2話 開拓騎士団団長
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ウィリティング帝国には由緒正しい騎士団がいくつか存在する。
1つは帝国騎士団。
ウィルト王国時代から清廉潔白、質実剛健を掲げて王国と帝国を護り続けてきた。
現在騎士団長は雷の魔法剣を扱う者のみが任命される事になっている。
2つ目は魔法師団。
こちらはウィリティング帝国建国後に設立された魔法に特化した騎士団で、魔法具の発明もここが担っている。
3つ目は開拓騎士団。
"火の森戦役"のきっかけになった曰く付きの騎士団。
当時は森の開拓を担っていたが、現在は森周辺の警備や有事の際の先遣隊の役割を担う。
現在の開拓騎士団団長は水の魔法剣を扱い、市井でもそこそこの人気の男騎士が着任している。
「その開拓騎士団の団長が憂鬱そうな顔をするものじゃないよ」
騎士団の宿舎廊下でいかにも高位の貴族だろう男は開拓騎士団団長に声をかけた。
「!こ、これは大変失礼しました、ルーラー選帝侯」
「レオ、今は僕と君しかいないのだからそんなに畏まらなくていいんだよ」
「………ほんっとにお前は神出鬼没だなモルト。今日は何の用だ?」
「レオナルド=ダンダリオ団長。君は何か悩んでることがあるんじゃないかな?」
貴族の男、モルテナウス=ルーラーは真剣な眼差しでレオナルド=ダンダリオに問いかけた。
フルネームで呼ばれたことにレオナルドはグッと身構え、しどろもどろに応える。
畏まらなくてもいいと言ったのはそっちなのに。
「笑わ、ないか?」
「勿論だとも。幼なじみの悩みなんだからね」
「……実は惑わせの森で変な声を聞いた」
「変な声…どんな?」
「たしか『ししおうがかえってきた』だったな」
「『ししおう』……?獅子王か?」
「分からない。子どもがはしゃぎながら喋っているみたいだったからな」
ふむ、とモルテナウスは長考する。
帝国史には確かに獅子王は存在したとされている。
領土拡張に奮闘した者、国内のクーデターを鎮圧した者、誰も彼も武勇を挙げたものは獅子王と呼ばれていた。
しかし目の前にいる幼なじみは果たしてそうか?
由緒正しい騎士団の1つの長を任されているとはいえ、彼の、今の開拓騎士団の主な仕事は森の監視と有事の際の尖兵だ。
レオナルドの力量は申し分ないが。
「モルト?」
「……あ、あぁ、いや何でもない。森の巡回中に聞こえてきたというのは少し気になるけれど」
「そうだな。部下に凄く目がいいやつがいて子どもがいるかを探ってもらったんだが、子どもどころか人の姿1つないと言っていた」
「となると……惑わせの森に詳しい人物に話を聞く方が早いかもしれないね」
「何でだよ。ていうかいるのか?そんな奴」
「いるよ?知らないかい?帝国一の、惑わせの森や火の森戦役についてガイドさせたら右に出るものはいないって言われている、凄腕のガイド」
モルテナウスはパチリとウィンクした。
レオナルドは口を開けて言葉も出てこない様子だ。
「……ガ、ガイド?」
「そ、ガイドさんだよ」
「……という訳で、ルーラー選帝侯より書状とこちらの博物館に所属する"帽子のガイドさん"とやらに話があるのだが」
受付で騎士団所属であることを表す濃紺の制服に身を包み、同じく濃紺の制帽を被ったレオナルドはモルテナウスから預かった書状を差し出す。
左胸に輝くいくつかの勲章の威圧と騎士団長直々の来館ともあって、ベテラン受付のジーンでさえも萎縮してしまっている状況だった。
「ま、まずは当館館長に書状の内容の確認と、ご指名のガイドであるアルバ=ノービレを呼んでまいりますので少々お時間いただきますがよろしいでしょうか?」
「あぁ、よろしく頼む」
ジーンは軽く会釈して席を立つと、足早に館長のゲルフォルトがいる館長室へと向かった。
ノックを3回して返事も半分聞かないまま、失礼します、とドアを開ける。
「ちょっとジーン?君らしくないよ返事も待たずに…」
「申し訳ありません館長。今受付に開拓騎士団団長のレオナルド=ダンダリオ様が」
「開拓騎士団長が?何の用で?」
「こちらを」
ジーンから封筒を受け取ったゲルフォルトは差出人を見て眉根を潜ませ、引き出しからペーパーナイフを取り出して封を切る。
取り出した手紙にサッと目を通すと大きなため息を1つ吐いた。
「団長殿のお相手は僕がするから、ジーンはアルバを呼んでき……あ、ダメだ、今ガイド中だ」
「あー……いえ、まもなく終わるはずですので呼んできます。どちらにお連れしますか?」
「そうだねぇ、とりあえず館長室に連れてきて」
「かしこまりました。では後ほど」
ジーンとゲルフォルトは共に館長室を出るとそれぞれの向かう場所へと歩き出す。
ジーンは最終展示のエリアへ、ゲルフォルトは受付へ。
「(アルバのツアーは……あ、いたいた)アル」
「お引き取りくださいと申し上げているんです!」
アルバにしては珍しい怒りの声。
誰かと揉めているのだろうか。
大人気ガイドも来館者の執拗な接触には我慢の緒が切れたらしい。
「アルバ、どうかしたの?」
「あぁ、ジーンこちらの歴史学者様を出口までお連れして。私は最後までツアーの案内をするから」
「なっ!貴様っ私の話は終わっていない!こっちを向け!」
如何にも傲慢で出来たような印象の髭面の男が地団駄を踏み、アルバに掴みかかろうとした。
「そうやって掴みかかるのは、学者のすることなのか?」
振り上げられた拳をグッと引いたのは、受付で待っているはずのレオナルドだった。
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