8話 惑わせの森 邂逅
かなり言葉がよろしくないキャラが出てきます。ご注意ください。
3/20 修正しました
翌朝、調査5日目。
朝から重々しい空気が流れていた。
いつもなら明るく挨拶を交わすアルバとレオナルドが小さく淡々と交わすだけになっていた。
周りの騎士たちも心配そうに2人を見ている。
「ほんと何やらかしたのレオ」
「ここでは言えない」
「はぁ?あれだけ距離感考えろって」
「うるさいぞリチャード」
リッキーはビクっと肩を跳ねさせ、半歩引いた。
周りにいた騎士たちも、まだ朝の涼しい時間にも関わらず額に玉のような汗をかいている。
少し離れたところで朝食を取っていたメルダとガーネットも、一連の流れを見て動揺していた。
「い、今リッキーが怒られたの?なんで?今怒るとこあった?!」
「あたしに聞かないでガーネット。なんであんなイライラしてるのかこっちが聞きたいって」
2人のやりとりにアルバは心の中で土下座していた。
──あ〜〜本当にごめんなさい〜私の、私のせいなんです〜…これは、私が責任をとって行動に出るべき?いや余計に拗れる?どうするどうするどうする
ぐるぐると頭を回転させて閃いたのはたったひとつ。
アルバは食器をテーブルに置くと自分の革鞄の所までダッシュする。
ガサガサと中身を探し取り出したのは、博物館受付のジーンがおすすめしてくれたハーブティのパック。
アルバはそれを持って共同炊事場まで戻り、マグカップにティーポットで煮出したハーブティを注いでレオナルドの前に持って行った。
「先ほどは素っ気ない挨拶で失礼しました。騙されたと思って飲んでください」
相変わらず隈がひどいレオナルドはじっとマグカップの中を覗いて一口飲む。
ふた口、み口、ただただ静かにゆっくり飲み干していく。
「……すまない、気を遣わせた」
「いいえ、私は以前頂いた団長さんのとっておきのお礼をしただけですから」
一気に緊張感が解け、騎士たちの間に安堵のため息が漏れた。
流石のリッキーもごめんのジェスチャーを送る。
「アルバさん、団長に何あげたの?」
「ただのハーブティですよ。私の家族からのおすすめでイライラした時こそ飲むんだって」
朝食後、多少のギクシャクはあるものの今までと同じ調査が始まった。
ただ今回からはもう少し森の中心部へ向かう。
「これより未開拓の地に入る!終始警戒を怠るな!」
「了解!」
陣形を組んで森の奥へと入っていく。
やはり今までと同様、不気味なまでに静かすぎる。
太陽の光も届きにくいのか薄暗さが増している気がする。
嫌な緊張感のまま歩くこと数分。
チリン
鈴の音が大きく響いた。
一般人のアルバを囲むように一斉に警戒態勢に入る。
こんどこそ まもるんだよ
か細い女児のような声。
聞き取れたのはレオナルド、リッキー、メルダ。
「今度こそ守るんだよ…?」
「守るって何を?てか前と違うじゃん」
「また鈴の音しか聞こえなかった〜」
「…言葉の意図が全くわからんがこのまま進んで……アルバさん?おい、どうした!?」
レオナルドの後ろで静かに震えていたアルバ。
上半身を縮こめて肩で息をしている。
「全員警戒を解くな!大丈夫だ、ゆっくり深呼吸するんだ…そう、ゆっくり」
レオナルドの大きな手がアルバの背中を支えて落ち着かせる。
「ごめ……なさ…」
「謝らなくていい。何があった?…まさか、聞き取れたのか?」
アルバは小さく頷く。
「わかる範囲でいい、何を守るんだ?」
丸い眼鏡の奥で蜂蜜色の瞳が大きく揺れる。
「守る、のは」
すぃ し おぅを まもって
再び聞こえた声に、アルバは反射的に顔を上げた。
直後、警戒態勢をとっていた後方から、「ぐあっ」「ぎゃあっ」と悲鳴が飛んできた。
悲鳴の方向を見ると木の根や蔦に吊り上げられた何人もの騎士の姿があった。
「何だ!?何が起こって」
「伏せて!」
アルバはレオナルドを強引に引っ張って地面に伏せさせた。
伏せた者たちの頭上を木の枝がブォンと音を立てて通り過ぎていく。
「てめぇ邪魔すんじゃねぇ!!」
森にこだまして聞こえてきたのは男のダミ声だった。
「ったくよぉ、ただでさえ帝国のクソ兵士どもがここまで入ってきてることに苛立ってんのによぉ…すっこんでろ帽子のクソ野郎!!」
「…姿も見せず人を罵倒するとはいい度胸だな。出てこい、問答無用で叩っ斬ってやる」
「うるせぇ!クソ兵士が俺に指図すんじゃねぇ!てめぇらはここで森の木々に滅多刺しにされて死ね!」
男の声に反応してか、森の木々が枝や根を動かして騎士団一行を攻撃し始めた。
レオナルドは腰に下げていた魔法剣を抜き、伸びてきた枝や根を次々と切り落としていく。
リッキーたちもそれぞれ武器を持ち出して対応にしていく。
「くそっ何なんだてめぇらっ……めんどくせぇ!てめぇから死ね!」
男が狙ったのは丸腰のアルバだった。
捩れて先が槍のように尖った枝が、猛スピードでアルバに迫る。
「アルバ!」
別の枝を弾いてレオナルドは手を伸ばした。
「大丈夫」
カコンと枝の先が消えて枝の勢いが落ちた。
「護身術は体得済みなの」
見たことのない意匠の短剣をヒュッと振り下ろしたアルバにレオナルドが駆け寄ってきた。
「そういうのは先に言っててくれないか…肝が冷えた」
「使わない方に賭けていたもので。レオナルド団長、相手はおそらく“言葉の民”です」
「あぁ、そのようだ」
アルバとレオナルドが見上げた先にはベリーショートの金髪を整髪料か何かで逆立たせた筋肉質の男が太い枝の上に立っていた。
発していた言葉が体を表すように、身なりも刺々しく、言うなれば帝国に時折現れる小悪党のような感じ。
「奴は“紐”を持っていそうか?」
「髪が全体的に金髪なのでちょっとわかりませ」
「ごちゃごちゃうるせぇな!なんでてめぇが“紐持ち”の事知ってんだよ!ウゼェ、うぜってぇ…!」
枝葉がガサガサゴォゴォと音を立てて荒れ始める。
まるで男の心境に呼応しているかのようだ。
「まずいな…総員!負傷者を保護し撤退するぞ!ウィルとメルダは活路を開け!リッキーとガーネットは拘束されている仲間の救出!無傷、軽傷の者は重傷者を護送!アルバ、さんは…」
「もうアルバと呼び捨てでいいですよ、レオナルド団長。お供します」
「無茶はするなアルバ」
「そちらこそ」
ガイドらしからぬ不敵な笑みを浮かべてアルバは男を見上げる。
「くそっ!クソが!調子に乗りやがって!」
「あなた、"言葉の民"なんでしょう。大人の人に教わらなかったの?言葉は武器になるんだって」
「だからなんだってんだ!俺たちは言葉に魔力を乗せてっ」
「知ってる。でもそういうの、驕りって言うの」
ガサッと音を立てて、男の背後にレオナルドが現れる。
剣ではなく右の拳を振り切った。
ゴドンと大きな音と共に男は木から殴り落とされ、地面に全身を打ち付けて藻掻いている。
木から降りてきたレオナルドは引きちぎってきた木の蔦で手際よく男を拘束した。
「これで髪はわかるか」
「はい。でもこの人は金髪に染めていますね」
「そうか」
「おい!クソ兵士!なんでてめぇが"紐持ち"なんだよ!!そいつは俺たちにとっちゃ神聖なモンだ!」
「ちょっと、近いのにそんな汚く叫ばないでくれますか?うるさいので」
アルバはリュックから手袋を取り出すと男の口に突っ込んだ。
重軽傷者の護送を終えたリッキーたちも合流してきた。
「うわっ何こいつ」
「"言葉の民"」
「はぁ!?こいつが!?」
足元でモガモガと暴れる男を押さえつけつつ、レオナルドはサラッと答えた。
重軽傷者の数と状況を共有し、男をどうするかを話し合っていた時だった。
レオナルドの背後の草が揺れた。
キィンッと甲高い音がしてようやく振り向いたレオナルドの視界に、アルバの帽子と鮮血の赤、真珠のような銀色、そして木漏れ日に反射する蜂蜜色が広がる。
「疾く失せろ。次はない」
ビリビリと空間を揺らされているような重圧に、草の向こうで人影が去っていくのが見えた。
リッキーとメルダが追おうとしたが、レオナルドは留める。
「……アルバさん、なんで…」
怯えた声音でガーネットは呟く。
「なんでって…そんなの」
アルバは足元に落ちた帽子を拾い上げ、申し訳なさそうに微笑みながら振り向く。
「森の妖精に今度こそ守れって言われたから」
森に一筋の柔らかい風が吹き、アルバの髪を舞いあげた。
それにより、さらに分かりやすく露わとなった。
真珠のような銀髪の中、額左側から後方にかけて伸びる蜂蜜色の"紐"が。
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