楠木の手腕
「本気の願いは本殿へ」
星いずみとは、マフィアである。
ここ、椿大神神社は、電気の王の松下幸之助のお墨付きである。
「突風が吹くとは尋常じゃないですよ」
その言葉に、宮崎芳志は顔を上げた。
本殿の奥では、何やら祈祷が始まっていた。
「時にじゃが・・・」
巫女の小林千春は言った。
「願い事は何じゃ?」
宮崎は、「そのお札に書いてます」と答えた。
「なるほど!鳥になりたいとな?」
千春の言葉に宮崎は答えた。
「いやいや、そうではございません」
「空を飛ぶのは鳥と相場が決まっておる」
千春が言うと、宮崎は更に答えた。
「いや、そうではございません。飛ぶ意味が違う」
すると、本殿奥から、「ほうほう」と言う声が聞こえた。
「時にじゃが・・・」とまた千春が言う。
「ここに来る途中の茶店には寄ったか?」
千春の言葉に、宮崎は、来る途中の茶店を思い浮かべた。
そして答えた。
「天気雨が降ってきたので、これは、幸先がいいとして、コーヒーはのちにということで」
そこでいきなり、星いずみが大声で笑った。
「天気雨とな?笑わせる」
千春が、「どうしますか?」と言った。
願い事はただ一つ。
空を飛びたい。
「さあて、それなら、お前にはのちのち働いてもらおう。そうだな、鷹では不満足か?」
その声は、本殿中に響いていた。
静香の年季が問題になっていた。
南座との提携が、違反行為だと河原町がちゃちゃを入れてきた。
おまけに、静香をおかみとして年季をごまかそうとしているとまで。
「そういうことなら、うちが責任者じゃけ」と花が言った。
皆伐はそれを制止、「咲坂が・・・」と言いかけると、今度はそれを黒澤が制止した。
「伊勢志摩湾でのお偉いさんたちの会議は、来週と決まった。ここにじゃが、神戸マフィアの首領が参加するじゃけ。祇園の代表も参加すれとの話じゃけ」
そこで静香が、「抹茶のおかわりじゃけ」と、立ち上がろうとしたのを蛍が制止した。
「うちが行くさかい」
蛍が障子を閉めると、楠木が話し始めた。
「代表は、楠木のご指名じゃが、ここにあるのは、花の受け入れを申し出たい」
「受け入れ・・・」と、静香が楠木の顔を見たが、楠木が何も言わないので、花の顔を見た。
花は困って、黒澤の顔を見た。
そこで一瞬静まり返ったが、「おまち」と、蛍が手にポットを持って入って来た。
「こないだいただいた、辻利からの抹茶ミルクじゃけ」
蛍が言うと、静香が、「えっ?どこにあったじゃけ?」と言った。
「身請けのことじゃけか?」
花は聞いた。
黒澤が無視しているので、皆伐は笑いをこらえた。
「知らぬが仏じゃな」
蛍がそう言いながら、抹茶ミルクをスプーンでまぜている。
黒澤が、「そういうことなら、花を王子製紙の重役というイスを用意」
そこでバタバタと足音が響いた。
「おつかれやす」と、通いの舞妓たちが来たのである。
「では、いったんお開き」と、皆伐が言った。




