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異世界憑依の道具令嬢  作者: 筑紫川やなせ
9/11

それぞれの思惑を露に知らず、彼女は鳥かごに座り続ける

 ボルトン伯爵家廊下。


 栗毛色のメイド、マリーが廊下を進んでいた。歩く速さは心無しかいつもより速く、視線は少し下を向いていた。


 白とグレーを基調とした、荘厳な廊下をしばらく歩き、マリーはある一室のドアノブに手をかける。


 ぎいいという音が響くと、温かい空気がマリーの方向へ流れた。マリーの視線の先には、マリーを見るセンターパートの男と、老年の白衣を着た男性、そしてベッドに座るバレッタの姿があった。


「……お嬢様の容態はいかがでしょうか」


 マリーは淡々とした声で話すものの、少しトーンは高かった。


「とてもひどい状態で、足にひびが入っています。転んだときにぶつけたのでしょう」


 医者はしわがれた声で話し、さらに眉間のシワを深めた。


「……また、足の痛みだけではなく、全身にひどい痛みがあるように見受けられました」


「足に怪我をされる前、なにをされたか聞いてもよろしいですか?」


 医者はひげを触る。その眼光はギラリとしており、見るもの全てを逃さない目をしていた。


 その言葉にマリーははっとして目を見開く。


 一週間前、マリーは一花に毒の痛みについて大丈夫か確認した。彼女は問題ないと答えていたが……。


「まさか、嘘だったのですか?」


 マリーは一花へと問いかけるものの、一花は無言で座るだけだった。


「……どういうことか、詳しく聞かせてもらってもよろしいですか?」


 医者の問いかけにマリーは口をつぐむ。公爵からは、バレッタの毒殺騒ぎを口外しないよう命じられている。


 マリーが沈黙を続けていると、センターパートの男、リジェクトはにやりと笑った。


「おそらく、食事のあとに体調を崩されたのでしょう」


 リジェクトが医者を横目に見る。医者は察したように「そうですか」と答えた。マリーの表情はいつの間にかほっとして緩んでいた。


「それでは、僕はここでお暇させていただきます」


 パーティの喧騒が届かないこの部屋で、しばらく医者がカルテを書き続ける音が続いていたものの、リジェクトの声がそれを打ち破った。


 リジェクトは椅子から立ち上がり、悠然とした足取りでマリーへと向かう。


「アイゼンベルグ公爵に、よろしくお願い致しますとお伝えしてください」


 笑みを浮かべ、リジェクトはドアへと向かう。そして一瞬振り返り、一花へ視線を向けたあと去っていった。


♢ ♢ ♢


「……そうしましたら、診察はこれで終わりですので、退出させていただきます」


 ある程度の処置をしたあと、医者は礼をして廊下へと出ていった。部屋に一花とマリーだけが残る。


「……お嬢様」


 一花が虚ろな目でマリーを見つめる。相変わらず呼吸も一定で、瞬きもせずに笑い続けている。


「……いいえ、何でもありません」


 マリーは目線を下に向けた。なぜ嘘をつかれたのですか? と喉まで声が出かかる。だが、マリーには聞くことが出来なかった。マリーは拳を握る。


「……公爵様に、このことをご報告しに参ります」


 マリーは「控えの侍女を呼びます」と逃げるようにドアへと向かう。そして部屋には一花と、マリーが呼んだボルトン伯爵家の控えの侍女が残った。


♢ ♢ ♢


 扉から出たあと、リジェクトは廊下を歩いていた。


(……さて、あとは計画通りに動くかだな)


 彼は口の弧を三日月にする。


(足の怪我は想定外だったが布石は揃えた。ここからはどうアイゼンベルグの公爵を味方につけるかだ)


 大体の計画は練っているとリジェクトは考えを巡らす。その頭の片端には、あの令嬢の姿がちらりと浮かんでいた。


(……同情か)


 眉をぴくりと吊り上げ、あの令嬢の言葉と表情を思い出す。それと同時に、過去の大人たちが映る。


(……気持ち悪い……)


 リジェクトは何も言うことはなく、淡々と廊下を進んでいった。


♢ ♢ ♢


「公爵様」


 執事の声が、談笑中の公爵の耳に入る。


「……なんだ」


 公爵は貴族に断りを入れ、無表情に返事をした。


「お嬢様がお怪我をされ、医者からパーティを退場するよう指示されたと報告がありました」


 公爵の目がぴくりと動くものの、すぐにそっぽを向く。


「そうか。ならば帰らせておけ」


 公爵はわずらわしそうに返事をする。持っているワイングラスを見つめ、揺れた波紋を見つめる。


(少しはまともになったと思ったが、本当に役に立たないな。あの魔女の血を受け継いでいるだけある)


 婚約破棄され、悪評まで立った娘に、もはや良縁は望めまい。どこかの適当な貴族に嫁がせるかと考えていると、執事が一言付け加えた。


「それと、お嬢様の治療をした第二王子殿下から、よろしくお願い致しますと伝言を承りました」


 公爵は不可解な表情で第二王子、リジェクトを思い浮かべる。王の私生児で、特にこれといった印象もなかった。


(……だが、王族は王族か)


「……わかった。今度礼としてパーティに招待しろ」


 公爵は淡々と執事に伝え、談笑に戻った。


♢ ♢ ♢


 シンセア教宮殿内。


「ーーここ最近、大変忙しいとお聞きですが、体調はいかがでしょうか? 聖女様」


 初老の神官が尋ねると、さらりと舞うミルクティーブラウンの髪の少女が、にこりと可愛らしい笑顔で答える。


「はい。今のところ大丈夫そうです」


「ですが……強いて言えば」


「カイル様との婚約が、うまくいくかどうか不安で……」


 頬を染めて少女は少し俯く。神官はその様子にはっはと笑い、少女へ語りかける。


「未来を視る力があるあなたなら、大丈夫ですよ」


 その言葉を聞いてぴくりと、少女が反応する。


「……ええ。いい未来になると、信じています」


 少女、フィリス・ブライトは可憐に笑った。その目が何を考えているか感じ取ることはできなかった。


♢ ♢ ♢


 一花がいる部屋。一花はぼーっと怪我をした足を見つめ続けていた。包帯が巻かれた足は、少し痛みは和らいだものの、まだじくじくと痛んでいる。


 そして一花は不思議とリジェクトとマリーの言葉を思い出していた。


 一花は、どうしてリジェクトに怒られたのかわからなかった、マリーがあの時何を言おうとしたのかわからなかった、医者がどうして顔をしかめたのかわからなかった。


 ーーいや、全部どうでもよかった。


 一花は虫が顔にとまったのも気にせず、沈んだ目で淡々と笑い続ける。


 鳥かごの枝に座る、人形だ。


 その頃。


 フィリスは、慈愛の表情でペットの鳥に餌を与えていた。

 これで一応一章(プロローグ)は終わりです。一章と書きましたがこのあとの構想では〇〇編みたいな感じで終わります。


 そして、聖女が初めて出てきましたが、作者としては聖女のビジュアルが一番好きです。ミルクティーブロンドで、目が大きくて可愛らしい顔立ちをしている女の子です。いつかイラストを載せたいです。


 最後まで読んでいただき励みになります。この作品は政治劇と心理描写の機微をじっくりと書きます。温かく見守っていただけると嬉しいです。

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