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7話 惑わせの森 調査

3/20 修正しました

 昼食を取り終え、それぞれが森に入るための準備に取り掛かった。

「森に入るのは俺、リチャード、ウィリアム、メルダ、ガーネット、そして特別同行のアルバさんを先頭に、残り10名を加えて行軍する。残りの者はここで拠点の防衛を頼む」

「了解!」

「今日午後より7日間、惑わせの森の巡回及び警戒、そして学術調査を執り行う。皆、各自の安全を確保を最優先に行動に移れ」

「了解!」

 バタバタと慌ただしくなる。

「今から日没前まで森に入るが、持っていく荷物は大丈夫か?」

「あっえっと……あ!」

「なにか忘れたのか?」

「出土品を収容する際に装着する布手袋をリュックサックに入れ替えるのを忘れていました。取ってきてもよろしいですか?」

「あぁ、構わない。アルバさんが戻り次第森に入るから心の準備もしておいてくれ」

「…分かりました」

 アルバは自分の必需品を入れた鞄の所へ走る。

 今回の遠征には女性騎士がメルダとガーネットを含めて8名参加しているため、女性用の天幕も設置されていた。

 お陰で鞄もすぐに見つかった。


──手袋、手袋……あった。ルーペも忘れてるし


 リュックサックの中身をもう一度確認していると、ふと周りの音が消える。

 しんと静まり返った天幕の中で、チリン、と鈴の音が1つ。

 心臓が早鐘を打ち始める。

 呼吸を整え勢いよく振り向いたが、何もなく音も戻ってきていた。

「アルバさーん?準備できた〜?」

 天幕の外からガーネットの声も聞こえてくる。

「は、はい!すぐ行きますね!」

 平静を装いながらアルバはもう1つ荷物を取り出した。

 鞄の奥底に使わないことお祈りながら入れたあの無骨な短剣を。



「お、戻ってきたな。よぅし行軍部隊集合!これより森に侵入する」

「おぉー!」

 拠点守備を任された騎士たちに見送られ、一行は森の中へ入っていく。

 100mほど奥に進んだくらいから徐々に日光が当たりづらくなり、薄暗さが漂う。

「いいか、アルバさん。何があっても俺たちから離れないでくれ。少しでも異常があったらすぐに言って欲しい」

「分かりました」

 そうは言うものの、この日は新発見も、目的の「ししおう」の正体に迫るものも出てこずに調査が終了した。

 時折、アルバによる植生の講座だったり、かつて森で発見された物の話で盛り上がりはしたが。

「今日は収穫なしか〜」

「まぁそんなすぐに出るようなものでもないだろうし、明日以降に賭けよう」

「そうだね〜」

 野営地で夕食を取りながら情報を共有しあい、初日の任務を終えた一行はそれぞれの寝床に向かう。

「ねぇねぇアルバさん。森で話してくれた、発掘された物の続きが聞きたいんだけど」

「えっ何それ気になる!」

「ちょっとホットミルク持ってくるから私も聞きたい!」

 女性用の天幕内で居残り組だった女性陣も加わり、ガーネットを中心に考古学の話で盛り上がった。

 最終的にメルダの雷が落ちてお開きとなってしまった。

「あ〜面白いね。悪魔の技を使うような奴らなのに、すごく生活感があってギャップ?ていうのかな…その辺りが特に面白いよね〜」

「人間誰しも生活を営むものですから。さ、そろそろ寝ましょう?メルダさんに怒られますよ」

「はーい。明日は何か見つければいいね」

「そうですね…」

 ガーネットとの小さな話し合いも程々に、寝具に潜って眠りにつく。

 周りの寝息を聞いているうちに、アルバも深い眠りに落ちて行く。

 またどこかでチリンと小さく聞こえた気がしたが、瞼は重く無視したまま眠った。



 2日目は早朝から調査だったが、収穫はなしだった。

 午後も、その次も、その翌日も。

 遠征日程の折り返しにかかるまで何の成果も上がらなかったのだ。

 4日目の夜。

 妙に寝付けずにいたアルバは保温性抜群のマグカップを片手に上着を羽織ってそっと天幕の外に出た。

 今晩の不寝番は男性陣から選出されており、女性陣は皆夢の中。

 外は必要最低限の松明や焚き火のみに火が灯り、見上げた空は満点の星空が広がっている。

 共同の炊事場から水だけをもらい、マグカップの火の魔法石をほんの少しだけ発動させると冷たかった水はちょうど良い白湯の温度まで温められた。

 それを持って誰の目にも止まるだろう天幕と天幕の間の焚き火のそばに置いてあった椅子に腰掛ける。

 この4日間の調査内容を思い出しながら白湯を口に含む。


──今日までの調査範囲はすでに学者たちが掘り起こし済みだったと考えれば、ここまで何も成果が上がらないのは頷ける。でも肝心の「ししおう」が掴めていないのはどうして?今日通った獣道で団長さんは声を聞いたって言ってたのに


 初日の鈴の音を聞いて以降、アルバの耳にも鈴の音やそれらしき音や声は聞こえてきていない。

 恐ろしいまでに静かなのだ。

 獣道があるということは動物が生息している証拠。

 木の実がまばらについていた木があったのは動物が食べたか、収穫した誰かがいる。

 仮に人間はおらず、動物たちの楽園になっているとしても夜まで静かすぎるのはかえって不気味だ。


──まぁ考えすぎもよくない。グーフォからも証拠なしに事実を語る物じゃないって言われ続けているし……そろそろ寝よ

「そこにいるのは誰だ」

「んびゃあぁっ!」

 急に声をかけられて奇声を発してしまったアルバは慌てて上着のフードを目深に被り、口に手を当てて振り向いた。

 暗がりからヌッとレオナルドが出てきた。

「…なんだアルバさんじゃないか。驚かせてすまなかった」

「こ、こんばんは団長さん…」

「こんばんは。なんだか目が冴えてしまってな、水を1杯もらおうと思って来たんだが…もしかしてアルバさんも?」

「はい。妙に寝付けなくて。私はもう寝に戻りますのでよろしかったらこちらの椅子をどうぞ」

 アルバは立ち上がって椅子を勧めたが、レオナルドは別の椅子を持って来て横に並べて座った。

「もう少し座っていかないか」

 焚き火に照らされたインディゴブルーの瞳がじっと見つめてくる。

「……わかりました。もう少しだけですよ」

 根負けしたアルバは再び椅子に座った。

 立ち去ろうとした手前、妙に気まずい。

「すまない。俺は嘘をついた」

「え?」

「目が冴えたんじゃない。悪夢を見て眠れなくなってしまったんだ。騎士団長が聞いて呆れるよな」

自嘲気味に笑うレオナルドの目には遠征初日と変わらず隈がくっきりと浮かんでいる。

「悪夢を見始めたのはいつから?」

「父上が亡くなって爵位継承権が叔父上に取られた辺りから…いや、もう少し後だな。母上が地位にこだわる方で、俺に会うたびに爵位を取り戻せと迫ってくるんだ。それからだな、悪夢を見るのは」

 あの快活で部下の信用も厚い開拓騎士団長が漏らした弱点。

 コーヒーにこだわるのはおそらく眠りたくないからだ。

「そのことを、どうして私に」

「どうしてだろうなぁ。アルバさんを見ていると幼馴染みを思い出してつい話したくなるんだ。俺の幼馴染じみはベッキオ館長に書状を送ったモルテナウス=ルーラーなんだが、あいつもキミと同じ蜂蜜色の瞳をしているんだ」

「気づいて……いたんですか?」

「あぁ、初めて会った時から。キミは多分無意識なんだろうけど、目を伏せて話す傾向があるからおそらく触れてほしくないことなんだろうと思って口に出さなかった」

「そこまで見抜いておいででしたか。隠し通せていると思い込んでいた自分が恥ずかしいです」

「そんなことはない。他の連中はガーネット以外気づいていない」

 ガーネットは言いふらしたりなどしていなかった。

 ただ純粋に綺麗な瞳と見ていただけで、レオナルドにだけ報告したのだろう。

「1つ質問してもよろしいでしょうか?」

「ん?どうした急に畏まって」

「ルーラー選帝侯様の瞳も蜂蜜色とおっしゃいましたよね?他にも蜂蜜色の瞳、もしくは髪をお持ちの方はいらっしゃいますか?」

 レオナルドはうーんと考え込む。

 しばらくして思い出したとばかりにアルバを見た。

「たしか皇帝陛下も光の加減で蜂蜜色のラインが瞳に入るとモルトが言っていた。普段は全く違う色なんだが、玉座に座られる時は特に見えやすくなるんだとか」

「であるのならおかしいと思いませんか?」

「何が?」

「団長さんたちは座学において“言葉の民”は恐ろしい部族だと、精神汚染を引き起こす異能集団だと教えられるのですよね?そんな集団の中で特に力を持つ者は蜂蜜色の紐、または蜂蜜色の瞳を持つとされます。どうして皇帝陛下や選帝侯様のような国の中枢に同じ物を持つ方がいらっしゃるのですか?」

 言われてレオナルドはハッと息を呑む。

 そうだ、なぜ考えなかった?

 帝国史を学ぶ際に毎度の如く先生が言っていた。

“言葉の民と言う者は、見つけ次第排除しても良いとされるほど、帝国に反抗した野蛮な者たちだ。奴らは我々帝国国民を洗脳しうる危険な技を持っている、気をつけろ”と。

 そんな奴らの血が皇帝陛下と幼馴染みの中にも、俺の中にも流れているというのか?

「じょ、冗談のも程があるぞアルバさん。流石に笑えないな」

「ですがっ」

「今日はここでお開きにしよう。明日に響くからな。天幕まで送ろう」

 スッとアルバの手を取り立ち上がったレオナルドはそのまま歩き出した。

 アルバも手を掴まれたまま従うしかなく、天幕まで無言で歩いた。

「引き留めてすまなかった。良い夢を」

「……はい、おやすみなさい」

 軽く手を振って去っていくレオナルドの背を見送り、アルバは天幕の中に入る。

 チリチリチリと耳鳴りがうるさい。

「わかってる。現実を突きつけられた人は、誰だって最初は受け入れられないもの」

 外を歩くレオナルドも耳鳴りに苛まれ、あまりの苦痛につぶやく。

「すまない…あんなこと、本当は言いたくなかったんだ…」





「おいおいおい、やけに隣人たちが騒がしいと思ったら帝国のヤツらまだ居座ってるぜ」

「いつものことだろ。でもそろそろ痛い目を見せなきゃなんねぇかもな」

「だな。長に伝えて準備するぞ」

「お前はただ血が見たいだけだろ。いい加減にしろ」

「うるっせぇ。俺は帝国兵どもが喚く姿を見たいだけなんだからよ」

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