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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第三章 最初の事件
17/81

3-5

職員室に入った瞬間、学年団の教師から、鮮美は顔を見られた。視線をそらすことなく後ろ手で扉を閉めると、すぐに応接室に促される。それに従い、やはり注目されながら職員室を横切った。

 入った応接室とは名ばかりで、普通にパイプ椅子と円卓が並んでいた。ただ、壁や床、椅子の色が赤いというだけだ。高級感を演出するためだろう。円卓は部屋の内装と合うようにこげ茶色。鮮美は軽い頭痛を無視しながら、勧められた椅子に腰を下ろした。

「…はじめまして。今回の事件を担当する小原です」

「おなじく、岩砂いわさごです」

 警察関係者――刑事。先に鮮美の向かい側に座っていたのは彼らだった。外見年齢からみて、おそらく小原の父親と、彼の元で研修している新人だ。そこに学年主任と担任、生徒指導部長が鮮美の後ろに控えて固唾をのんでいる。

 最初に口を開いたのは岩砂だった。

「えーと、最初に言っておきますが、僕たちは第一発見者である君を疑っているわけではありません」

 嘘をつけ。

「あくまでもお話を聞きたいだけです」

 そんなの警察の常套句だろう。

「…よろしいですか?」

「ええ」

 鮮美は感情をおくびにも出さず、余裕の態度を崩さなかった。

「…では、氏名と住所、簡単な略歴からお願いします」

 予想に反して、若い岩砂が主導権を握っている。…研修の一環なのだろうか。ただ、そんなの気にする必要もない。

鮮美深紅あざみみく。199×年、11月24日生まれ。

 幼稚園にはいっていません。生まれたときはこのあたりに住んでいたようです。

 小学校は1年から3年までを東京。4年から5年が長崎。6年生で新潟。

 中学は1年が京都。2年が北海道。3年生で鹿児島です。そこからここにきました。

 学校名は覚えていますけど…今書きますか?」

 小原刑事はボールペンをせわしなく動かしていた。鮮美の視線に気づき、短く後で調べるといった。

おそらくこんなものは無意味。しゃべる抵抗をなくすためだろう。

「…ご両親は、どんな仕事をされていたんですか?」

 すでに過去形か。調べているくせに。

「母親は専業主婦。父親は資産家の息子でありながら、家を勘当されたとか。歴史の教員免許を持っていたので、予備校教師として生計を立てていたみたいです。他にも民俗学や風俗、伝説や伝承、史跡歩きが趣味でしたから、それらの論文や資料を大学に持ち込んだり」

「…では度重なる引越しも?」

「ええ。父のフィールドワークに家族全員でついていった形です。私に語学も堪能になってほしかったとも。…方言の」

 岩砂はそこでいったん口を閉じた。

「…ご両親は、もういませんね?」

「…ええ。まだ犯人は捕まらないんですか?せめて手がかりだけでも掴んでるんじゃないんですか」

 鮮美は質問に答えながら質問を返した。疑問符を打ち返さなかったから失礼にはあたらないだろう。学校側は少し動揺した。私は両親のことを、学校に詳しく言っていない。

「いいえ…。たとえ情報があったとしてもお話できません。捜査情報ですから」

「人からは根掘り葉掘り聞くのに、何も教えてくれないんですね」

 岩砂は黙った。

 口を開こうとする教師たちに、小原刑事が目線で制す。岩砂に目配せした後、手元の資料を読み上げた。

「F市一家殺害事件。去年の夏、高校1年生の娘が帰宅すると、彼女の両親、鮮美香佑あざみこう鮮美真紅あざみしんくが血を流して倒れているのを発見。警察と消防に連絡したが、二人はすでに死亡。おびただしい出血量有。……だめですよ、いくら学生で、被害者だからといっても、学校くらいには連絡しなさい」

 小原刑事はそれだけで主導権を握った。

「ご両親が亡くなった後の生活資金は?アルバイトの形跡もないね」

「父親が勘当されるとき、手切れ金をもらったそうです。そこから引越し費用や資料代、生活費を出しています。死亡届は出したので、勘弁してください。あと、生活資金のことは、黙秘権を行使します」

「了解。…それにしても君は調べたところ文武両道才色兼備、いうことなしだね」

「セクハラで訴えますよ」

「ああ悪い。それは勘弁」

「めんどくさいのでやりませんけどね」

 言葉のキャッチボールがスムーズになされ、小原刑事はスマッシュを打つ。

「…一人で住んでいるのなら、アリバイなんてないね」

 5時間目のチャイムが鳴った。


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