさい?」

傘立てに傘を戻し、ローファーを脱いで、返事がないレナを押しのける。

首筋に錐があてられていた。正確無比に頸動脈に狙いを定めている辺り、動けば殺すという脅しを醸し出している。

鮮美は動くことをやめた。

「……なんで殺さなかったの」

鮮美は答えなかった。錐を首筋に当てたまま、レナは鮮美の腕をつかむ。

「一度は殺そうとしたくせに」

つかまれたほうの爪には、他人の渇いた血のあとがあった。

「…………私は、」

「殺したくないとでもいうつもり?」

レナは鮮美の腕に巻かれた手製包帯をつよく握る。

「……!」

「殺したいと思ったら、そうやって自分を傷つけて、騙していくつもり?」

答えの代わりに、レナを振り払う。彼女は口を真一文字に結んで、ボストンバックを開いて短刀を回収した。

「せっかく貸したのに、自傷行為に使われるとは思わなかったわ」

鮮美の目の前で、レナはスニーカーをはき、土足で廊下に上がり込む。

「アザミは好きにしたらいい。私も好きにさせてもらうわ」

言葉を残してレナは階段をかけあがり、窓から飛んだ。

「今まで好き勝手してきたくせに、まだ足りないのか……」

鮮美は廊下に座り込んだ。

自分は一人なのだと、これでもかと思い知らされた。

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