表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第五章 被害者は手の届く距離
31/81

5ー2(旧、疑惑と疑念と可能性 ( )イコール確証

美しいものだけに囲まれて生きていくことができたら、どんなにか素晴らしいだろう。

「……お前がそれを言うか」

鮮美の目の前では、2つくくりのあどけない少女がにっこりと微笑んでいる。セーラー服からのびている足や、成長途上の体格から察するに年はまだ中学生ほどだ。若々しさに溢れ、キレイなままのなにかが残っている美しい存在そのものである。

元々の容姿もかわいらしく整っているため、あと数年の成長で人目をひく存在になると容易に想像できた。

「んー、アザミのほうがすっごくきれいだもん!」

やれやれといった素振りを見せることなく、鮮美はペットボトルの紅茶飲料を口にした。

「ちょっとお、否定しないわけー?」

この手の返しは面倒くさいから、聞こえていないふりをしていただけだ。

その言葉で鮮美は、相手をにらみつける。

「別に、気を使わなくていい。おだてられても私の答えに変わりはない」

「あら、本当のことなのに」

セーラー服の少女は、ますます笑みを深くした。

「いつまでも、キレイなままでいたくないの?」

「別に。損した覚えのほうが多いから、人並みに老けたいな」

少女はうげ、というように顔をしかめ、それはないわ、と呟いた。

「傲慢ー。さすがモトが違う人の考えは独特ね」

またしても鮮美は、紅茶を飲んでやり過ごした。

余裕を見せる女子高生に、少女は人知れず唇をつりあげる。

「でも、いつまでもこの生活が続くと思ったら大間違いよ、アザミ」

少女は制服のポケットから折り紙をとりだし、鮮美に向かってまいた。

細かく千切られたそれは、ひらひらと舞い、床に落ちる。

朱色、赤色、深い赤。床に落ちて、その様は花びらのようだ。

本物には似つかない。けれどまるっきり違ってもいない、血の造花。

「っ……………!」

目に飛び込んできた光景に鮮美は喉を押さえつけ、床に倒れこむ。

「ふふ、禁断症状出ているくせに」

その声はどこか遠くから聞こえている。

「戻ってくるまでせいぜい意識は落とさないでいてね」

鮮美を置いて、少女は階下へ向かった。

彼女をとめなければならない。なのに体が動かない。

「っは……」

肘をついて立ち上がると、制服の袖にほこりがびっしりとついていた。

ここは屋上の扉前。誰も来ない。掃除もしない。

放棄された美術用品と用務品が雑多に散らばるだけの空間だ。

「あいつ…・・・」

鮮美が動悸をおさえて歩き出すと、誰かが音を立てずに軽やかにのぼってきた。

見覚えのあるセーラー服。

「レナ……」

「仲良くなった覚えはないわ。ちゃんとフルネームでいいなさいよ、アザミミク」

戻ってきた少女、レナは、古くなったイーゼルにかけられた布をとりさった。

カンバスが真っ赤に塗りたくられたものがあらわになる。

「うっ」

思わず視線を逸らし、座り込む。うまくちからが入らない。

「あなた赤色すきでしょう?」

ひとつだけでなく、いくつもの赤い絵画のコピーを、レナはそこかしこから取り出してきた。

鮮美の脳裏には、匂いとともに鮮血が思い出されている。

「でも、こんなまがい物の赤よりも、もっといいものがあるわよ?」

なにかがこちらにむかってきている。音が聞こえる。

「ねえアザミ、楽しみにしてるわ」

レナはほこりっぽい転落防止用の柵を軽々と飛び越え、新たにやってきた人物と入れ替わりになるかのように退場した。

「鮮美さん……!」

ちらりと目をやると、やってきたのは、小原の親友。

「あざみ、さん?」

息があがっている10代の男子。日焼けのあまりしていない白い肌。

私はそれを、染めてみたい。

鮮美は姫島幸祐との距離を一瞬でつめ、首筋に手を伸ばした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ