少女たち
ある貴族の屋敷で、きらびやかなシャンデリアが輝き、多くの貴族が社交辞令を言い合っていた。
カツン
ハイヒールの音が響く。貴族の屋敷に、ある少女が足を踏み入れた。紫がかった黒のつややかな髪を流し、ラベンダー色の目を持った、美しい少女であった。
途端に、少女に視線が刺さった。しかし、少女は微笑みを浮かび続ける。
(……わたしは、やることをやるだけ……)
少女は、虚ろな瞳をしていた。
漆黒の髪を持ち、牡丹の着物を着ている少女が瞼を開く。
(……ここは、どこ……?)
薔薇の香りが舞った西洋式の美しい部屋で、少女はベッドに横たわっていた。
「はじめまして」
紫黒の髪を持つ、チョーカーをつけた少女が、ベッドの側の椅子に座っている。美しく笑みを浮かべるものの、ラベンダー色の瞳にはどこか妖しい雰囲気が纏っていた。
「こちらに座ってください」
紫黒髪の少女は、もう一方の椅子を指さした。着物の少女は、人形のような笑みを浮かべ椅子に座った。
「突然呼び出してしまいすみません。実はあなたに、死んでしまった私の悲願を叶えてほしいのです」
赤色の紅茶を回しながら、紫黒の少女は話し始めた。着物の少女は変わらず笑みを浮かべている。
「こんなことを言ってもわからないでしょう。まず経緯から話しますね。私はエラルド王国という、公爵家の長女であるバレッタ・アイゼンベルグと申します。私はこの国の王太子である、カイル様と婚約をしていました」
バレッタは着物の少女を見つめる。カーテンがひらひらと風に揺られ、カーテン越しから二人の影がのぞく。
「ですが、私は国教である、シンセア教の聖女の毒殺未遂の冤罪をかけられ、王家は私と婚約破棄をし、聖女とすぐに婚約をしました。そして、私は口封じに暗殺をされたというのが経緯です」
バレッタは冷めた紅茶をこくりと飲む。紅茶を持つ手は、わずかに震えていた。
「……私はそれが国のためになるのであれば、聖女と王太子の婚約は甘んじて受け入れるつもりでした」
「ですが、私が婚約破棄をされるとき、見たのです。あの女の笑った顔を……」
バレッタは、拳を握りしめた。その顔には怒りがにじんでいた。
「……話が長くてすみません。私はあなたに、私の体に憑依して聖女と王太子の婚約破棄をしてほしいのです。あなたは私の力で呼び出しました。」
「もちろん、目的を達成したあと、あなたを元の世界に帰すと約束します」
バレッタは着物の少女を見つめる。しかし、着物の少女は変わらず虚ろな瞳をしていた。
「……できません」
着物の少女が口を開く。
「私は明日の婚礼の儀の準備をしなければなりません。今すぐ帰してください」
少女は変わらず笑顔でいる。
「…………」
バレッタは着物の少女を見つめ続ける。眉を下げ、無言で。
「……そうですか。ですが、私の力ではあなたをもとに戻すことはできません。あなたが婚約破棄をしないかぎり、元の世界には戻れません」
バレッタは目線を下にやる。着物の少女は変わらず微笑んだままだったが、考え込んでいた。
(……どうしよう……婚礼の儀式の準備ができない……結婚をして子供を産むのが私の義務なのに……)
着物の少女は、自分を叩く母親の姿を思い出していた。
しばらく無言が続いたあと、バレッタは目線を少女に戻し、椅子から立ち上がって着物の少女の手を握った。
「私ができる限り助けます。私の指示に従うだけでも構いません。どうか私の悲願を叶えてくれませんか……?」
その言葉を聞いた瞬間、着物の少女がピクリと反応した。
(従う……? 従う、従う……。……従えば、結婚ができる……義務を果たせる…………お母様の言いつけを守れる)
「わかりました」
着物の少女は虚ろな目でバレッタを見つめる。ただ、その目は、バレッタを見ていなかった。バレッタはそれを聞くとすぐに笑顔に戻り、彫刻が施された椅子に丁寧に座り直した。
「では、これからあなたにしてほしいことを、今できるだけ詳しく説明します」
バレッタは、改めて説明をし直した。
「これくらいでいいでしょう」
二時間くらい詳しい説明をしたあと、バレッタは席を立ち、部屋のドアを開けた。ドアの奥には真っ白な空間が広がっていた。
「このドアを通れば、あなたの魂は私の体に憑依します」
バレッタは着物の少女を見つめる。
「説明のときにも言ったように、あなたは葉山一花としてではなく、バレッタ・アイゼンベルグという人物になることを忘れないでください」
釘を刺すようにバレッタは忠告した。勝手な行動をするなと言うように。
「わかりました」
葉山一花は笑みを浮かべながら、白い世界につながったドアを通った。
ドアが締め切ったあと、静寂がバレッタを包んだ。
「…………」
空気が変わる。バレッタは、先程までとは全く違った雰囲気をまとっていた。
「第一関門は突破ね」
紫黒髪の少女は、椅子に座り紅茶を優雅に飲む。紅茶に映る笑みは、悪魔のように歪んでいた。
自分でも読み返して拙いと感じますが読んでくれると嬉しいです




