5話 森に住まう者たちは
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「さて、全員揃ったところでまずは自己紹介からするか」
書類を出しに行ったメルダと残りのメンバーを連れてきたリッキーが戻ると、一同は室内中央の長机を囲んで顔を合わせた。
「まずは俺からだな。改めて、開拓騎士団団長レオナルド=ダンダリオだ」
「僕も改めましてだね。リチャードだよ、リッキーって呼んでね」
「あたしはメルダ。探し物ならお任せを」
「ボクはウィリアム、レオナルド団長の情報屋。よろしく」
「アタシはガーネット!ガイドさんの噂は聞いてるよ、一緒に森に行けるの楽しみ〜」
「あ、アルバ=ノービレです。よろしくお願いします」
軽い自己紹介を終え、レオナルドは本題を切り出す。
リッキーは予備の小さいチェアをアルバに勧めて座らせた。
「俺たちが聞いた“森の声”は確かに「ししおうがかえってきた」だったな」
「はい、団長の真後ろにいたあたしとリッキーも確実に聞こえました。でも…」
「ボクとガーネットは鈴の音が鳴っているだけで言葉は全然把握できなかったよ」
ここにきて新情報である。
声が聞こえた者と音が聞こえた者が同時に存在すること。
森の巡回に従事していた全員が言葉を聞いたわけではないようだ。
「では声ないしは鈴の音が聞こえる直前は何か変化はありませんでしたか?」
「特に気になる変化はなかったな。いつも通り森の入り口から500mほど入り込んで首都方向にまっすぐ警戒しながらの巡回だった」
「その間に誰かに会う事もなかったね」
となると考えられるのは惑わせの森の小さな伝承。
人間では無い何かの伝承だ。
「鈴の音と人間の言葉、森の縁辺りということを踏まえると、1つ思い浮かぶことがあります。お伽話のような小さな伝承程度ですが」
居住まいを正してアルバは語り始める。
惑わせの森に住まう者たちの伝承を。
「この伝承は幻想的すぎて歴史的価値が相当低く設定されてしまったものの1つですので、そのまま鵜呑みにするのは危険であることをご承知ください。帝国の北隣に広がる“惑わせの森”には言葉に魔力を乗せて魔法を扱う“言葉の民”が住んでいた、というのは皆さんもご存知のはず。ですが彼ら以外にも森には“言葉の民”の生活を手助けしたり、時には困らせたりする目に見えないモノたちも住んでいたとされています。伝承史料の中では「妖精」、もしくは「精霊」、「鈴の音」と表現され、このモノたちが言葉を発する際鈴の音が同時に聞こえると書かれています」
アルバは博物館から持ってきた史料の写しを長机の上に並べていく。
焚き火のようなもののそばに座る小さな人間のような生き物の絵、泣いている赤ん坊の横で笑っているように見える虫の羽のようなものが付いた小人の絵、祈る人間と同様に祈りを捧げる小人の絵などが並んだ。
「この絵は精巧すぎて学者や研究者からは検証の価値なしと言われた物ばかりです。でも帝国には魔法石を利用した魔術があるように、科学では証明できない物が存在する以上これら妖精たちの存在も完全には否定できません。そして本題の伝承についてですが…」
アルバは言葉を切ってレオナルドをじっと見つめる。
「妖精たちと心を通わせ魔法を強化する術を持った者は、証として「紐」と呼ばれる髪の一部が変色する現象があったと。「紐」を持つ者の子や孫に適性者がいれば受け継がれるものでもあり、妖精や精霊が好む金色や“蜂蜜色”に輝くとされています」
その場にいた者の目が一斉にレオナルドの方を向いた。
レオナルド本人も状況が飲み込めないのか、言葉が出てこない様子だった。
「えっ、ちょ、ちょっと待って!言葉の民って、生贄を捧げて悪魔の声を操る恐ろしい部族だって学校で習ったよ? 妖精と仲良しだったなんて、そんな可愛い話だったの?」
ガーネットが目を丸くして呟いたのを、ウィルが補足するように続ける。
「ボクたちが学ぶ公的な歴史書では『精神汚染を引き起こす異能集団』と定義されてるから。アルバさんの言う伝承は、かなり……好意的すぎるというか、異端に近いよ」
リッキーとメルダもは何も言わず、ただレオナルドの言葉を待っていた。
「こんな偶然が……あるのか…?」
「先ほども申し上げたように、この伝承は鵜呑みにするには危険なものです。しかし“言葉の民”が絶滅した証拠もない以上、火の森戦役を生き延びた民の一部に「紐」持ちがいて子孫を残していた可能性はあります。団長様のご先祖様の中にももしかしたら」
レオナルドは曾祖母譲りの蜂蜜色の髪を撫でる。
「…確かに曾祖母は俺に「言葉は武器にもなるから気をつけるんだよ」と会う度に言っていた。魔法石の扱いも魔術師以上の技術を持っていた。もし、曾祖母の先祖に“言葉の民”がいたのだとしたら、俺は一体…」
「団長様は団長様でしかありません。“言葉の民”もただの人間です。生き物の本能として子孫を残しているだけですから、気にすることなんてないんです」
そうでしょう?とアルバは微笑んだ。
自分は自分でしかない、そう言われてレオナルドはどこか肩の荷が軽くなったように穏やかな表情を浮かべた。
「アルバさんにそう言われると説得力があるな」
「そう思われるのでしたらガイド冥利に尽きますね。言葉を扱う者として良き褒め言葉です」
少し甘酸っぱいような空気感が流れ始めたのをリッキーは慌ててストップをかけた。
「はいはい、いい雰囲気のところ申し訳ないんだけど、肝心の「ししおう」はどうするのさ?アルバさんの言うように伝承の妖精が喋ってたんだとしたら、そいつらの言う「ししおう」ってのはどんな意味になるの」
「その点については実際に音を聞いてみないとわかりませんね。私は文献史料を元に考察をしているだけですので、確証を得るには実地調査が必要になってきますが」
「そう言うこともあるだろうと思って、備品管理部に1人分多めに遠征備品を申請しておいた。さっきの書類の山は実地調査の下準備だったんだよ」
「あ、そう。ホント外堀を埋めるのが速いことで」
「お?なんだリッキー褒めてるのか?何も出ないぞ」
「出さなくて結構。じゃあ明日からの遠征はアルバさんも同行ってことで、僕たちも準備すればいいね」
明日?今、明日からって言ったか?
「そうしてくれ。それじゃアルバさん、明日の朝の鐘5つに博物館の前に迎えにいく。大体そうだなぁ…1週間くらいの日程だと思って準備していてくれないか?」
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