4話 ガイドさんと騎士さん
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ルーラー選帝侯の書状の件から3日後。
私服に身を包んだアルバは開拓騎士団の拠点である総合宿舎に来ていた。
相変わらずの大きな帽子と丸い眼鏡で、周りの目は数奇なものを見ているかのようだった。
アルバが歩けば人垣がサッと両脇に捌けていく。
──なんだか、創世神話の海を割る神にでもなった気分だわ
この状況を楽しみつつ向かうは宿舎の受付。
髪をきゅっと結い上げた女性が素っ気なく対応してくれた。
「本日のご要件は」
「…開拓騎士団長様にこちらに来るよう言われて来たのですが」
「何か書面等は」
「いえ、口頭でのお約束でしたので」
「はぁ……そのような方にはい、そうですかと言える訳ないでしょう。お引き取りを」
それはその通りだ。
急に来た騎士の風貌などない一般人の女が、団長に会わせろだなんて怪しいにも程がある。
しかしどうしたものか。
「……では団長様に"帽子のガイド"が参りました、と確認を取って貰えますか?」
穏やかに頼んではみたものの、この受付兵士、すごく面倒くさそうな顔をしている。
博物館の受付でこんなことをすると、ゲルフォルトに1日お説教コース待ったなしなのに。
程なくして確認を終えたのか、素っ気ない受付兵士ともう1人男の兵士がやってきた。
こちらは騎士の風貌がある。
「もしかして団長が呼んだ博物館のガイドさんってキミ?」
「はい、アルバ=ノービレと申します」
「うんうん、確かに団長が言ってた通りの大きな帽子とまぁるい眼鏡、すごく丁寧な言葉遣い。間違いないよ、この人はうちのお客さんだから手続きしてあげて」
騎士の男に言われ受付兵士は書類を作成するとネームホルダーを差し出してきた。
「これは入舎許可証です。首にかけて無くさないでください」
「ありがとうございます」
「よし、これで準備OKだね。僕はリチャード、レオナルド団長の右腕をさせてもらってる。お迎えに行くのが遅くなってごめんね」
「よろしくお願いします、リチャード様」
「あはっそんな畏まらなくていいんだよ。気楽にリッキーって呼んで」
リチャード改めリッキーに宿舎を案内してもらいながら、ようやく団長室に辿り着いた。
今通ってきた宿舎の廊下の最奥、団長がここにいると示す重厚な木の扉が目の前にある。
「緊張してる?」
「それなりには。一般人は絶対に入れない所ですから」
「それもそうだよね。まぁでもそんなに緊張することないよ。団長のお客様は丁寧に扱うようにって僕ら口酸っぱく言われてるからさ。でも…」
リッキーはグッと身を屈めてアルバと視線を合わせるように顔を覗き込む。
「君がそのカバンの中にナイフの1つでも入れていたら話は別だけどね」
チョコレートブラウンの瞳が睨んでくる。
さすがは団長の右腕、瞳に孕んだ殺気が恐ろしい。
何も言えずに困っていると、通りかかったベージュブラウンの髪を高く結い上げた女性がリッキーの頭頂に手刀を入れた。
「いっっった!?」
「リッキー、またそうやって脅す癖、良くない」
「脅してないよ警告だよ警告!団長に何かあったらどうすんのさ!」
「警告なんていらないでしょ。あの団長だもの、自分の身は自分で守るし。ようこそアルバさん、レオナルド団長が待ってますよ」
ベージュブラウンの髪の女性は扉を開け、アルバを中へと通した。
書類の山に埋もれた黒髪が右へ左へと揺れている。
「団長、噂のガイドさんがきましたよ」
「あー、来てもらったところ悪いんだが、そっちのソファに掛けて待っててもらえないか?急ぎの書類を片付けてしまいたいんだ。メルダ、俺のとっておきを出していいから頼む」
「…だからあれほど昨日までに終わらせろってみんなで言ったのに……アルバさん、こちらにどうぞ」
メルダと呼ばれたベージュブラウンの女性は入って右手に備え付けられたソファに案内した。
客をもてなすには少し小さいテーブルは休憩用にしか使われていないことがわかる。
通されたソファに静かに座ったアルバにメルダはニコリと笑いかけながらマグカップを2つ持ってきた。
「帽子脱がないんですか?」
「昔、額から頭部にかけて大きく傷を作ってしまって。恥ずかしくて脱げないんです。失礼ですがこのままでいさせてください」
「こちらこそ事情を鑑みず失礼しました。ところでアルバさんはコーヒーには砂糖派?それともミルク派?」
「あ、えっと、ミルク派です」
「分かりました。リッキー、しょげてないでコーヒー用のミルクお願い」
言われたリッキーはしょぼくれた顔でミルクポットをテーブルに置くと、小さくごめんよ、と漏らしてから離れていった。
「別に謝ることじゃ…」
「何を言いますか。リッキーは団長が好き過ぎるあまり、さっきみたいに人を脅すことがあるので教育中なんです」
「でも団長様を守るのは普通のことでしょう?それに先ほどのことは当然の反応だと思います。だって私とリッキーさんは初めましてですし、警戒も警告も怠るべきじゃない」
気にしていませんよ、と笑ってコーヒーを飲むアルバに、メルダは驚きを隠せなかった。
──こんな落ち着いた一般人が博物館のガイド?普通団長を見ただけでわーきゃー言うのが市井の女の人のはずでしょ?
「アルバさんって仕事一筋の人?」
自分用のコーヒーを持って再び現れたリッキーにアルバは笑う。
「そうですね、私は歴史に触れている瞬間が好きなので」
「だったら団長を見てきゃーって言わないのも納得だよねぇ」
リッキーの言葉にメルダはギクリと肩を揺らす。
考えていたことがバレていたようだ。
「あの、団長様の髪って…」
「あーあれ気になるよね。団長のチャームポイントって僕たちは呼んでるんだ。珍しいよね、一部だけキレイに蜂蜜色なんだもん」
「他にはいらっしゃらないのですか?」
「んーどうだろ?僕たちは団長しか見たことないけど…どうかした?」
「いえ、団長様がお聞きになった“森の声”の内容が、帝国史に存在する歴代の獅子王を指すのであれば同様のチャームポイントの騎士様がいらっしゃるのではないかと思って」
んー、とコーヒーを口に含みながらリッキーは何かを考えている。
横に座るメルダも考えているようだ。
その間にアルバはぐるりと室内を見回してみた。
窓の光で蜂蜜色の髪を光らせているレオナルドが座る団長席。
その右手には分厚い書籍が狭そうに並ぶ本棚が2つ。
団長席の前には作戦会議で使うのだろう長机。
壁には帝国地図や画家に描かせた騎士団の集合絵と小さい子どもの絵も飾ってあった。
「ダメだ、全っ然思い出せない」
「あたしもダメね。記憶力はいい方なんだけど。ごめんなさいアルバさん、お力になれそうにないです」
「ずっと思い出そうとされていたんですか!?すみません、私が余計なことを言ったから」
「いいのいいの、気になったのは僕の方だし。て言うか団長?いつまで書類に時間かかってんの?」
「………お」
「お?」
「終わっっっったぁぁぁ!!メルダこれは会計部に、こっちは備品管理部に、これは魔術研究院に頼む。リッキーは残りのメンツを呼んできてくれ」
「はいはい。お疲れ様でした」
「あいつら呼んでくる」
「ふぅ、やっと書類から解放された…お待たせして申し訳ないアルバさん。メルダとリッキーが戻ってきたら森の件について話そう。っと、その前に」
レオナルドは立ち上がって腰を伸ばしながら、机上にあったマグカップを持ち上げた。
「コーヒーを淹れ直そうか」
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