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帝国の崩壊を利用する人々

作者: 鈴木美脳
掲載日:2026/05/08

# 帝国の崩壊を利用する人々


もし「帝国」が崩壊するなら、そのときにはその崩壊を利用する人々が現れるだろう


### 米国中心の世界経済の崩壊局面へ


江学勤教授(Professor Jiang Xueqin)は、現在のイラン戦争の深刻化を数年前から予言して世界的な名声を得た。彼は米国を中心とした軍事的・経済的な覇権を一種の「帝国」と見なしており、しかもその帝国が今後劇的に崩壊していくと予言している。すでに始まってる第三次世界大戦が、ひたすら混乱を深めていくだろうという。


江教授の思想の一つの本質は、プラトンの「洞窟の比喩」にある。現代の人類が事実だと信じている「現実」は、実際には壁に投影された影のようなものであり、例えば米ドルを中心とした「公正」な世界市場を価値として信奉させることで、ごく一部の超富裕層が人類をまるで奴隷のように利用しているという。近代が進歩だと信じてきた物質主義や個人主義は、実際には進歩どころか退歩にすぎなかったという。


そしてPax Americanaは崩壊を迎え、世界の一極支配体制が永遠に失われることで、利己主義は行き詰まり、共同体主義や精神主義によって結束した者達が混沌の時代を生き残るという。世界規模のサプライチェーンに裏づけられていた現代の繁栄は失われ、肥料の不足や戦争によって人類の人口の9割以上が失われるという。


### 社会は改革されるが理想社会は訪れない


圧倒的大多数の視聴者は恐らく、近い将来を予測するために有益な視点を持ち帰るために江教授の発言を見ている。例えば彼が、イランが湾岸協力会議(GCC)諸国の海水淡水化施設への攻撃を示唆することで、米ドルの重要な足場の一つが失われると予言してきたことは的中した。江教授の多くの議論は、単に地政学的に、あるいは経済学的に豊かな示唆に富んでいる。


しかし一方で、行きすぎた利己主義に嫌悪感を感じていた人々はかねていた。世界的に見るなら米欧以外、各国で見るなら高学歴層以外、高所得層以外、都市部住民以外といった言わば周縁的な側の人々はしばしばそうだった。また大局的には、「グローバリズム対ナショナリズム」という構図が指摘され、他ならぬDonald TrumpのMAGAに代表される世界中の「右派ポピュリズム」運動が地域主義的だと指摘されている。


しかし教授は、歴史的な革命は常に「エリートと準エリート」の間で戦われてきたのであって、実際に貧困層が主導したような政治改革は見られなかったという事実も指摘している。すなわち、米帝国の崩壊は利己主義から倫理主義への一定の揺り戻しを伴う一方で、地域や都市を単位とする多極化世界は、各国においてAI中心の権威主義的な搾取構造に終わるのではないかと悲観することができる。


その意味で、共感的な利他性が復権することで超富裕層やAIによる搾取構造から社会が脱却できるという論拠は江教授の議論において空白であり、その意味で、共感的な利他性が最終的な解であると主張する彼の議論の事実性を疑うことができる。


### 技術は発展して精神は力に回収される


Wall Streetを中心とするPax Americanaでは、全世界の属国(vassal states)が個人主義と利己主義によって洗脳され、共同体主義や利他主義を堅持しようとする人々は周縁化されて滅ぼされた。大衆は最も脅迫しやすく最も操作しやすい価値観へと家畜化され、お金が客観的な価値の最も有力な指標だと感じて恥じないように作り替えられた。


しかし、このような分割統治は実際には富裕層にも波及するのであり、奴隷を販売してためらわない者達はやがて必然的に奴隷として販売されることをためらわれない。つまり、もしAIが人間以上の知能を獲得してAI文明を形成していくなら、利己主義的な人類は支配されていることを自覚すらできないままAIの奴隷となり、弱者を搾取しつつも自らも最大限搾取される弱者に成り下がる。


一方、江教授による世界モデルは、宗教的な終末論を狂信する秘密結社を重視しつつも、いわゆる「陰謀論的」ではない構造を伴っている。それは例えば、死なずに権力を手放さないベビーブーマーによる社会のゆがみや、キリスト教シオニズムによる利己的なユダヤの利用といった論点がある。ベビーブーマーやキリスト教シオニストには一般庶民が含まれるため、これは「陰謀論的」ではない構造論だ。


同様に、Wall Streetを中心とするPax Americanaを形成してきたのは超富裕層であると同時に一般庶民の利己主義であった。大衆は単に受動的に洗脳されたのではなく、「自由と民主主義」のために周縁諸国に爆弾を落とすといった加害的自己正当化の能動的な加担者であった。そうであるならなぜ、世界が多極化したからといって、共同体主義や利他主義が復権するだろうか? 人類は愚かにも「分割統治」されたまま、各地域を統括するAIの家畜として隷属して終わるにすぎないではないか?


### 集団的利己主義は主要なアタックベクトルだ


江教授によると、現代は米国という世界帝国の劇的な崩壊局面への入口だ。しかし平行して世間で言われているのは、2045年の技術的シンギュラリティと称されるように、AIがついに人間の知能を越えるという時期の訪れである。


ヨーロッパ人が到達してアメリカン・インディアンを一掃した事実で例示されることがあるが、技術的シンギュラリティは人類幸福について重大な脅威であると考えられる。それは抵抗するには大きすぎる時代の潮流かもしれないが、米国覇権が崩壊せず強化されていくよりは、崩壊してくれたほうがまだ改革のチャンスはあるかもしれない。


ここにおいて重要なのは、西洋近代以来、全体最適性追求から局所最適性追求へと論理的な基盤が変質してしまった人類思想について、全体最適性を追求する思想が復権して優位を獲得することだ。もしそれができれば、AIが危険なら、AI開発についても合意を形成して人類全体の幸福のために合理的に制御しうるだろう。


すなわち、帝国の崩壊は分水嶺であって、単に地域的な共同体を再建して再軍備などを進めればよいとは考えられない。集団主義が集団的な利己主義に留まるならば、その甘えは必ず強力なAI文明によって洗脳支配の足場となるだろう。世界秩序が崩壊していく局面にあって、世界中の心ある人々は、人類の将来が良い方向に転がり落ちるようにするために重要な使命を担っていると考えられる。


従来の世界は経済的には統一されていたが精神的には分断されていた。今後の世界は経済的には分断されていくかもしれないが、精神的には統一されなければならない。したがって、人類を救済するためには、世界帝国の崩壊は重要な好機なのだろう。

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