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赤い色は何の色か  作者: 香枝ゆき
第三章 最初の事件
15/81

3-3

 朝。適当な時間に目が覚める。

 めんどくさがりが顔を出して、2階の自分の部屋には時間割をそろえるときと、服を取りに行くときしかあがらない。団は持ち込んだ毛布にくるまったまま、リビングのソファーからむくりと起き上がった。

 一応防犯上閉めていた雨戸をがらがらと開ける。

 ああ、ポストに入っている新聞でも取りに行こうか。なにか新聞に記事が載っているはずだ。

 外を見た団の寝ぼけた頭が、一瞬で跳ね起きる。

「…おはよう。」

 鮮美深紅が、家の前に立っていた。


 自分がのんきに朝食をとっている間、鮮美だけを外で立たせておくわけにも行かない。不可抗力というべきかどうなのか、ひとまず鮮美を家にあげた。

 このときばかりは親を呪うぞ。同級生、しかも女子。連れ込める環境ってどうなんですか。別に何にもするつもりはないしなにもしないけど間違い起こったらどうするの、ねえ。

 団は毛布をどけて鮮美をソファーに座らせ、二人分の朝食作りにかかった。

「…どしたの、こんな朝早く」

 テレビを見ながら、鮮美は口を開く。

「…あ、家の周りに、取材に来た人がいて。…電話もファックスも止まらなかったから、回線切ろうとしたんだけど、オレ携帯持ってないから、警察や学校からの連絡、つかなかったら困るじゃん?でも寝れなくて。裏口から家出てここにきた」

 キッチンは直線で、ちょうどリビングに背中を向ける格好になる。相手を見ないまま、団は続けた。

「…いつから?」

 卵を混ぜる音とテレビの音が無言状態をカモフラージュしている。

「昨日の…いや、今日の三時」

 器を取り落としそうになって、団は後ろを振り返る。表情はなかった。

 新聞配達以外通らない時間帯。国道や県道から少しそれた住宅地に小原家はある。道中はガソリンスタンドが点在しているため街灯は少ない。しかもそのガソリンスタンド、六時から二十二時までの営業なので、あたりは暗かったはずだ。

「おまえ、危ないだろ!?いいかげん自分の容姿自覚しろよ!!だいたい家族に黙って、今頃大丈夫なのか!?親戚の家に隠れるとか、他にも方法―ー」

「小原とはちょっと違うけど、今うち、一人暮らし状態だから」

 テレビの音声だけが、空気を読まず騒がしかった。

「親戚も、縁遠いから知らない。もともと引越し多かったし、あんまり地域の人と交流もないから」

 団は、再び卵をかき回し始めた。

「…ごめん、考えなしだった」

「いいよ、気にしてない」

 しばらくして、食卓に洋風の朝食が二人分並んだ。


 いつもより早い時間。二人はそろって家を出た。

 鍵をかちゃりと閉め、先に道に出ていた鮮美を見ると、いつもの荷物がないことに気づく。

「…竹刀は?」

 鮮美はうまく笑おうとして、失敗した。

「しばらく部活謹慎になった。たぶん放課後は事情聴取の連続かな…。竹刀持っていったら不自然だから、置いてきたんだ」

 団はなにも言えないまま、はやく行くよう促した。


 朝練中、鮮美は空いている柔道場へと身を隠した。団は鮮美がしばらく部活にこれなくなったことを簡単に伝え、いつもと同じように基礎練をして、同じように笑顔でいる。普段どおりに練習を終えて、同じように部員たちを送り出した。

 部長特権を利用して道場で着替える。手早く道着をしまい、かばんをつかむと道場前で待ち、鍵当番となった青柳を待った。

「…ありがとう」

 青柳は、鍵を渡した後も、そのまま留まっている。

「…どうした?」

 彼女は意を決したように顔を上げた。

「あの、鮮美先輩に会ったら、早く部活に復帰するようにお願いしてください。私…。高校から剣道始めて、正直すごく辞めたかったんです。でも、一から始めてすごくうまい鮮美先輩に憧れて…。分からないことは教えてくれたし、一緒に稽古もしてくれました。だから…」

 学年外の情報はよっぽどな情報通でない限り入ってこない。知らないんだろうな、青柳は。

「分かった。伝えとく」

 団は笑顔でそう送り出し、完全に姿が見えなくなったあと、柔道場の扉を開けた。

「…いこう」

 鮮美の表情は、心なしか硬い。


予鈴五分前。教室前はさすがに人の気配で満ちている。

「…入るぞ」

 鮮美を促して、団は教室のドアを開けた。

 がらりと開けた瞬間。ざわざわとしたおしゃべりがぴたりと止まった。みんな団の後ろの鮮美を見ている。

「…おはよう」

 彼女の挨拶に返す人間はいない。ただ、空席、東村の机に置かれた菊の花が、こちらを見ていた。鮮美は席につくとまわりに気を払わず予習を始めた。


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