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――だとしたら、鮮美はどうなる?
団は携帯を駆使して、知り合いのブログをとんだ。
「なんで休校?」「ラッキーな休み」などのもっともなものがあり、そこは斜め読みをして無視。一番見たくない、同じクラスの友達のページへ飛んだ。
「っ…」
やっぱりだ。あのトラブルの事が書いてある。ついでにリンク先も調べ、似た内容の記事を確認すると、パソコンの学校裏サイトを見た。
殺人事件だのなんだのとサイトは祭り状態。管理人に片っ端から通報したが、軒並み削除してくれるかは疑わしい。週刊誌などがこのサイトを見て、情報を得ているかもしれないのに。
団はいらいらしながらネットサーフィンを続けた。
「――で、どうだった?」
「どうもこうも、知ってるだけのブログにHP、掲示板にチャット見たけどおんなじくらい祭りだね。警察内部と報道関係の内部見たらもっと分かりやすいかもしれないけど、さすがにそれは手に負えなさそうだからやめとく」
疲れがにじみ出た声。幸祐は弱視なのにパソコン三台使いで携帯電話も駆使し、ネットサーフィンのごり押しするからだ。…ただあいつの腕前だったらハッキングしても足が着かないんじゃないかとか、今でもウイルス送ってたりするからすでに犯罪に片足突っ込んでるじゃんとかは言わないでおく。
ここで幸祐は声を落とした。
「……学校の人の中に鮮美さんのこと書いてる人いたよ。直接じゃないけど、あのトラブルのこととか。僕らと同じように知り合いのブログ飛び回っている人もいるだろうから、このことが広まるのは時間の問題」
「…なんとかならないのかよ――!」
幸祐にいらついても何も変わらないのに、どうしてもそうせずにはいられなかった。
「…僕らにできるのは、前と変わらず鮮美さんのそばにいてあげることだけだよ」
黙っていると、固定電話の秒数がどんどん増えている。だからだろうか。幸祐のほうが先に沈黙を破った。
「小原、気分悪くしたらごめん。…鮮美さんが空白の時間に何をやっていても、小原はなにも変わらない?」
幸祐が言いたい事。おそらくこれから立ち向かわなければならない周りの視線。
はっきりと分からない鮮美。すべてがぐるぐると混ざっていく。
「…俺は、あいつを信じるよ」
幸祐は呼吸の仕方を変えたようだった。
「…そう、わかった」
あきらめや、しかたがないといったようなニュアンスだった。
「言っておくけど、今鮮美さんに連絡とったら駄目だからね。今頃学校側も鮮美さんが東村ともめてたこと掴んでると思うし。…もしかしたら警察が任意で事情聞きに行くかもしれないから。鮮美さんが関わっていてもいなくても、小原に体調悪いって連絡きたんでしょう?変に刺激しないほうがいい」
しぶしぶそれを受け入れた後は、幸祐とすこしだけ雑談をして電話を切った。
――あれは藤和高校に入学したときのことだった。まわりは成績優秀者ばかり。部活でも記録持ちが多数。そんな学校の入学式だから、新入生代表の挨拶を誰が行うのかは最大の関心事だった。
今までは全国大会出場者かつ平均水準以上の学力持ちや、単純に成績優秀者、元生徒会長や、ボランティア160時間以上経験者など、一般生徒からみれば遠い存在ばかり。まさかいきなり一般生徒に振り分けられるわけではないだろうから、同じ中学出身のやつらと一緒になって、下馬評が行き交った。
式当日。慣れない制服を着て、体育館に座る。校長、生徒会長の挨拶が終わり、次は新入生の挨拶になった。
『では、新入生代表、アザミシンクさん、どうぞ』
そう司会者生徒がマイクにむかって言うと、自分と同じ横ライン、…つまり同じクラスの列から一人の女子生徒が立ち上がった。
普通の速度で、凛として背筋を伸ばして歩く姿。違和感を覚えながら見るが、顔は見えなかった。だが、前のほうの生徒が息を飲むのが分かった。
アザミシンクは体育館ステージに立ち、緊張する素振りもなく演台の前に立つと、そこに置かれていたマイクをスタンドからはずし、手でぽんぽんとおさえた。
そして、軽く礼をする。そのときはじめて顔が見えたが、多くの人間が
息を呑んだ理由が分かった。
きれい、だったのだ。男子が2、3秒止まってしまい、女子も美貌に妬むどころかため息をつくしかできないくらいに。そして違和感の正体。彼女の姿が、女子の標準的な制服であるスカートではなくスラックスだったことも。
だるい雰囲気だった式がざわざわし始めたなか、彼女は口を開いた。
『こんにちは。今日から藤和高校の生徒となります、アザミミクです。全県学区である藤和高校では、おそらく多くの人と関わることと思います。勉強面でも単位制という、自分にぴったりの時間割が組め、多くの部活動が、各種大会に出場しています。
わたしたちは、今日から今までとはまた違う世界で生活することになります。
多くの人が関わるからこそ、ぶつかりあい、否定することもあるでしょう。しかし、そこで私たちは、これからも生涯の友となるであろう人とも出会うはずです。今日からたった一度の高校生活が始まります。悔いの残らないよう、何事にも取り組み、自分が信頼を寄せる仲間を見つけ、誰かの大切な人間になっていきましょう」
彼女はそこでマイクを戻し、礼をした。
どこからともなく音がして、すぐに大きな拍手が彼女を包んだ。