6話 惑わせの森 入口
いよいよ森の調査に入ります
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翌朝。
朝靄がうっすらと漂う中を複数の馬の蹄鉄の音が響く。
先頭を行くレオナルドは目を瞬かせ、あくびを噛み締めていた。
「ちょっとレオ。まぁたうなされてたでしょ。ひっどい隈だよ」
「いやぁ…最近また夢見が悪くってな」
「まだ解決してないのかよ、お袋さんとの確執」
「向こうが聞く耳持たないんだから、しょうがないだろ」
「そうやってうなされるくらいなら早めの解決しなよ。それと今回の任務はアルバさんも一緒なんだから、気をつけてよ」
「…わかってる」
話しているうちに博物館の前に到着した。
5つの鐘にはまだ早いというのに、アルバはそこに立っていた。
「あ、おはようございます」
「アルバさん!?まだ早いよ、どうして」
「お恥ずかしい話、騎士の皆さんに同行して森に入るのが楽しみで眠れなくて」
そう言って笑ったアルバの眼鏡のレンズ越しにうっすらと見えた目元にはレオナルドと同じように隈がついている。
えぇ…と若干引き気味のリッキーの横を、後続の馬から降りたメルダとガーネットがアルバの荷物を預かろうと歩み寄った。
「あれ?アルバさんの荷物、これだけ?1週間だよ?」
「この鞄、拡充魔術が施されているので1週間分はちゃんと入っていますよ。その他必要品はこちらのリュックサックに。皆さんの任務にお邪魔させてもらうのに、私が荷物を増やすわけにはいかないでしょう?」
「なんて、なんて心遣い…!ちょっと聞いた?そこの男ども。短期間任務だっていうのに邪魔なものばっかり積もうとするんだから」
「邪魔とはなんだ邪魔とは!アルバさんの快適な調査になるようにこっちは…」
ぶつくさと講釈を垂れるレオナルドを他所に、ガーネットがアルバに耳打ちする。
「あんなこと言ってるけど、メルダもいつもの遠征では持って行かない物を持ってきてるからお互い様だよねぇ。じゃあアルバさんの荷物、荷台に載せちゃうね」
軽々と鞄を持ち上げたガーネットは鼻歌混じりに荷台の方へと行ってしまった。
「アルバ」
博物館の扉を開けて、髪を一つにまとめ大きくストールを肩に掛けたゲルフォルトが出てきた。
「館長?見送りはいいって言ったのに」
「何言ってるんだい、キミは私の大事な家族なんだから無事を祈るのに見送りをするのは当たり前だろう?ダンダリオ団長殿、私の大事な家族をよろしく頼みます」
深々と頭を下げたゲルフォルトの前に、馬から降りたレオナルドが敬礼して応じる。
「もちろんです、館長殿。大事なご家族をお借りいたします」
日が昇り、太陽が辺りを照らし始めた頃。
首都を出発した一行は森へと続く一本道をひたすら行軍していた。
首都ウィルト市は後方に小さくなりつつあり、前方には目的地の惑わせの森の縁が迫ってきていた。
「もう森が…」
「アルバさんって森に行くのは初めて?」
荷台を引く御者台にアルバと並んで座るガーネットが訊ねる。
「いえ、何度か森の手前までは来たことがあるんですが、道が整えられ始めてからは全く」
「それって博物館の史料集めで?」
「そんな所ですね。我が博物館も以前は森開拓の際に出土した遺物を回収し、修復する役目がありましたから。今は学者の研究所に収容されて修復された後、博物館に展示されるようになりました」
「へぇ〜、じゃあさ、もし新しい発見があったらびっくりしちゃうよね」
「そうですね、もしかしたら飛び跳ねてしまうかも……あぁ、でも…」
アルバはガーネットから視線を外して森を見つめる。
「びっくりして逆に黙り込んじゃうかもしれませんねっ、んわっ」
「わあっとっと!ごめんアルバさん!石踏んじゃった…かも……」
ガタンッと大きく揺れた拍子にズレたのであろうトレードマークの帽子を抑えたアルバを支えようと、咄嗟に手を伸ばしたガーネットはズレた眼鏡の奥に光るアルバの瞳をじっと見つめてしまった。
初めて宿舎で出会った時も、今朝の集合の時も、丸い眼鏡のレンズが反射して気づかなかったのもあるが。
「アルバ、さん…その目」
「私の目がどうかしましたか?」
素早い動きで眼鏡をかけ直そうとするアルバの手を掴んでガーネットはグイッと詰め寄る。
「すっごく綺麗な目の色だね!団長のトレードマークと同じ色かな?いいなぁ私は赤だからさぁそのまま名前にされちゃったけど」
「ガ、ガーネットさんの赤い瞳もすごく素敵ですよ」
「やだぁそんな褒め方されたら照れちゃうでしょ〜。あっメルダ、どうかした?」
先行していたメルダが馬の速度を緩めて近づいてきた。
アルバはガーネットに掴まれた手をそっと外し、メガネをかけ直す。
「団長から通達。森の入口に着いたら馬を拠点に置いて休憩。その後アルバさんを目的地まで案内します」
「了解了解〜」
「承知しました」
「森まであっという間だったね!調査頑張ろう!」
「はい、よろしくお願いします」
整備された道が途絶え、目の前には鬱蒼と生える木々が一行を出迎えた。
各々が馬を下りて簡易の厩舎に収容し、仮設の天幕内に運んできた荷物を移していく。
アルバは何かあってはいけない、と森の入口ギリギリのところでレオナルドと2人で作業を見ていた。
「慣れない長時間の馬車移動は大変じゃなかったか?」
「そうですね。道中、ガーネットさんとおしゃべりしていたので退屈はなかったのですが、お尻に限界が来ていますね」
「そうなんだよな…帰りまでにクッションを付けさせるか」
「いえいえお気遣いなく…」
言い終えてアルバは後ろを振り向いて森を見渡した。
木々の間に太陽光が差し込んでいるものの、奥の方は薄暗くなっていて見通せない。
前に抱えたリュックサックをグッと抱きしめたアルバに、レオナルドもまた森を見て拳を握る。
「この森、どう思う?」
「どう、と聞かれても。この"惑わせの森"について長年様々な歴史解釈と考察を見てきた側としては、誰かが住んでいてもおかしくはない、とお応えしましょうか」
「今も住んでいると?」
「そこまでは分かりません。昨日もお話しましたが、"火の森戦役"の犠牲者は人口の約8割…まぁ"言葉の民"の当時の総人口は史料が曖昧すぎるのでほぼ不明ですが、2割の生き残りが留まっているか、別の所に移動したか、ですね」
「そうか……ところで、そろそろその堅苦しい話し方をやめないか?もっと気軽に」
「何をおっしゃいますか。団長様と私は騎士団長と一般人の関係です。それを抜きにしたとて伯爵と一般人なのですから」
「だ、だったらせめてその"団長様"はやめないか?な?」
必死だ、すごく必死だ。
そんなに丁寧に話されるのが嫌だったのだろうか。
「……それならダンダリオ団長?」
「もう一声っ」
「えぇ…」
物欲しそうに目を潤ませて見ないで欲しい。
どうしろというのだ。
「あーもう!団長、一気に距離を詰めようとしすぎ!アルバさん困ってるでしょ」
「そんな事言うなよガーネット」
「そんなのだから乙女心をわかっていないってルーラー選帝侯にも呆れられるのよ。昼食の準備出来ましたよ」
「メルダまで…」
苦笑いするしかないアルバを、メルダとガーネットが両脇を固めて昼食会場に連れていく。
それと入れ替わる形でリッキーがレオナルドの横に立つ。
「距離感やらかした?」
「……うん」
「うわ声ちっさ」
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