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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第三章 最初の事件
16/81

3-4

ほどなくして担任が入ってきて。恒例のショートが始まる。普段滑らかに話す口調が、いつになく重かった。

「…東村のことは、残念だった。けして犯人を許してはならないと思う。いま警察が捜査しているが、あれは不幸な事件だ。動揺すると思う。だが彼のことを悼みながらも、軽率な行動は慎むように」

 担任は暗に鮮美への態度を注意すると、通常連絡に入ろうとした。

「…おれは納得できません。鮮美さんがなんかやったんじゃないんですか?」

 東村と一緒のグループの男子が、クラスの気持ちを代弁した。

「東村は放課後、鮮美さんと二人で会っていた。一番怪しいじゃないですか!」

 担任は黙っている。熱くなったのか、彼は勢いよく席から立ち上がった。

「ちょっとどすきかせて外に連れ出して、竹刀でぼっこぼこにでもできるだろ!?なんか弱みでも握ってたんじゃないのかよ!?」

 こらえきれなくなって、団は立ち上がった。

「黙れよ!!」

 教室はしんとなる。団はこんな風に正義感を表に出すことはなかったが、耐えられなかった。

「確かに竹刀で人をぼっこぼこにできるよ。でもな、そんなのお前が入ってる野球部のバットでもいけるだろ?大体金属でできてるわけでもないのに一発で殺せるわけないだろうが」

 立っていた生徒がうなだれる。団も声の調子を落とした。

「…憶測で言うなよ…。そんな風に言うなら、誰か見たのかよ、二人が並んで外歩いてるところとか。外周走る運動部、多いだろ?」

 誰からも反応がなかった。立っていた生徒二人はそれを見て座った。鮮美は表情を変えないまま。

 担任教師は、静寂を見計らって口を開いた。

「…東村の死因は失血死だそうだ。あと、校門前で煙草を吸っていた先生方は、帰っていく東村は見たが、鮮美は見ていないと言っている。…もうこの話はやめよう?」

 ショートホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴った。



昼休み。

 鮮美は自席で一人弁当を取る。団はときどき同席、たまに幸祐を交え学食にいったり。

今日は幸祐に部室の鍵を借りて、鮮美と二人、弁当を食べた。

 特別教室棟。人の声は聞こえない。

「…朝はありがとうね、小原」

 普段と変わらない様子で、鮮美は言った。

「…別に。ああいう風に根拠なく憶測を声高に広めるやつが気に入らないだけ」

「ああ、小原のご両親、憶測でもの語ったら、人の人生変えちゃうもんね」

 鮮美は軽く笑った。

 小原はため息をつきながら、冷える教室で弁当をつついた。

 鮮美に言ったのは嘘じゃない。ただ、この平常心過ぎる鮮美のことを、おそらくどこか信じきれずにいる自分がいる。

「でもさ、」

 隣り合って食べていた。彼女ははじめてこちらの顔をみた。

「小原の推理は、あの場ではおさまったけど穴があるよね」

 彼女はまた顔を背ける。

「ひとつ。正門のほかに北門と南門がある。煙草吸ってる先生がいるのは正門。グラウンド側にある南門は無理だとしても、駐輪場近くの北門は、ノーマークだよね?外周する人さえ避ければ学校は出られるよ」

 それにね、と彼女はさらに続ける。

「まあ弱み、は握ってなかったけど、握られたかな。言われるのは嫌だったよ?あいつは誰にも言ってなかったみたいだけど」

 どうして、こんなことを言う?

 なにがどうなっている?

「それと、第一発見者?あたしなんだ」

 昔から言うよね?犯人は現場に戻るって。

 小原の握っていた箸が落ちた。

 放送室のスピーカーが、呼び出し音とともに誰かの声を届ける。

 鮮美の呼び出し、だった。

「…じゃあ、行くね?」

 鮮美は振り返りもせず、弁当を片付けると教室から出た。

 呼び止められもせず、鮮美は扉を閉めて、遠ざかっていった。


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