表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第三章 最初の事件
19/81

3-7

「ということで、このとき支配者たちは――」

 日本史の授業。担当教師は膨大な板書をすることで有名。確か黒板前面に書くのを3回…。

 小原は必死になってシャーペンを動かす。そういえば、鮮美はまだ戻っていないようだ。世界史も進むの早いんだよなあ…。大丈夫かあいつ。


 その階下。日当たりがいい保健室で、応接室組と養護教諭が向かい合っていた。

「…ストレスからくる発作ですね。……今まで保健室にこのような症状で来たことはありませんが。しばらく話を聞くのは控えてもらえますか」

 30代の養護教諭は、微笑みながらも退かずに言い放った。

「それはできません。彼女はこの事件の重要参考人です。それに、話の聞き方が適正であったかどうかは、先生方も見聞きしているのだから、どうだったか心得ているはずだ」

 応接室にいた教師たちは押し黙る。恫喝や暴力など、なかった。彼は穏やかに雑談していたという体だったのだ。

「私はこの仕事についてから、血をみたことはほとんどないです。ですからあまりいえませんが。刑事さんたちは遺体をみる機会が多いのかしら?そんなあなたたちは、女子高生がご両親が殺されているのを見て、同級生の遺体を見て、なにも感じなかったとお思いで?」

 先にひいたのは、岩砂だった。

「小原さん…」

 その言葉に、教師が顔を上げる。

「…引っかかってはいたが、剣道部主将の…?」

 小原は黙って肯定した。

「あなた、恥ずかしくないんですか?息子さんと同じ年頃の子です。空白の時間があるのかは知りませんが、とにかくお引取りください」

 小原刑事は、踵をかえす。

「……また来ますよ」

 扉を開けて退室した彼を、岩砂は慌てて追う。彼はせわしげながら、室内に残っている人物たちに軽く礼をすると、静かに扉を閉めた。

 彼らが廊下で奏でる音に思いを馳せながら、養護教諭はにっこりと微笑む。

「では先生方も」

 戸惑う彼らを扉のほうにいざないながら、柔らかな口調は崩さない。

「ここは私一人で大丈夫です。ですから、どうぞお仕事のほうに」

 やんわりと全員を追い出してしまうと、ベッドを区切っているカーテンを開ける。

「……全員出たわよ。気分はどうかしら?」

 鮮美は反射する光をまぶしそうにして、顔をしかめる。

「さっきよりはましですけど…最悪です」

  

 来訪者用玄関。小原はそこで革靴を履き終えたところだった。

「待ってくださいよ、小原さん!」

 彼は少しだけ、革靴を履くのに手間取る若手刑事を見やる。

「どうしてあのこにそこまでこだわるんですか?所内でも通り魔の線が強いでしょう?」

「…お前はばかか」

 言い捨てると、小原はすたすたと歩き出した。

「ちょ、どういう意味ですか?」

 それに追いついた岩砂はタバコにオイルライターで火をつける先輩を見る。

「…鮮美深紅。今でこそ剣道部だが、中学時代はフェンシングやってたそうだ。…小学校のときは、居合いだと。京都はそういうのを教えてくれるとこ探せばあるしな。筋よかったら中学でも外部で続けていてもおかしくない」

「…なんの関係があるんですか?」

 タバコの煙をふかして、灰が落ちる。

「鑑識によると、被害者は真一文字に斬られていたらしい。致命傷はそこ。さぞ出血しただろうな。…考えても見ろよ。被害者の傷はすっぱりと一撃。切断面も滑らか。こんなことできる武器って、限られてくるんじゃないか?」

「で、ですがそれだけで居合い経験者を疑うなんて…」

「もちろんこんなの仮定だ。仮定の過程を何パターンもつくって地道に調べる。初動捜査が通り魔目線だろうがなんだろうが、疑わしきは捜査だ。疑わしきは罰せずなんて題目言うのはそれから」

 岩砂は、押し黙った。

「…ま、別の理由もあるんだけどな」

「え?」

 聞こうとした彼の肩を、一人の人間が掴む。

「ちょっとあんたたち」 

 淡い水色のつなぎ姿。

「校内禁煙。校内っていうのは、校門入ってからの敷地含んでるからね」

 小原はそそくさと、校門に走った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ